KMNZ衣装手がけた「モリオン航空」インタビュー VR時代のファッションとは
2021.07.13
クリエイター
この記事の制作者たち
特撮ファンは言わずもがな、そうでない人にも「仮面ライダーディケイドの人」と言えば、俳優・井上正大とはなんたるかが伝わるだろう。
特撮作品への出演だけでなく、自ら特撮作品のプロデュースも手がける逸材であり、さらに音楽活動にも力を入れるマルチなタレント/クリエイターとして、今なお活躍を続けている一人だ。
そんな井上正大さんは、2026年にソーシャルVRプラットフォーム・VRChatと出会った。現役ユーザーとの交流を経て、5月と7月に音楽ライブを実施。現地で出会ったクリエイターとともに、圧巻の熱量を込めたパフォーマンスを披露した。
そして、勢いはなお衰えない。7月のライブではさらなるイベント開催も宣言しており、VRChat上で特撮ドラマの制作も進めている。多忙の合間を縫って制作を進める、目を見張るほどのバイタリティは、どこから生まれているのだろうか。
筆者は、「いつか話を聞いてみたいな」と思っていた矢先、偶然VRChat内で井上正大さん本人と遭遇。率直な交流を経て、その内に満ちるクリエイティブへの情熱と、VRChatへの希望を感じ取った。
そこで今回、改めてVRChatの中で、井上正大さんにこれまでとこれからについて話を伺った。井上正大さんだけでなく、彼に惹かれて集まったクリエイターにも話を聞き、クリエイティブのフロンティアたるVRChatに、現実でも名を馳せる俳優が魅せられた理由を紐解く。
目次
- わずか半年でド派手な音楽ライブを完走 井上正大のこれまでのVRChat活動
- きっかけは舞台の宣伝動画 井上正大がVRの世界を知るまで
- 初上陸で運命の出会い──井上正大のアバターを作り出したクリエイター・垓交官YUKI
- 「良くも悪くも個人プレー」──動画企画を通して気づいた、VRChatクリエイターの実像
- ハードルと失敗を超えてでも、実現したかった“VRならでは”の可能性
- 音楽ライブ×特撮ドラマが遂に実現した7月の“デバッグ”ライブ
- コロナ禍で痛感した「舞台の弱点」 挫折を経て生まれた新たなエンタメ「レシアの誓い」
- 「作品は“主役”だけのものじゃない」──井上正大が考える、ものづくりの在り方
- 波乱万丈のステージを作り上げたクリエイターたち 演出担当のにむ&舞色が当時を振り返る
- アバター制作とパフォーマンスの二刀流! マルチクリエイター・垓交官YUKIが得たもの
- ベーシスト兼マネージャー・れあが、VRChatの舞台で見たものとは?
- 夢は「半年おきの大きなフェス」──井上正大の野望はこれからも続く
まず最初に、井上正大さんのVRChatでの歩みを振り返ろう。
井上正大さんは2026年2月28日に、Xで「VRChatでワールドとかアバターとか作れる詳しい人いないかな?」と投稿し、それに応じたユーザーと接触。着実に知識を得ていき、3月には自身のVRChatグループを作成。さらにクリエイターとの共同ワールド制作企画「わらしべワールド〜井上正大の世界〜」をスタートさせた。
同年5月には2日間に渡る音楽ライブ開催を計画。複数の会場に、リアルタイムで自身がパフォーマンスしている姿を配信する特殊な方式を採用した、意欲的なライブ開催を狙った。しかし、パフォーマーの姿や演出を会場空間へ送信できず、初日は開催中止。翌日も2時間押しながら、なんとか開催にこぎつけた。
そして7月には、5月のライブのリベンジ公演として音楽ライブ「井上正大デバッグフェス」を開催。1日に開催日を絞りつつ、よりパワーアップしたライブ演出とスムーズな進行を同時に実現させ、無事に公演を成功させている。
7月に実施されたイベント「バーチャルマーケット2026 Summer」にて。井上正大さんは、青山商事の出展ブースでヒーローショーのアクター・監督をつとめた
こうした音楽公演のかたわら、大規模VRChatイベント「バーチャルマーケット」へも協力しつつ、VRChat内で特撮ドラマの撮影も進めている。VRChatに降り立ってから半年足らずで数々の企画を進行している姿は、2024年にVRChatの知名度を一気に引き上げたストリーマー・スタンミさんを思わせるバイタリティを感じさせる。
