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  • 2021.08.28

語られざるゲーム文化のグレーゾーン MOTHER3とUNDERTALE繋いだROMサイト

インターネットに確かに存在したグレーな文化。

ROMサイトとハックロムの文化的価値と機能に光を当てる。

語られざるゲーム文化のグレーゾーン MOTHER3とUNDERTALE繋いだROMサイト

クリエイター

この記事の制作者たち

この連載はインターネットとビデオゲームにおいて、取り上げられることの少ない暗部──つまりグレーだったり違法だったりする領域が、現代のゲーム文化にどれほど大きな影響を与えたのか、ということについて考えていくものだ。

第一回となる今回では主に「エミュレーター」「ハックロム」とインディーゲームの関係について取り扱っていく。

目次

  1. 著作権侵害と共にあった「インターネットカルチャー」の歩み
  2. エミュレータ文化/ハックロムとインディーゲーム
  3. ブラックとホワイトの狭間で
  4. 派生したファントランスレーション、ゲーム文化にもたらした多大な影響
  5. 『UNDERTALE』が『MOTHER3』から受け継いだ遺伝子
  6. 『大乱闘スマッシュブラザーズ』における「ハックロム文化の承認」
  7. 違法なROMサイトが担う「博物館」的な役割
  8. 口外しづらい、グレーな文化が果たす機能

著作権侵害と共にあった「インターネットカルチャー」の歩み

本題に入る前に、まず連載全体の前提となる「インターネットと著作権侵害」の関係について(あくまで主観的に)ざっと説明させていただこう。

ご存知の通り、インターネットは危ないものでいっぱいだ。何も知らないで使っていても、非倫理的だったり、ショッキングだったり、攻撃的なものにすぐ出会ってしまう。時には詐欺にあったり、炎上してしまったり、住所を特定されてしまったりなど実害も伴うことがある。

昔よりはだいぶマシになったとはいえ、いまだに「安心安全」な場所とは程遠い。単にYouTubeを見ているだけでも、目にしたくないものを目にしてしまう可能性はかなり高い。危険なだけではなく、違法だったりグレーだったりするものもまだまだ多い。

特に、インターネットには著作権を侵害している(であろうと推測される)コンテンツがかなりの量ある。というか、少なくとも筆者の知る限り、「インターネットカルチャー」とは常に著作権侵害と共にあった。「うpろだ」や「割れ」、ニコニコ動画でのMAD動画、ファイル共有ソフトやトラッカーサイト、近年では「漫画村」問題や「Music FM」など、枚挙にいとまがない。

誰でも簡単に参加できて、簡単にデータ化できて、簡単にアップロード/ダウンロードできるというインターネットは、そもそも著作権に対して攻撃的な性質がある。著作権侵害的なコンテンツはインターネット文化の中のかなり多くの割合を占めているし、それはいまだに変わらない。何かが消えても、また新しく著作権侵害的なものが現れ、そのサイクルを永久に繰り返している。法整備はそのスピード感にまったく追いつきそうにもない。

そして、著作権侵害的なコンテンツと隣接するような領域が生み出した文化が実際の商業コンテンツに影響を与えた例も、事実として数多く存在している。

例えば音楽なら、「BLACK MIDI」というバンドのメンバーが違法ダウンロードから受けた影響をインタビューで公言している(via ele-king)。内容が内容なので公言している例はそう多くはないが、似たような経緯で音楽に詳しくなったミュージシャンは数多く存在するだろう。ビデオゲーム文化もまた、実は著作権侵害的なもの、グレーなものと共にあった。公言しづらく、歴史にも残りづらい、しかし確かに存在したのだ

著作権侵害的なコンテンツやグレーな文化はひっそりと営まれるものだ。なので資料があまり残っておらず、筆者の記憶ベースで語ることも多くなるため誤りもあるかもしれない。そんなときは筆者まで(もちろん匿名でも)情報提供していただけるとありがたい。

また、この記事は違法行為、グレーな行為を推奨するものではなく、単に「実際にあった歴史」としてそういうものについて語るものだ、という点についてもご留意いただきたい。

エミュレータ文化/ハックロムとインディーゲーム

Wikipediaによれば、エミュレータとは「コンピューターを含む機械装置の動作・機能を模倣する事をエミュレート(動詞)またはエミュレーション(名詞)といい、エミュレート/エミュレーションする装置、あるいはソフトウェアのことをいう」とのこと(via Wikipedia)。

さまざな分野で用いられる言葉だが、我々の世代が一般的に「エミュレータ」、もしくは「エミュ」と口に出す時は「ゲームエミュレータ」のことを指す場合が多い。

ゲームエミュレータとは簡単に言えば「ファミコンなどのゲームをパソコン上で遊ぶことができるようにする」ソフトウェアのことだ。もちろんファミコンだけではなく、プレイステーションやMSXなど様々なゲーム機のエミュレータが実用レベルで配布されている。

「実用レベル」というのは「まるで実機で遊んでいるような感覚で利用することができる」という意味だが、場合によっては画面を美しく設定することができるなど「実機よりも優れた環境で遊べる」ようなものもある。またクイックセーブ/ロードや倍速プレイなど様々な便利機能が搭載されていることも多い。余談だがそういったエミュレータの機能やツールを使ってスーパープレイを生み出す「TAS」というものがあり、ニコニコ動画では根強い人気があった(Via ニコニコ大百科)。現在のRTA(リアルタイムアタック)実況ブームを予見するものだったように思う。

ゲームエミュレータ初期の歴史はもはやかなり曖昧なものだが、一般家庭に爆発的にパーソナルコンピューターが普及する「Windows95」以前にはすでに存在していたらしい。代表的なスーパーファミコンのエミュレータである「Snes9x」が登場したのは98年のこと(Via Snes9X.COM)。記憶によれば、2000年代初頭ぐらいには一般のPCユーザーである中高生にも手の届く存在になっていた。

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エミュレータ文化はゲームにどんな影響を与えたのか?