Interview

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  • 2022.03.19

なぜ美術史家は「プリキュア」を面白いと思うのか?

なぜ美術史家は「プリキュア」を面白いと思うのか?

ロマン主義絵画史と近代挿画史を専門に、「神絵師になりたい」という学生向けにも講義を行う美術評論家・松下哲也さんへのインタビュー。

前編では、松下さんが大学でどのような講義をされているのかをうかがう中で、キャラクターデザインの源流が西洋美術にあるという点にも触れた。

後編ではさらに、現代ポップカルチャーにおいて注目するべき表象とは何かについて、話題が広がる。

目次

  1. 美術界における「キャラクター表現史」は存在しなかった?
  2. アートの転換点 “教養ゲーム”からエンタメへ
  3. 研究における制約? ポップカルチャーを扱う難しさ
  4. 「プリキュア」は変化がないから面白い
  5. なぜ「美少女イラストはエロい」とされるのか 答えは美術様式史にあり
  6. 様式が換骨奪胎され、新たな表現になる時

美術界における「キャラクター表現史」は存在しなかった?

──松下さんがキャラクター表現史を研究分野とされたのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?

松下哲也 僕の属している学会や論文を発表している学会誌で言うと、僕の専門は「近現代美術史」ということになるんですよ。

その近現代美術史の中でも、ヨーロッパの主に英語圏とドイツ語圏でロマン主義が開花した時代──18世紀の末から19世紀の真ん中──の絵画と挿画が一応専門ということになっています。

僕も子供の頃から漫画やアニメにどっぷり浸かっていたので、学生時代には漫画論やアニメ論を趣味で読んでいました。ポップカルチャー論や研究・批評、例えばキャラクター論は主に漫画研究やメディア論、社会学、表象文化論、または哲学思想系の研究者の手によって書かれるのが主流でした。いわゆるゼロ年代批評の流れですね。

美術大学で美術の理論や歴史を勉強していた傍ら、そういった本を読んでいるとき、ふと「美術研究の人が書いているキャラクター論が一つもない」と気がついたんです。

キャラクターデザインって、アートではないけど絵であることは確かですよね。だから、例えば美術史学とか芸術学において、キャラ絵の歴史や理論について書くのはそんなに突飛な発想でもないと思うんですよ。

けれど美術史学や芸術学では研究対象がファインアートだからか、僕の知る限り一人もそういった研究をしていなかったんですね。だったら自分がやろう、と。

松下哲也氏には、Zoomで取材を行った

松下哲也氏には、Zoomで取材を行った

アートの転換点 “教養ゲーム”からエンタメへ

──それでは、研究分野としてのキャラクター表現史とはどのようなものなのでしょうか?

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“教養ゲーム”としてのアートからエンタメへ