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  • 2019.04.15

現代韓国文学が抱えているのは“生き辛さ“だけではない

『82年生まれ、キム・ジヨン』の大ヒットに象徴されるように、韓国の抱える問題意識は世界的に共感を得ている。

しかし、韓国文学・文芸作品の魅力は必ずしも“生き辛さ”に集約されない。

現代韓国文学が抱えているのは“生き辛さ“だけではない

Jongno_Books_06 by Republic of Korea, on Flickr

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現代韓国文学ブームが来ている。

複数の出版社から現代韓国文学レーベルが立ち上がり、書店では関連イベントやフェアが数多く組まれている。アジア人初のブッカー賞受賞作となったハン・ガン『菜食主義者』(クオン)や、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)といったヒットタイトルは、韓国文学に特別な関心がなかった人でも耳にしたことがあるのではないだろうか。

よく知られている通り、韓国の自殺率は世界でもトップクラス。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも、最悪の水準を10年以上維持しており、現在も10万人当たり25.8人という高い自殺率となっている。日本も16.6人と高い数字だが、それでも韓国とは大きく差がひらいている(Health status - Suicide rates - OECD Dataより)。

これら韓国の文芸作品がにわかに注目を集めているのは、自殺大国・韓国における“(特に女性の)生きづらさ”を可視化しているからだ。

その生きづらさの背景には、女性や社会的弱者への抑圧を生み出す韓国社会特有の問題がまずはある。そして現代においては、もはや全世界的ともいえる消費社会の拡大によって生じる“余裕のなさ”もまた、その生きづらさに拍車をかける。グローバル化にうまく対応したことで生じるひずみが、現代韓国社会の課題となっているのではないか。

執筆:松本友也 企画協力:瀬下翔太 編集:新見直

目次

  1. リアリティとポップの並立
  2. 愛すべきぼんくら小説
  3. 親しい関係のなかで際立つ“知らなさ”
  4. 「ヘル朝鮮」をチャーミングにゆく

リアリティとポップの並立

筆者自身が現在の韓国文学に触れたきっかけも、グローバルシーンを背景とする韓国のポップカルチャーだった。具体的には、第3次韓流ブームの端緒となったアイドルグループ・TWICEが最初の入り口だった。

はじめに韓国のポップカルチャーに触れて驚いたのは、それが現在の10代・20代のリアリティをしっかりとすくい取りつつも、マイナー文化の範疇に留まることなく、グローバルシーンでも通用する洗練と普及を伴っていたことだった。

TWICE

それはアイドルやK-POPに限らず、ファッションや映像、出版なども含めたカルチャー全般についても言える。

たとえばインディペンデントマガジン『OhBoy!』(外部リンク)。日本でいえば『STUDIO VOICE』(スタジオ・ボイス)に近いテイストのカルチャー誌だが、テーマとして環境保護や動物保護を掲げている点が特徴となっている。

TWICEをはじめ人気アイドルのファッショングラビアも掲載され、デザインも完全に商業誌のクオリティでありながら、基本的には広告収入で運営され、母国では無料で頒布されている。

初めてこの雑誌を手にした時、率直に言って戸惑った。社会に対して“まじめな”問題提起を行うインディペンデントマガジンでありながら、グローバリズム・商業主義の極北とも言えるK-POPアイドルとコラボレーションを行う。筆者の(あるいは日本の?)なかでは自然に矛盾するものとして捉えていたリアリティとポップが──もちろん韓国における評価やコンテクストは把握できていないが──そこでは奇妙に共存しているように思われた。

筆者の韓国文学との出会いは、その背景にあるこうした韓国カルチャーの経験と切り離せないものだった。グローバル水準のポップカルチャーと、厳しい現実を生きる個人のリアリティがどのように並立し得ているかいかにして現代生活の生きづらさのリアリティを維持したままで、ユーモラスであることができるのか。この問いはそのまま、韓国文学の持つ魅力を掘り下げる上で、一つの指針になるはずだ。

なお、本シリーズは前編・後編に分けてお届けする。前編にあたる今回は、短編とエッセイを3作取り上げたい。後編では、ボリュームのある長編小説を取り上げる予定となっている。

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