Interview

  • 2021.07.23

共に20代。沖縄のラッパーOZworldとe-Sportsチーム「FENNEL」仏が語る“人生という名のゲーム”

しのぎを削り合うヒップホップ業界を指して「ラップゲーム」とプレイヤーやヘッズは呼称する。

そして現在、ヒップホップとゲームは文字通り、かつてなく接近している。

共に20代。沖縄のラッパーOZworldとe-Sportsチーム「FENNEL」仏が語る“人生という名のゲーム”

ヒップホップとゲームe-Sports)。どちらも世界中の若者のポップカルチャーにとっては欠かせない存在であり、最初は「遊び」や「逃避」としてマイクやコントローラーを握った少年少女たちが一夜にしてスターになっていくプレイグラウンドだ。

この2つが最も盛り上がりを見せているアメリカでは、両フィールドのクロスオーバーが確実に進んでいる。昨年『フォートナイト』で行われたトラヴィス・スコットのライブは1200万人以上の観客を集めたし、若者にとってのアイコンとも言える人気ストリーマーやラッパーたちも積極的に交流を深めている。

しかし、こと日本においてはゲームとヒップホップの交わりを目にすることはほぼ無い。日本は間違いなくe-Sports後進国であり、国内におけるヒップホップもまだまだマイナーなカルチャーとしての立ち位置に甘んじている。

今回は、そんな両ジャンルの親和性や共通点について語り合っていただくべく、e-SportsチームFENNEL代表の氏と、ゲーム好きで知られるラッパーのOZworld氏を招いた。仏のラブコールによって実現したこの対談、両フィールドの「プレイヤー」は何を語ってくれるのか。

目次

  1. 売れたラッパーはインドア派?
  2. カルチャーを大衆に落とし込む
  3. コミュニティという船をつくる
  4. 人生は、学び続ける「ゲーム」
  5. プロデューサーの演出は「リアル」か?

売れたラッパーはインドア派?

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FENNEL 仏さん

──仏さんは、今回なぜOZworldさんを対談相手に指名されたのでしょうか?

 僕は普段から若いアーティストを中心にジャパニーズ・ヒップホップを聴いているんです。彼らの置かれている環境に共通するところがあって。「最初は経験や実績がないゆえに業界において影響力のない立場から、いかにして自分の成し遂げたいものを達成するのか」というアティチュードとか。

あとは「何目線だよ」という感じではあるんですが、今の若いアーティストはすごく世界観をつくり込んでいて、その筆頭がOZworldさんだと思うんです。

OZworld ありがたいっすね!

──OZworldさんもゲーム好きを公言されていますね。

OZworld ゲーム自体は昔からめっちゃ好きでした。

ゲーム的意匠が目を惹くOZworld「OZKNEEZ FXXKED UP」PV

 どういうゲームをプレイされてたんですか?

OZworld 最初は小1ぐらいの誕生日にゲームボーイアドバンスSPとカセットを買ってもらって……「カセット」とか言ってるし(笑)。

小4の時には、自分の憧れてる叔父さんがPSPで『モンスターハンター』をやっていて。その当時、母親がルービックキューブにハマってたんですけど、「2面以上を揃えたら何でも買ってあげるよ」って言われて、最終的にはシールを張り替えてPSPをゲットしました

 チートじゃないですか!

OZworld そういうことです(笑)。

──ゲーマーとラッパーって中々イメージが結びつかない読者も多いと思うのですが、お互いの周りには熱心なゲーマーとかリスナーはいらっしゃいますか?

 ゲーマーは20台前後の若者が多く、彼らはかなりヒップホップを聴いてますね。やっぱりAbemaTVとか『フリースタイルダンジョン』の影響もあると思います。特に自分の周りは「聴いてない人が珍しい」くらいの感じ。

OZworld 自分の知ってる限りのラッパーたちも、ゲームはみんな好きですね。

JP THE WAVYは『フォートナイト』をすごいプレイしてる。唾奇は常にオンライン入ってるし。ゲームを立ち上げると、必ず画面にオンライン状態ですって出てくるんですよ(笑)。BAD HOPのメンバーもゲーム好きだと思うし、結構みんなやってると思ってます。

