Interview

  • 2021.08.14

『ストII』だけを極めてきた格ゲーマーが語る「ゲーセンこそが真のオンライン」

コンテンツを見極める「慧眼力」が問われる時代。

プロとアマチュア、アングラとポップの狭間──『ストII』に見た「本質」とは。

『ストII』だけを極めてきた格ゲーマーが語る「ゲーセンこそが真のオンライン」

この時代に『たまごっち』のガチ勢なんていませんよね。ストIIというゲームも(世間から見れば)同じようなものだと思うんですよ

そう語る現在34歳のストIIプレイヤーこたか商店。』は、現在のe-Sportsシーンにおいて特異な存在だ。プロの選手でもなければ、ストリーマーでもない。しかし、こと対戦格闘ゲームシーンにおいては、現行のタイトルも含め、次の対戦カードの発表が待ち望まれる数少ないプレイヤーの一人でもある。

20年以上前の『ストリートファイターII』というタイトルをプレイし続ける彼が、なぜ現代の格ゲーコミュニティからも注目を集めているのか?そのきっかけは「獣道」というイベントへの参戦だった。

獣道III スパIIX こたか商店。VSクラハシ

格ゲー界の生ける伝説・ウメハラ(梅原大吾)が主催する同イベントでは、プレイヤーたちが10先(10試合先取)という決闘形式で意地とプライドだけを賭けた対戦を行う。参戦選手はプロ/アマチュアを問わず、対戦カードには「いまウメハラが一番見たい」試合が組まれるなど、スポーツ化が著しい現在のe-Sportsへのアンチテーゼ的な興行として数々の名勝負を生み出してきた。

こたか商店は、「獣道」シリーズにおいて全興行で試合が組まれてきた唯一の選手であり、現時点では全戦全勝という結果を収めている。『ガイル』という対応型のキャラクターでストII界のレジェンドや強豪たちを完封する絶対王者が如く姿は「ミスター獣道」の名に相応しく、同業界の主流に対して“e-Sportsが生まれなかった世界線”を体現する稀有な存在だ。

こたかは自身を取り巻く現状について「少しだけストIIを長くやっていて上手いだけ」だと謙遜しつつ、こう語る。

「端から見れば『e-Sportsのプロの人ですか?』と思われてるかも知れないんですけど、『いやいやいや』と。『ストV』のプロがゴルフの『マスターズ』の世界だとすれば、僕たちは近所の老人がゲートボールをする感覚でゲームセンターに集まっているだけ

そう。彼の主戦場はゲームセンターだ。彼はオフラインからオンラインへの過渡期となった2007年にゲームセンターの世界に飛び込み、ゲーセン全盛期を体験した“最後の世代”でもある。

そんなゲームセンターも、対戦ゲームのオンライン化とコロナ禍の影響でかつてない危機に瀕している。筆者は昨年からゲームセンターの魅力に取り憑かれたゲーセン初心者だが、この時代に通い始めたからこそ、この唯一無二の文化がこのまま失われてしまうわけがないと確信をしている。

そんなゲームセンターのアングラかつポップな魅力を伝える飛び道具として、彼のストII人生を辿る取材記事はどうだろうか。

筆者はそんなもっともそうな企画案を、半ば呆れ顔の編集部にゴリ押しして、憧れのプレイヤーへのインタビューを敢行した。

目次

  1. ガイルと僕と、時々、大船
  2. ゲーセンこそが「真のオンライン」
  3. ストIIは『たまごっち』
  4. 「勝ち負けだけのストII」はもう見飽きた
  5. 勝ち負けを超越する「本質」
  6. コロナ禍とゲームセンター

企画・取材・執筆:LIT_JAPAN 取材・編集:ゆがみん

ガイルと僕と、時々、大船

1991年、『ストリートファイターII』の稼働は始まった。アーケード用ゲームの処理能力が圧倒的に優位だった時代、当時5歳だったこたかは、駄菓子屋の筐体から流れるデモ画面に心を奪われる。

Street Fighter 30th Anniversary Documentary

さらに基板のスペックが飛躍的に向上した1993年の『スーパーストリートファイターII』と同シリーズ最終作の『スーパーストリートファイターIIX(以降:スパIIX)』の稼働が翌年に開始すると、ますますスーパーファミコンのストIIには満足ができなくなる。

「ばあちゃんから肩もみでもらった小銭を握りしめては、当時の不良たちに目もくれずゲーセンの筐体に吸い込まれていきましたね」

「キャラクターを動かすだけで満足だった」少年のこたかは意外にも、その後ストIIから離れてしまう。青年期の彼を熱中させたのは当時社会現象を巻き起こした「PRIDE」、つまり総合格闘技の観戦だった。力士からプロレスラーまでがバーリトゥードを繰り広げるストIIに心を奪われた彼が、当時の未成熟で混沌とした総合格闘技の世界に熱中したのは必然だったのかも知れない。

5 Incredible PRIDE FC Performances

しかし、そんな隆盛を極めたPRIDEが終了した2007年に転機が訪れる。国内最高峰の格ゲー大会「闘劇」で『ハイパーストリートファイターII(以降:ハイパー)』が競技タイトルとして選ばれたのだ。ストIIシリーズにとっては4年ぶりのことだった。

同年に社会人となり、「PRIDE終了で脳に空き容量が出来た」と語るこたかは、現場仕事の合間を見つけてハイパーとスパIIXの稼働しているゲームセンターを転々とする日々を送り始める。神奈川のゲーセンを制覇したこたかはやがて、今は亡き横浜セブンアイランドをホームに据える。

そして彼はそこで、自身のストII人生を左右する人物に出会う。

『もののけ』みたいな奴が一人いるんですよ。いる時は対戦しないで大体見てるだけで、しゃべりかけるなというオーラをすごい出していて…...。

でもたまにプレイをすると、そいつのプレイに皆が魅入ってしまう。別に勝ってもいないし、強いわけでもないのに、皆が魅せられるんです」

それが大船というプレイヤーだった。「対戦中に平気で席を立つ」など、このオンライン時代においては「切断厨」と蔑まれるような行動を繰り返す大船だったが、まぜか周りからは寛容される不思議な存在でもあった。

そんな彼とこたかは長い牽制の果てに、遂に言葉を交わす。それはこたかが、使用キャラのガイルと最も相性の良い、いわゆる”キャラ差”のある『ザンギエフ』と対戦している時のことだった。

「当時はザンギに全く勝てなかった。その時に、後ろで見ていた大船に『ガイル使いますよね?』とアドバイスを求めたら、『そんなのやる必要ないよ』と一蹴されてしまったんです。

『やる必要がない』くらいのキャラ差があるというよりも『野良のザンギとやる必要はないよ』ということを大船は言いたかったと思うんですよ。彼からすれば『ストIIの“本質”を分かっていない』レベルのプレイヤーだったんですよね。

それで『ちょっと見る?』と言ってザンギ戦をやってくれたんですけど、本当に『やる必要がない』くらいの理想的な完全対応で完封。それで勝った後に『でしょ?』と言われてしまって……」

今でこそ大船が勝っていた“本質”的な理由が少しは理解できるようになったと語るこたかだが、その戦い方をしているガイルは今でもいないらしい。この本質の追求は彼にとっての永遠のテーマでもあり、本インタビューでも重要なキーワードとなってくる

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現在では音信不通となってしまった大船のプレイを収めた貴重な映像。格ゲー黎明期には、噂だけが独り歩きする“都市伝説的”なプレイヤーが各地に点在していたと言われている。大船もその一人だったとこたかは語る

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