LGBTQ差別はなぜレゲエに深く根差してきたのか? ヘイト騒動に巻き込まれたMINMIインタビューも
2022.11.05
政策や数値からは紐解くことができない、ある物事や現象を取り巻く“空気感”としか呼びようがないものは確実に存在する。
「韓国カルチャーがアツい」としきりに叫ばれながらも、その実ブラックボックスな隣国のユースカルチャー。若き韓国人DJ/プロデューサーが慎重に語ってくれた、韓国音楽が抱える“一側面”は、日本から眺めた印象とは隔たりがあった。
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韓国のBTSをはじめとしたK-POPがUSチャートを席巻し、西洋視点のオリエンタリズムを乗り越え、グローバルマーケットのなかでひとつのジャンルとして受け入れられているのは、広く知られた事実だ。
KOCCA(韓国コンテンツ振興院)のレポート「コンテンツ産業展望」によると、韓国のコンテンツの輸出規模は世界3位となり、まさにエンターテインメント輸出大国へと躍り出ている。このような韓国エンターテインメントの成功をみたとき、レーベルの戦略や国策レベルで推し進められる文化振興は重要な側面であり、そのような視点の議論も大いになされている。
肌寒くなりはじめた初冬の渋谷では、Jay Park(※1)が代表を務める人気ヒップホップレーベル・H1GHR MUSIC所属の人気ラッパー・HAONやpH-1が公演を行っていた。ここでも多くの若者が集まり、踊り、夜を無軌道に楽しむ彼らの姿は、韓国の音楽がいかに国境を超えているかを、身を以て教えてくれた。
彼らとともに来日しDJとしてプレイしていたのが、弱冠22才(韓国の数えでは23才)、DJ/ビートメイカー/プロデューサーのAVINだ。HAONやユンナなど、人気アーティストのプロデュースを手がけ、韓国人初としてEDC LASVEGASに参加するなどDJとして活躍している。
今月リリースした自身初のアルバム『TRANCHE』は、HAONやpH-1、JUSTHIS、SE SO NEONのSo!YoON!、Dbo、Mad Clown、sokodomoなど、韓国音楽シーンの最前線をゆくアーティストを招いて制作された。
渋谷でのパフォーマンスを終えたAVINに、韓国を取り巻く現場の音楽シーンについて何やら面倒な疑問を様々投げかけた。韓国のユースと現在進行形で向き合う彼は、筆者の予想に反して「韓国国内のシーンは停滞している」と語る。
新鋭の音楽プロデューサーに聞いた、文化政策からは見えないローカルシーンの現場。膨れ上がる韓国エンターテインメント産業が生む、固有の歪みと希望。
※1:ジェイ・Zが代表をつとめるレーベル Roc Nationと契約する唯一のアジア系アーティストであり、K-POPダンスグループ2PMの元リーダー。レーベルAOMGとH1GHR MUSICの設立者。韓国を代表するヒップホップアーティストにしてビジネスマンでもある
取材・執筆:和田拓也 編集:新見直 インタビュー撮影:南虎我 通訳:Song Byeong Cheon 取材協力:MAPS Magaizne
目次
- 音楽家が映し出す、韓国社会の「怒り」と「一部分」
- 欧米への扉を開いたBTSとBLACKPINK 異なる流れにあったKeith Ape
- ヒップホップが大衆化したのではなく、ラップが大衆化した
- 「韓国国内のアンダーグラウンドシーンは停滞している」
- 戦略を超えた、運命的なものがシーンをかたち作る
──AVINさんがビートメイク/プロデュース業を始めたのはいつですか?
AVIN 正式にではないんですが、16歳ですね。SE SO NEON(※2)のボーカル&ギター、ソユン(So!YoON!)をプロデュースしたのがはじめてです。
──SE SO NEON。今年のサマーソニックでも来日していますよね。
※2:ソウルで結成された3ピースのインディロックバンド。ブルース、ジャズ、サイケデリック・ロックからニューウェーブ、シンセ・ポップまで、幅広い音楽的影響を反映した独特のヴィンテージ感があるサウンドを追求する。2019年に開催されたサマーソニックにも出演した
AVIN そうそう。彼女とは同い年で中学からの友達なんです。
韓国には基本的に高校受験がなく、普通は一般の高校に進むのですが、芸術に特化した特別な学校があります。そこに合格するために同世代の音楽をやっている友達は塾に行っていたんですが、僕とソユンはそこから離れたかった。それで2人で曲をつくってたんですよ。
──高校生で渡米、ロサンゼルスの音楽大学「Musicians Institute」に進学してますよね。
AVIN 韓国の大検を16歳でとったあとに親が飛行機代だけ出してくれて、ひとりでアメリカに行きました。留学が終わる頃には、良いオファーをもらえるようになっていたかなと思います。
──23歳という若さでだけでなく、プロデュースするアーティストや楽曲のジャンルは多岐に渡りますよね。
AVIN そうですね。DJとしてはエレクトロをメインに活動していますし、制作する楽曲もそこがベースです。ただ、あまりそこに固執せずに楽曲を作ってますね。
──アルバム『TRANCHE』もかなりゲストアーティストが幅広いですよね。今回どのようなコンセプトでアルバムを制作したんでしょう。
AVIN エレクトロをサウンドの下敷きにしていることは変わりないんですが、そこに自分の様々な感情をのせてそれぞれの曲に反映させていきました。
──感情ですか。
AVIN そうです。愛や悲しみ、怒りなど、音楽に対する自分の様々な感情の一部分を、それぞれのアーティストの声を通して表現しています。
一連の楽曲をすべて聴くと、サウンドが全体的にエレクトロに収束するのと同じく、僕自身の感情が集まった「This is AVIN」といえる作品になっていると思います。
フランス語で「一部分/一欠片」という意味の『TRANCHE』をメインテーマ、かつアルバムのタイトルにした理由がそこにあります。
──表現した感情の一部分である「怒り」について聞きたいのですが、特にHAONとMad Clownをフューチャリングした楽曲「GROTESQUE」は、歌詞もサウンドも激しい怒りに満ちている印象を受けます。
AVIN そうですね。ただ怒りと言いつつ、「50年後、脳が社会を支配する」世界が訪れたとき、「怒り」や「欲望」をどうコントロールすべきか、ということをテーマにしています。
例えば、座ったまま「開いて」と思えばドアが開くといった、脳を通して意思の伝達をできる世界です。
──脳が社会のネットワークに組み込まれる未来がおそらく来るだろうと。
AVIN そうです。それはSFの世界ではなく、現実的に考えられることです。それぞれに欲望や主張があり、それが原因でお互いに奪い合う人間が、そうした世界に「怒り」や「欲望」を野放しにしたまま突入してしまうと、いま以上に怒りや欲望が世界を支配してしまうでしょう。
近未来がモチーフではありますが、「今のような争うばかりの世界に意味はない」と、怒りと欲望をコントロールする術を楽曲で表現することを主眼に置いています。
「GROTESQUE」は、HAONとコーヒーを飲みながら話をして発展させていったんですが、彼の哲学的な側面がこの曲のモチーフに繋がったのかもしれないですね。この楽曲はHAONと1日でレコーディングを終わらせたんですが、それも含めて印象に残った仕事でした。
──「怒り」にどう対処するかの提言は、AVINさん自身が普段感じている「怒り」があるからなんでしょうか。
AVIN そうですね。まず、いま韓国全体が怒りに満ちていると感じています。その怒りがどこから来ているかを考えたとき、大きな問題よりもそれぞれのミクロな問題から生まれて、大きく拡散しているような気がするんです。
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