さて、井上正大さんはなぜVRChatにやってきたのだろうか。まずはVRChatをはじめたきっかけについて尋ねてみると、最初にその存在を知ったのは去年だったという。
井上正大 当時、ちょうどVRコンテンツをつくりたいと思いはじめて、最初はYouTube VRを使おうと考えてたところ、「VRChatってやつがあるんですよ」と教えてもらったんですでも当時は軽く聞き流していましたね。でも、今年初旬に改めて調べてみたら、ものすごい世界が広がっていると知ったんです。それをきっかけに、2月末から本格的にはじめました。
井上正大さん
YouTube VRはYouTubeの一機能で、360度映像などをVRヘッドセットで体験することができる。VRChatのVRモードよりは簡易的だが、スマートフォンをはめ込む簡易型VR機材でも体験できる気軽さがウリだ。当初この形態を志向したのは、井上正大さんの過去の出演作がきっかけのようだ。
井上正大 2019年に「牙狼-GARO-」シリーズの舞台「神ノ牙-JINGA- 転生」を開催するときに、YouTube VRで宣伝動画をつくったんです。そこからずっとVRに興味を持っていて、大変なのは知りつつも、「次はVRでコンテンツを作りたいな~」とは考えていました。それを実行に移したのが2026年だったんです。
つまり、もともとVRに興味があった俳優が、VR実現手法の一つとしてVRChatを知り、乗り込んだ、と言えそうだ。
井上正大さんのVRChat上陸は上記の通り、「Xで詳しい人を探して教えを請う」という一歩からはじまっている。その知名度をもってすれば、最初から専門家や専門企業にガイドをお願いすることもできたはずだ。
そうしなかった理由を尋ねると、苦笑しながら「この業界における“大手”を知らなかったから」だとしつつ、もう一つの理由として「声をかけて来てくれる人に教えていただくのが一番嬉しい」と答えた。たしかに、自分をよく知るファンなどのほうが、なにかを教えてもらうときの心理的なハードルは低い。
こうして、井上正大さんのVRChat初回ログイン時には、X経由で5人の現役ユーザーが集まったという。そのうちの一人が、クリエイターの垓交官YUKIさん。3DCGや音楽など、幅広いジャンルを手がけるマルチクリエイターで、後に井上正大さんのアバター「レシア」を手がけ、ライブではギター担当としてステージに立つ人物だ。
垓交官YUKIさん
彼が井上正大さんへコンタクトを取った理由は一つ。「彼のファンだったから」だ。
垓交官YUKI 元々、私は「牙狼-GARO-」シリーズの大ファンで、同作に出演されている井上さんのことも知っていました。そんな井上さんがある日、Xで「VRChat詳しい人募集!」と呼びかけているのを見て、思わずダメ元でリプライを送ってみたら、数時間後にはご本人から連絡が返ってきたんです。驚いて思わずDMのスクショしちゃいましたよ(笑)。
井上正大さんは、当時Xで声をかけてくれた人には、その日中に連絡を返していたという。憧れの人物から速攻でレスをもらい、VRChat上で井上正大さんと対面した垓交官YUKIさんは、ほどなくして彼に対してクリエイター気質を見出したという。
「VRChatに来るだけじゃなく、ワールドのアップロードまで自分で試していて。とにかく自分で動く人なんだなと思いました」と語る通り、最初の声掛けから後もテンポを落とさず、VRChatを満喫していく。
そんな井上正大さんが初期に仕掛けた企画の一つが、クリエイターとともに一つのワールドをつくり上げていく、連続動画企画「わらしべワールド〜井上正大の世界〜」だ。
井上正大 VRChatの世界に入ってから、つくるのが一番難しいものは、アバターとワールドだと知りました。それをきっかけに、「好きにつくって!」とクリエイターにワールドの土台を渡したらどうなるのか気になり、この動画企画をスタートさせたんです。実際にやってみたところ、参加クリエイターと交流して、どんな人なのか、それぞれどんな個性や得意分野を持っているかを深く勉強することできました。きれいな空間ではなく、いい感じのお部屋ができあがったのは予想外でしたけども(笑)。
なにか指定したものを制作してもらうのではなく、「自由につくってもらう」という投げかけ方はユニークだ。この取り組みからはじめた理由には、VRChatでコンテンツ制作をする上で、どんなものを生み出し得るのかという前提を把握したい意図もあったようだ。
