韓国映画が描く“おじさん“たちの命運 出口のない夢が突きつける現実

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  • 2019.08.09 18:00:00

日本以上に強い“父性”が生き残ってきた韓国社会も、その反動に晒されている。

みっともない中年男性がどう描かれ、彼らはどんな夢を抱いてきたのか。エンターテインメントという形をとって撃ち抜かれるその内情。

韓国映画が描く“おじさん“たちの命運 出口のない夢が突きつける現実

本連載前半では、シビアな社会情勢からとりこぼされてしまう人々を、韓国映画がいかに描いてきたかを確認した。

韓国社会といえば日本以上に父権が強く、中年男性が力を持っているという印象が強い。近年ではフェミニズムの隆盛など、そこへの反発の動きも可視化されてきているが、特に文学や映画の領域では、男性社会への反発や、男性の弱さを描く作品がよく見られるようになってきた。その中でも興味深いのは、必ずしも直接的に父権が批判されるわけではないにも関わらず、男であることの脆さや虚しさが浮かび上がってきてしまう作品だ。

後編となる本稿では、韓国映画に描かれる中年男性の現実感覚を、現実と虚構のあわいを操作する「夢」というモチーフに着目しながら確認していきたい。

『アバンチュールはパリで』(2008)

ダメ男映画を撮らせたら右に出る者がいない、ホン・サンス監督による『アバンチュールはパリで(原題:Night and Day)』(2008)をまずは取り上げたい。

ホン・サンスは絶妙な会話劇と人間観察力で、本作の舞台であるフランスを始め、全世界の映画ファンから支持されている監督。近年では女優キム・ミニとの不倫がスキャンダルになるも、そこから彼女を主演女優に据えた作品を送り出している。

ミューズたるキム・ミニとの出会い以降、女性の登場人物へのフォーカスがより強まったとも言われるホン・サンスだが、今回取り上げるのはそれ以前の作品。韓国社会としても、フェミニズムや体制批判が市民権を得て勢いを持つようになる2010年代半ばと比べて、良くも悪くも牧歌的な印象のある時期だ。

本作の特徴は、舞台がパリでありながら、パリらしい華やかさや洗練をまったく感じさせないことだ。主人公の中年画家・ソンナムは、大麻を吸ったことが警察にバレるのを恐れ、韓国に妻を残してひとりパリへと逃げる。現地に着いてからも、フランス人と交流するでもなく、絵を描くでもなく、韓国人の集まる下宿でだらだらとモラトリアム生活を送る。カップルを見て「もうあんな恋はできない」とぼやいてみせたかと思えば、すれ違った韓国人女性の脚を凝視する。

ソンナムはひたすらに欲求に忠実で、他人に嫉妬し、うまくいかないと周囲に当たり散らしては、怒られてすぐに凹み、安易に後悔を吐露してみせたりもするどうしようもない中年男として描かれる。

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