ゲーム『二ノ国』をモチーフにしたOZworld feat. 唾奇の「NINOKUNI」

 みなさん結構インドア派なんですね。

OZworld ラッパーに知名度が付いてくると、外に遊びに行く足が重くなっていくっていうのもあると思いますね。コロナ禍の影響もあるし、ゲーム自体が「一人でやるもの」というよりも「みんなでやれるもの」というイメージが強くなってきてる

あと、ビートメイカーの人と一緒にゲームしながら曲の話を進めていくこともありますし。

 僕も最近、オフィスで社員さんとポーカーや『VALORANT』しながらミーティングをしてますね。

OZworld めっちゃ渋いっすね(笑)。

 コロナで飲みに行けなくなったのもあって、そういうツールを使って会社内のコミュニケーションを図ってます。

カルチャーを大衆に落とし込む

 去年『フォートナイト』上でラッパーのトラヴィス・スコットがライブをして、めちゃくちゃ人が集まってたじゃないですか。やっぱりゲーム好きのOZworldさんとして意識されましたか?

Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical (Full Event Video)

OZworld あれに関しては、本当に何年か前から「それができたら一番おもしれー。自分がやりたいのはこれだ」って思ってたというか。

今後はオンラインの世界が、市場もふくめてもっといろいろな意味でデカくなると思うし、ゲームやオンラインの世界で自分自身がキャラクターとして登場したいなと考えていましたね。

たとえば自分の大好きな『サイバーパンク2077』にもキアヌ・リーヴスが出ていたり。

 『龍が如く』のスタジオがつくった『JUDGE EYES:死神の遺言』にも木村拓哉さんが出演してますよね。

OZworld 自分はゲームの業界では全くのド素人だけど、先の先を見てやりたい。

本当に上を目指していて、自分のやりたい、見ていきたい世界をつくるっていう夢があるから、互いの目標に向かって力を貸し合っていけたら。そういう背景もあって、仏さんとも繋がれたし。

言ってしまえば、お互いが業界でも若手で、マジでそれこそ志がヒップホップっていうか。

 「なにかを成し遂げる」っていうアティチュードがヒップホップとは共通してると思いますね

ビジネス面の話でも、ラッパーのドレイクやNBAのトップスターたちはe-Sportsに積極的に投資して株主にもなっている。ドレイクに限らず、ヒップホップのスターやセレブと遊んでるような写真を、大手e-SportsチームのFaZeや100 Theivesの選手がTwitterやInstagramに投稿している。

──e-Sportsとヒップホップの本場アメリカと比較した時、日本のシーンについては各々どのように捉えていますか?

OZworld ジャパニーズ・ヒップホップもここ何年かで市場は成長して来ているけども、やっぱりヒップホップに興味を持ってくれるパイをもっと増やしていくという課題は常に意識していますね。

 日本の場合はe-Sportsに限らず、スポーツビジネス全般が圧倒的に遅れていますね。

日本はゲーム大国なのにも関わらず、国内の市場規模はたったの60億円。アメリカは1,000億円です。日本国内のスポーツと比較しても、日本の野球が2,000億、サッカーが1,500億円ですから。

OZworld 僕たちのシーンが抱えているテーマは一緒だと思いますね。シーンの拡大を自分事として考えられる余裕が出来た人たちが、率先して新しいステージをつくっていってる。

たとえば今までは「ヒップホップはヒップホップだ」という態度があって、音楽に限らず他ジャンルとの交流に消極的でした

そもそもヒップホップにはルールがない。むしろ「自分たちでルールをつくっていく」場所だからこそ、横と横とが繋がりやすくもあり、派閥の間で繋がりにくくもあった。けど、そこは時代には合わせて変化が起きている。

 それこそ、今回のような『ヒップホップ x e-Sports』という対談だって今まではありえなかったですよね。

OZworld そう。普段フィーチャリングしないアーティストも、今ではめちゃくちゃオープンにフィーチャリングをするようになった。ジャンルに関係なく、AK-69さんが清水翔太さんやLDHとコラボをしていたり。

自分たちの目標のために人を巻き込んで、自分が持ってない技を持ってる人と関わり合って… それこそまさにゲームみたいな感覚。たまたま出会った誰かに話しかけるボタンを押したら、自分が探してた「宝物の地図」を持ってたりとか。

そうしてヒップホップが日本のメインストリームに食い込んできていて、ワンチャン、そこでヒップホップが“喰ってる”ような気もするんですよ。

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