「個人」はもう限界? 平野啓一郎×DJ RIOでアバター社会を討論する

Interview

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  • 2021.07.01 20:00:00

国や思想、宗教。現実を覆う能力主義に、分人主義とアバター社会はどのような影響を及ぼしうるのか。

平野啓一郎とDJ RIO。二人の出した結論とは。

「個人」はもう限界? 平野啓一郎×DJ RIOでアバター社会を討論する

前編では、分人主義とバーチャルリアリティの関連性を身体を軸に語った平野啓一郎DJ RIOの二人。

続く後編ではアバターと分人主義が社会にどのような影響を及ぼすのかについて話題が展開。

国や思想、宗教を超えて、分人主義はどのような文化的な広がりを持つ可能性があるのか。『本心』で描かれた──現実の社会を覆う能力主義にバーチャルリアリティはどう立ち向かえるのか。

そして、分人主義がバーチャル空間でどう発展するのかについて、二人の意見が交わされる。

目次

  1. 分人は文化を超えていくか?
  2. 「実力も運のうち」の世界で
  3. 人はいくつの自分になれるのか
  4. 「ありのままの自分をさらけ出せ」という社会の要請
  5. 顔は取り替えられない?
  6. 分人主義からいくつもの身体へ
  7. おわりに

分人は文化を超えていくか?

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DJ RIOさん

DJ RIO 自分が一つであるべきか否かは、キリスト教的一神教の思想が強く影響していると思っています。というのも、アメリカの一定以上の社会階層では、一定以上の年齢の人たちは自分そのものに似せたアバターをつくりたがる、という傾向があります。自分の身体や見た目を変えることを望んではいない。

彼らが直接説明してくれることはないんですけど、一神教であるキリスト教は神と自分との関係であって、自分は一つで常に神に見られている、という意識があるんじゃないかな、と。

そこで、平野さんにうかがってみたかったことは、果たして分人主義的な考え方は世界的にどこまで普及・適応できるのでしょうか?

平野 「individual」──それ以上分割できない個人という概念が、キリスト教とセットで歴史的に発展してきたのは間違いないです。神様との相関性の内にある人間で、やっぱり全てを見られている。

神への告白は、「自分のこの部分だけを」というふうに神様に見せることはできない。自分の全てを見せないといけないし、自分の全てが最後の審判のときにジャッジされる。アメリカ人は、individual という概念に強い思い入れがありますね。

DJ RIO ありますね。

平野 今朝、アメリカの「PEN」という文学組織のオンラインイベントに登壇して、分人の話をしましたが、「個人という概念の何が悪いんだ」という質問もありました。

これは、アメリカ人に限りませんが、「ディバイトして複数の自分がいる状態が実際の状態なんじゃないですか?」と伝えても、「本当の自分というものがコアにはあって、社会的なペルソナを使い分けているにすぎない」というモデルを採用しがちなんです。

ただ、例えばポーランドは国民の90%ほどがカトリックの国ですが、ワルシャワ大学で分人の話した時には、学生が「よくわかる」と納得してくれました。「Facebookとかやっていて、友達同士で仲良く話していたのに、教授とか会社の上司とかにフォローされたりすると嫌でしょう?」という話をすると「それはすごく嫌」って言うんですよね。LinkedInは会社の知り合い、Facebookは友達とか、使い分けたりもする。それが分人なんじゃないんですか? と。

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平野啓一郎さん

DJ RIO そうなんですよね。

平野 すると、「そうね」というふうに彼らは言ったりする。だから、Facebookの実名主義も一般的なものではなく、かなりアメリカ的な発想ではないかという気もする。

若い人はこれだけデジタルな環境に接しているから、自覚しなくても、どうしても分化している。特にネットを通じていろんな人と接すれば接するほどバックグラウンドの異なる人と接する機会が増えるから、そういう人たちとコミュニケーションを交わすためにはその人向けの自分にならないとコミュニケーションは成功しない。国籍をまたいだ友達が増えれば、どうしてもいろんな自分にならざるを得ない。

──分人的な考えは、今のグローバルなネット環境とともに拡大していく、と。

平野 そう。ただ僕の場合、RIOさんと前提が違うのは小説家ということで、10万部売れたらベストセラーという社会に生きてるんですよ(笑)。つまり、日本に限っても1億人の人口の中で0.1%ぐらい。だから99.9%の人が理解しなくても、0.1%の人が理解してくれればベストセラーという世界に生きている。

100人が話を聞いてくれて、1人ぐらい理解してくれれば、100万部の大ベストセラーへの道が開けるというイメージを抱いてる(笑)。これがWebサービスになるともっと大きな規模の話だから、どれぐらいの割合の人が、どれぐらいのテンポで納得していくかは、この楽観とは違うところもあるかもしれない。

DJ RIO 現時点でどのぐらいの人が受け入れるか、という話と、受け入れる人が増えていく方向にあるのかどうか、という話は切り分けて考えるべきだと思います。僕は、「そういうのは自然じゃない?」と言語化しなくても、思っている人が増えていくと考えているんです。

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アバター社会でも“変わらない”現実