ある程度は遊びの要素も入れつつ、実地でクリエイターとの交流を重ねていく中で、まず最初に挑むコンテンツとして井上正大さんが見出したのが「パーティクルライブ」だ。空間表現を伴う音楽や舞踊などのパフォーマンスを包括的に指す様式で、VRChatでは「Sanrio Virtual Festival」などでもプッシュされる花形コンテンツの一つである。

そして、自身のものづくりの方向性とともに、井上正大さんがもう一つ見出したものが、VRChatで活動するクリエイターの姿勢だ。
井上正大 VRChatでは良くも悪くも、すごい能力の持ち主たちが個人プレーをしていることに気づきました。共存はしているけど、実はそのつながりは比較的緩い。それが一つの文化なんだなと感じました。
だから僕は、「みんなでなにかをつくる」ことを目標として立てていきました。「あの人とあの人がコラボしたら、こんなものができる」といったことを連続で示してみようと思ったんです。
こうして、井上正大さんはVRChat上でパーティクルライブ公演を実施するべく動き出す。そのために招集されたのが、パーティクルライブに精通したクリエイターたち。インタビューに同席した舞色さんとにむさんが、その面々に含まれる。
舞色さんによれば、彼が井上正大さんとはじめて会ったのは4月11日。最初に井上正大さんと出会った5人のうちの一人、バーチャルシンガーのL*auraさんづてで紹介されたという。
舞色 4月11日の朝2時くらいに、L*auraさんから急に「明日空いてる?」って連絡が来て、なにかと思って詳細を聞いたら、このライブの制作打診だったんです。5月9日に本番とまで伝えられて面食らいましたが、気になったのも事実なので、とりあえず話を聞きに行きました。
舞色さんと同様の経緯で、クリエイティブ/パフォーマンスユニットの「ジビエーズ」も合流したという。一方のにむさんの参加経緯は、偶然の出会いだったようだ。
にむ 私の場合、たまたまフレンドがいる場所に飛び込んだら、このライブの会議をしているところだったんです。思いっきり目の前に井上さんがいらっしゃったんです(笑)。そこで少しお話しをした後、パーティクルライブができることを買われ、その場で制作メンバーに採用されましたね。
こうして制作クリエイターが続々と集まっていったが、実作業を開始できるまでには少し時間がかかったため、実際の制作期間は半月ほどだったという。当然ながら突貫工事であり、結果として、5月の初戦は冒頭で記した通り、多くの課題が残るものになった。
5月のライブの様子。3曲目で全ての演出が停止し、リカバリーを兼ねたMCパートのあと1曲目から“再演”された
井上正大 正直なところ「もっと完璧なものを見せたかった」とは思う結果になりました。けれどもそれ以上に、一緒に走ってくれた仲間たちへの感謝の気持ちが強かったですね。どういう形であったとしても、まずはひとつ完走できたことに意味があったと思いますね。
プロの興行として見ると、見切り発車な制作/公演には厳しい目が向けられそうだが、実のところVRChatの有志制作では、ドライブ感だけで突っ走る案件がたまに起こる。好意的な解釈ではあるが、“一人のVRChatユーザー・井上正大”が挑んだ、初のVRChatライブとして見ると、5月のドタバタぶりと熱狂の共存も納得できるだろうか。
もっとも、今回井上正大さんが実施したライブ公演は、そもそも技術的な難易度が比較的高い。その理由は、本ライブが「複数インスタンス間の同期」を実装したところにある。
VRChatは、3DCG空間であるワールドそのものではなく、ワールドから生成された「インスタンス」と呼ばれるものへ入場する方式となっている。オンラインゲームにおける、各プレイヤーが参加するサーバーが、概念的にはインスタンスに相当するものだ。
そして、一つのインスタンスに入場できる最大上限人数は、基本的には80人(2026年8月時点)。よって、VRChatで開催するイベントには「80人までしか参加できない」という制約がつきまとう。そして、この80人にはイベント関係者も含まれる。
この上限を超えてライブを体験してほしいという思いから、井上正大さんは「複数インスタンス間の同時上演」を希望した。そのために、VRChatを主軸に活動するシステム開発/イベント企画チームが開発していた、複数インスタンス同期システム「WorldSync」の採用を決めたという。
