若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
音楽史に名を残す『beatmania』シリーズを模倣して広がるグレーなゲーム音楽。
そしてクラッキングツールを彩るチップチューンとは。
この連載はインターネットとビデオゲームにおいて、取り上げられることの少ない暗部──つまりグレーだったり違法だったりする領域が、現代のゲーム文化にどれほど大きな影響を与えたのか、ということについて考えていくものだ。
第2回となる今回では主に「(グレーな)ゲーム音楽」について書いていこうと思う。主となるのは「BMS」と呼ばれるものについてで、かなりの割合筆者の個人史を交えつつ回顧していくことになる。
また後半では、著作権侵害行為を含むカルチャーにおけるチップチューンの意外な使われ方についても触れることになる。
前回に引き続き、あくまで僕の観測範囲に留まる記述となるので、補強するような情報をお持ちの方はご提供いただけると嬉しい。また、この記事は違法行為、グレーな行為を推奨するものではなく、単に「実際にあった歴史」として語るものだ、という点についても改めてご留意いただきたい。
目次
- 世紀末にゲームミュージックへ訪れた革新『beatmania』
- 『beatmania』が音楽史に与えた影響
- 『beatmania』を模倣したフリーウェアゲームデータ「BMS」
- 掲示板とレビューサイトが支えたユーザー同士の交流
- 健全ではなかったインターネットの「アングラ」なカルチャー
- BMSを通過していったアーティストたち
- クラッキングツールとチップチューンの意外な接点
- クラッカー集団の技術を誇示する「キーゲンミュージック」
- 「キーゲンミュージック」の現代ゲームへの影響
話は1998年まで遡る。Windows95、続くWindows98が爆発的に成功し、多くの家庭にインターネットがやってきた当時。まだ小学生だった筆者の家にもWindows98を搭載したPCがやってきた。友人たちの家庭にくらべて特に早い方だったという記憶もないので、おそらく(PCを導入する家庭の中では)平均的だったのだろう。
もちろんPCを所持してしない家庭は今より多かった。情報の授業でタッチタイピングを披露するとそれなりに盛り上がる(あるいは引かれる)、というような“オタクあるある”が生まれたのもきっとこの時代のことだろう。
それとまったく同時期、ゲームミュージックにも一つの大きな革新が訪れた。後に音楽ゲーム略して“音ゲー”の代表格となっていく『beatmania』(通称ビーマニ)シリーズの登場(97年にアーケード版が稼働開始し、98年にプレイステーション版が発売されている)である。
『beatmania』は『GUITARFREAKS』や『DrumMania』、後年では『SOUND VOLTEX』など様々に派生し、今では総称して「BEMANIシリーズ」と呼ばれる。現在は最初期の五鍵盤『beatmania』シリーズの制作は続いておらず(とはいえ時々稼働しているゲームセンターを見かけることがあるので遊ぶことはできる)、単に「ビーマニ」と呼ぶ場合は七鍵盤となったアップグレード版の『beatmania IIDX』シリーズを指すことが多いように思う。近年スマホ版も配信中で2021年現在、まだまだ人気の根強いシリーズだ。
ビーマニが登場するとすぐに、我々は心を奪われた。当時、数駅先のゲームセンターまでビートマニアを遊びにわざわざ行ったことを覚えている。上級者のプレイには観客(「ギャラリー」と呼ばれる)が集まっていたので、注目度はかなり高かったのだろう。実際、ビーマニは当時まだ今ほど認知されていたわけではないDJ/クラブミュージックという文化にフォーカスを当てていたり、ターンテーブルを模したコントローラーを搭載した筐体が風変わりだったりで、とにかくかっこよかったのだ。
僕にビーマニを紹介してくれた同級生は、その後『DrumMania』に大ハマリし、いまではプロとして本物のドラムを叩いている。ビーマニの影響でクラブミュージックに興味を持ちDJやトラックメイカーになったという人も多い。そこまではいかなくとも、「ドラムンベース」や「ハウス」などという様々な(主にクラブミュージックの)「ジャンル名」をビーマニから知ったというゲーマーはとても多いだろう(今思い返せばでたらめなものも多かったが)。
ビーマニは単なるゲームというレベルを越えて、今日の音楽文化に強い影響を与え続けている。大げさな物言いかもしれないが、日本の音楽史にその名を残すゲームシリーズとなっている。
家庭用『beatmania』登場と同じ98年。『beatmania』の特徴を真似てつくられたフリーウェアゲームの『BM98』、そして『BM98』用の譜面データ形式「BMS」が開発/リリースされた。『BM98』は前回紹介した、データをそのまま吸い出して遊ぶいわゆる「エミュレータ」とは異なり、あくまで「模倣した上で独自に開発されたもの」である。
とはいえ知的財産権などの問題で「完全に問題ない」とは断言しづらいものであることは確かだ(そういう意味で「グレーなゲーム音楽」の話としている)。「BMS」は専用の作曲ソフトも公開されるなど自作が容易であるためどんどんと増え、当時としては大きなブームになっていった(Via BMS Creator)。
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