最後の砦としての“MCバトル”に起こっている変化 ハハノシキュウ「U-22 MCBATTLE」レポート
2022.12.02
2020年に公開された日本のヒップホップの中でも随一の人気曲となった韻マンの『Change My Life』誕生秘話。
そしてインタビュー中、唯一、韻マンが語らなかったこと。それぞれのリアル。
「俺は韻マン、韻が好きだからただ踏んでるだけ」
これは、2019年に行われた「U-22MCBATTLE」の第4次予選の決勝で向けられた、「ヒップホップだともラッパーだとも思っちゃいねえよ」というT-TANGGのバースを受けた韻マンのアンサーだ。
韻に取り憑かれ、一心不乱に韻を踏み続ける韻マン。
無限のワードセンスとどんなビートにも対応できる音感は彼を唯一無二の存在に押し上げた。
一方で、韻にこだわる余り、ロクにアンサーも返さずただ自分の韻を披露し続けるそのスタイルは、今の物語重視のMCバトルシーンでは、決して有利には働いていない。
目次
- バトルは勝っても負けてもいい
- 全国放送で暴露された音楽活動「あれはパニクった」
- 「ライブがやりたい」踏み出したラッパーへの道
- 自分までネガティブになる必要は絶対ない
- TikTokがきっかけで曲がバイラル
- 文字通りの『Change My Life』 音楽で食べる覚悟は決めた
- 韻マンが語らないこと
- 饒舌と寡黙 韻マンの強さ
自らの世界で粛々と韻を踏み続ける韻マン。長いMCバトルシーンにあっても、異質なスタイルだと言える。
純粋な韻のスキルには評価が集まる一方、観客はもちろん、対戦相手も最初は戸惑いを隠せなかった。「韻マン」という存在を、どう受け止めればいいのか。
MCバトルにディスが付きものである以上、およそステージに立つ人種の中で、ラッパーほど公の場で悪口を言われる存在もいない。
バトルに出場したことのあるラッパーなら例外なく何度もこき下ろされた経験を持つが、とりわけ韻マンはその存在が理解されず「何言ってるかわかんねえ」「それは韻だけどラップじゃねえ」とディスられ続けてきた。
「何にも(感じてないです)。『わかってるやん、(韻マンから)韻抜いたらただの男(マン)やで』って。そうやろ、よくわからんやろなってだけ。
バトルやからそこを突っ込んでくるのは当然やと思うんですけど、まーじで興味ないです。『内容がない』とか言ってるバースとかも、本当にどうでもいい」
韻であるためだけに存在するその文字列は、意味を拒み、他人からの理解を拒んでいる。
俺がベストバウトメーカー/ネットワーク接続エラー/エドワード・テラー/首元に仙法大玉螺旋丸/韻マンこと江戸川コナン、探偵さ
翻訳不可能な、いわば純粋な韻。「俺は韻マン、韻が好きなだけ」。韻マンは何度も、ステージでそう繰り返してきた。
「凱旋にライマーズっていうチームで出場した時に、『じゃアンサーしながら韻踏んでみようかな』って思ってやったこともありました。それもガチガチにアンサーするってわけじゃなくて、固有名詞で踏んで返そうって」
韻マンはアンサーを返していないわけではない。相手の韻を、まるで自分の韻のお題として受け取ってさらに韻を展開しているような節がある。「完全にそうです、韻のお題ですね」。
もちろん過去に何度か優勝を飾っている韻マンだが、スキルだけで言えばもっと大きな実績を積み上げてもおかしくない。
しかし、韻マンの特異なスタイルは、「誰が何を言ったか」が重視され、ラッパー同士の背景や物語が評価に大きく影響する現在のMCバトルシーンにおいては勝ち進むことさえ容易ではない。
「そうですね……バトルの勝ち負けについて言えば、1回戦勝てたらいいなって感覚です(笑)」
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