井上正大 「リアルとVRライブの融合」をみんなで同時に見る、ということを今回のライブでは実現したかったんです。舞色さんには、事前収録データを再生する方式が事故が少なくて望ましいと反対されてたのですが、“そこに存在してる感覚”は収録データの再生では感じにくいものです。だからこそ、生で届けるライブにこだわりました。
しかし、舞色さんの懸念通り、当日は1000人以上の人が殺到。その影響もあってか、公演は中止及び開催遅延を招いた。結果が振るわなかったことに対し、活動意欲が失われることはなかったのかと聞いてみたところ、井上正大さんが「逆に火がついた」と語った。
井上正大 紆余曲折ありましたが、1000人以上がVR空間で同じ体験ができたことには大きな可能性を感じましたし、同時に1000人以上もの人たちをたくさん待たせてしまいました。だからこそ、次は完璧なものを作ろうと決意しました。
また、ライブ後の出来事も少なからず影響したようだ。無事に開催までこぎつけた5月の公演では、ライブ終了後に参加者とのグリーティングを実施しているのだが、時刻は深夜2時過ぎながら、30個ほどの会場インスタンスを全て巡ったという。

とてつもないバイタリティを感じるが、海外でファンミーティングを重ねていた井上正大さんにとっては、VRグリーティングは「むしろ楽」だったそう。
井上正大 現実の一般的なファンミーティングは、ステージ公演が終わってから5時間くらいかかることもめずらしくないんです。それにリアルだと、サインを書いている時は座って、写真撮るときは立つ、を繰り返します。でも、VRだったら立ったり座ったりしなくていいし、移動はコントローラーのスティック操作でできるので、歩かなくていいんです。たくさんの人とも出会えましたし、その意味でもVRにさらなる可能性を感じましたね。
ちなみに、このグリーティングにはステージ上に立った垓交官YUKIさんも同行している。深夜2時からの膨大なグリーティング敢行には「マジで言ってんの?」と思ったそうだが、後にこのエピソードを聞いて「我々とはそもそもの基準が違う」と気づき、目線合わせなどのきっかけになったようだ。現実の著名なタレント/アーティストとVRChat住民の協働における、重要なヒントが読み取れるエピソードと言えるだろう。
ここから先は、KAI-YOU Premium会員限定です
残り文字数
10,501 文字
残り画像枚数
15 枚
記事の続きでは、以下のトピックをお楽しみいただけます
他4トピック
※初回登録の方に限り、無料お試し期間中に解約した場合、料金は一切かかりません。
様々なジャンルの最前線で活躍するクリエイターや識者を中心に、思想や作品、実態に迫る取材をお届け
様々な記事の中から編集部で厳選したイチオシ作品をご紹介
「KAI-YOU Premium」 3代目編集長/ラッパー
現代の日本の音楽シーンを語るなら、ボカロ文化は不可欠。2020年代のボカロ曲において、音楽的な独自性はどこにあるのか? 柴那典さんが「MAJ2025」受賞候補曲から考えます。
ライター
『ブルーアーカイブ』の青い色彩設計、そしてエデン条約のストーリー。この2つを柱に日本のサブカルチャーがアジアにどんな影響を与えたか、韓国でどう花開いたかを紐解きます
ライター
ぶいすぽっ!所属の蝶屋はなびさん。普段から前向きな姿勢を崩さない彼女のひたむきさはどこから来ているのかうかがいました。格ゲートークも充実!
編集
語られざる、違法な海賊版トレーディングカードゲームの歴史。世界広しと言えども、この解像度でその歴史を紡げる人は、SF作家・ゲームコレクターである赤野工作氏しかいない。
編集
結局、同人誌って違法なの? 実在する「VTuber」の二次創作、もしかして肖像権侵害や侮辱罪に当たっちゃう? 令和版、同人文化への最新の法的動向を弁護士に根掘り葉掘り聞いてます。
編集
日本語ラップを、構造的に理解する──音楽としてでもライフスタイルとしてでもない、新しいヒップホップの解釈を提示してもらっています。
編集
オタク/ラップのトップランナーだからこそ語れる“ニコラップ”の世界。懐かしいだけじゃなく、今に接続される話になっています。
ライター・編集者
減らないVTuberの活動休止について、根本的な原因を九条林檎さんに聞きました。推しのVTuberがいる方は、ぜひ読んでもらいたい内容です。