匿名性の嵐の中で、僕らは

Interview

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  • 2020.03.04 19:00:00
匿名性の嵐の中で、僕らは

カンザキイオリ インタビュー前篇はこちら。

ネット発の文化の特徴である「匿名性」。

顔や実名を出さずとも、あるいはクリエイターのパーソナリティに左右されずに「作品」が評価される仕組みは、利点として持て囃され、実際に多くの人々にとって希望となった。

一方で、インターネットにおける匿名であることの美学は強烈な同調圧力にもつながっている。「ネット出身のアーティストが顔出しをする」ということは少し前には考えられず、批判の対象にもなった(今や誰もが知る存在となった米津玄師だってそうだった)。

そんな嵐のような匿名性に覆われる現在。時にはクリエイターが本当に打ち明けたい「本心」すらも覆い隠してしまう。そして、カンザキイオリは、ボーカロイドとVTuber(VSinger)という、特にそんな匿名性が重要視されるシーンで頭角を現した音楽家だ。

そんな中、彼が音楽以外に目をつけた表現に「小説」があった。

「花譜にとって花譜らしい楽曲」

──花譜さんとの楽曲で、特に思い入れのある楽曲はございますか? 作曲の際のエピソードなどもあれば、おうかがいできますと幸いです。

カンザキ 「そして花になる」は、他の曲のつくり方と違いました。この曲はクラウドファンティングのお礼として、観測者(花譜のファンの名称)への感謝を込めた曲なんです。

花譜 #27 「そして花になる」

カンザキ だけど本当の感謝って、花譜本人じゃないと表現できない。クリエイティブや作品によってかっこよくしたり、かわいくプロデュースすることはできるかもしれないけど「感謝」を表現することは裏方の僕やPIEDPIPERさんにはできないと思ったんです。

だからこの曲をつくる前に、花譜本人に綿密なインタビューを行いました。なぜ歌を歌うのか、活動を通して心の変化はあるか──とか。これまで以上に、花譜本人の気持ちや考えを深く汲み取って歌詞を組み立てた。

そのおかげで「そして花になる」は、他の曲よりも「訴えかけるレベル」が違うような気がしています。これまでの作品も、全て彼女の曲であるのは間違いない。でも、この曲は彼女が歌うことで価値や可能性を成す、本当の意味で花譜の曲になっていると思うんです。

──PIEDPIPERさんも作品をつくる上では重要な存在になっているのでしょうか?

カンザキ KAMITSUBAKIのVSingerに提供する楽曲は、基本的にPIEDPIPERさんから要望を受けて、ラフをこちらから提案する形で曲をつくり上げています。

例えば花譜であれば、僕は「こんな楽曲が素敵だな」という観点から、PIEDPIPERさんは「花譜にとって花譜らしい楽曲とは何か」というそれぞれの観点から相談しながら作品づくりを行なっています。

彼は、心から世界を変えようと動いている人です。宗教的なことを言っているわけではなく──信念を持って僕たちにぶつかって、戦って、相談に乗ってくれる。心強いです。

D2Cは、本当に欲しい人に届けるためのシステム

──KAMITUBAKIからリリースされる作品は、全国的な店舗では販売されずに、特定のECサイトや展示会などを通して、直接ファンに届ける形式となっている(D2Cと呼ばれるビジネスモデル)のも特徴的です。そのように、直接ファンに対して作品が届くことについて、カンザキさんはどのように考えていますか?

カンザキ クリエイターとしては、本当の自分のファンの熱意が、限りなく直で感じることができるのが良いところだと思います。

ネット通販のお金の取引──クレジットカードとかコンビニ支払いとか、そういう手続きって全部めんどくさいですよね(笑)。めんどくさいから、本当に欲しい人しかやらないんです。だから購入してくれた人たち全員、本当に僕の曲を好きになってくれたんだという確信が持てて、すごく暖かくなれます。仲介業者などもほとんど通さず販売しているので、ファンの存在を身近に感じることができるのは大きいです。

人生はコメディ.jpg

2月19日に発売された小説&EP『人生はコメディ』もKAMITSUBAKI STUDIOのBOOTHで限定販売されている

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