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2022.11.05
細田守が監督をつとめ、2015年に公開された『バケモノの子』。
作中の本棚から紐解く、その意図とメッセージとは?
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『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』──作品を重ねるに連れて徐々に観客の世代を広げ、今ではいわゆる「国民的」作家になりつつあるアニメーション監督・細田守監督。
2015年7月に公開された『バケモノの子』では、人間界「渋谷」からバケモノたちが生活する異世界「渋天街」へと迷い込んでしまった孤独な少年・九太と、渋天街の中でも1、2の強さを持つバケモノ・熊徹との交流と成長を描いた。
スタジオジブリ・宮崎駿の映画がそうであったように、“ポスト宮崎駿”と呼ばれる細田守のつくる映画もまた、物語の中に文学的な感性を覗かせている。
映像の背景に本や本棚が登場するシーンも少なくなく、細田守作品特有の細やかで繊細な映像故に背表紙の文字が読み取れるものも多い。『バケモノの子』の絵コンテには、そのシーンに登場する本のタイトルが細田守の直筆によって指定されている。
それらの本と本棚は、ただの飾りとして映像の中に存在するのではない。本と本棚が、その本の所有者の内面をこっそりと表現していたり、登場人物が“他でもないその本”を手に取ったことに特別な意味を演出していたりするのだ。
つまり、そこにはつくり手の意図が確実に隠れされている。
『バケモノの子』では、物語の鍵を握る象徴的なモチーフとして小説が登場し、これまでの作品以上に文学的な要素が前面に表れている。
細田守が本と本棚による演出を通じて表現しているものとは何か。『バケモノの子』の劇中で特に鍵を握る、ハーマン・メルヴィルの名著『白鯨』を中心に考察していく。
※本稿は、2016年7月に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの
まずは、これまでの細田守作品にはどのような本が登場していたかを見ていこう。
前作『おおかみこどもの雨と雪』は、主人公の女性・花がおおかみの子ども(雨と雪)を育て上げるまでの物語だ。花の本棚は、彼女のライフステージ(大学生時代・出産期・子育て期)の変化に応じて、収められている本が移ろいゆく。
大学時代の本棚には『尾崎翠』や『神智学』、中原中也や宮沢賢治、ヘッセの詩集など、偏差値が高そうな文系大学生らしい本が並ぶ。
妊娠・出産期に入ると、それらの小説や詩集に交じって『お産って楽しいね』や『妊娠中の食事と栄養BOOK』などが加わり、子どもたちが産まれてからは『ぐりとぐら』や『100万回生きたねこ』などの児童書ばかりが本棚を埋め尽くすようになる。その時期の花の関心事や、彼女の人柄が、本棚からなんとなく読み取ることができるようになっている。
前々作『サマーウォーズ』の背景に登場するのは、家の年長者である栄おばあちゃんの本棚だ。そこで表現されているものの一つは、栄おばあちゃんの高い教養だろう。『折口信夫全集』や『芳賀登著作選集』などの全集モノが数多く並んでいる。
佳主馬がパソコンを持ってこもっている部屋は書庫(兼物置)で、その部屋の大きな本棚には『伊豆の踊り子』『ビルマの竪琴』などが収められている。函に入った全集ものが並んだ背の高い本棚には独特な重厚感があり、それが栄おばあちゃんというキャラクターの人物像を印象づける要素の一つになる。
例えば、テレビ番組のVTRで学者さんが学術的見解を述べる際、研究室の本棚を背景にしてコメントしていることが多い。そうすることで視聴者はその学者に対して「この人なんとなく賢そう」「学識がありそう」という印象を持つ。それと同じ効果で、戦国時代から数百年以上続いている陣内家十六代目の当主という肩書きを持つ栄おばあちゃんの教養の高さを、本棚を使って演出したわけだ。
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