若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
韓国の芸能とバラエティを語る上で外せない、あるジャンルの勃興。そこから見えてくるのは、彼らの掲げる“真正性”という理念だった。
「韓国ポップカルチャー彷徨」連載、最終回で、これまで見てきた韓国文学や映画で描かれてきた人々を生み出してきた背景と、その問題意識に通じる精神を改めて問いかける。
韓国の芸能とバラエティを語る上で無視できないのが、数年前より流行している「観察芸能」というジャンル。番組制作側によるテレビ的な企画や演出を極度に減らし、芸能人が普段どおりの自然な姿で過ごす様子を覗き見るスタイルの番組だ。
2017年に行われた「韓国人が好きなTV番組」の調査では、TOP10に入った7本のバラエティ番組のうち、5本が観察芸能番組という人気ぶりとなっている(参照:スンデ新報)。
観察芸能番組の代表例は、たとえば独身芸能人の私生活に淡々と密着する『私は一人で暮らす』、芸能人パパが母親抜きでの子育てにチャレンジする『スーパーマンが帰ってきた』(いずれも2013年に放送開始)。いずれも有名人の私生活をのぞき見る感覚が好評で、高視聴率を記録した。
もともと韓国では2000年代半ばから、芸能人がスタジオでさまざまな課題に挑戦し、素の人格をさらけ出す「リアリティ」番組が流行していた(2005年から2018年にわたって放送された長寿人気番組『無限挑戦』などが代表例)。
リアリティ番組において、芸能人が必死にゲームやクイズに取り組む姿を見せるのは、番組に刺激や笑いを生み出すためだ。対して、観察芸能が目的とするのは、芸能人が見せる自然体の姿に視聴者が共感し、癒やされることである。観察芸能の番組が時に「ヒーリングバラエティ」と呼ばれる所以もそこにある。
観察芸能が想定する視聴者は、芸能人が番組側の用意したプログラムに則ってパフォーマンスする姿ではなく、生活や旅といった自然な行為に自分たちと同じように取り組んでいる姿を見て楽しむのである。
日本の番組で近いものとしては、「電波少年シリーズ」や『いきなり!黄金伝説。』などが挙げられるが、これらの番組における過酷な旅や生活はあくまでも「無謀な挑戦」であり、視聴者が疑似体験できるようなものではない。どちらかと言えば近いのは、YouTuberによる「モーニングルーティン」などの生活配信系動画だ。
こうした観察芸能が、同じように癒やしと共感へのニーズが高いはずの日本ではそれほど生まれず、韓国で爆発的に増えているのには理由がある。そのひとつが、韓国のテレビ業界特有の事情である、広告収入と制作費の問題だ。
韓国では放送法上、番組の途中にCMを挟むことが原則できず、番組の前後にまとめてCMが入る(最近では例外的に1分や30秒など決まった時間の広告が入るケースもある)ため、そもそも広告収入=制作費が潤沢ではなく、前提として低予算・少人数スタッフで番組を回す必要がある。
そのため、ドラマに比べて制作費が安価で、かつ視聴率の安定しているバラエティ番組を優先して放送するようになっていった。韓国のバラエティ番組の放送時間が軒並み90分以上と長時間で、近年では1回2時間超の番組もあるのはこうした事情からだ。
そしてもうひとつの理由は、下手をすれば単なる生活のたれ流しになりかねない「観察芸能」ジャンルにおいて、番組を上質なエンターテインメントとして仕上げる法則を確立した、あるプロデューサーの存在である。
執筆:松本友也 編集:瀬下翔太 編集補佐:新見直
目次
- 観察芸能の成功の鍵は、出演者・スタッフの高いコミットメント
- 観察から感情移入へ──視聴者のコミットメントを引き出す
- 等身大の悩みを「観察」する
- 「真正性溢れる(オーセンティックな)エンターテインメント」
- なにが真にオーセンティックなのか
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