MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
クリエイター
この記事の制作者たち
26歳、福島県白河市出身“小峰の城下からの刺客”ことMU-TON。現在は東京を拠点に、地元と行き来して活動している。
MCバトルにおいては、まるで音源のような見事なフロウを即興でブチかまし、2018年に「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)優勝、2020年に「戦極MCバトル」「凱旋MCバトル」と立て続けに優勝を果たしてきた。
そのフロウは音楽でも花開き、2021年に入ってもラッパー・rkemishi(エミシ)とのジョイントEPやLIBROへのアルバム参加など、光る存在感を見せつけている。
しかし、彼の歩んできたこれまでについて、実は多くのことが語られてこなかった。
「生きてきて一番良いですね、今」。晴れやかにそう断言するMU-TONが、今だからこそ明かせるすべて。
前編では、JAG-MEやDARKといった多くのラッパーを輩出する白河のストリート事情や、語られざる意外な過去について掘り下げている。
話すと物腰の柔らかい好青年ながら、大の遅刻魔としても有名な彼のインタビューは、予定から2時間遅れで始まった────
目次
- “硬派”な城下町・福島県白河で育つ
- 「白河じゃバンドはできなかった」マイクを握るようになったMU-TON
- MCバトルは、やってみたら「余裕だった」
- 損失を自腹で…陥った借金地獄に
- 心を入れ替えたきっかけ
- 「音楽以外のことができない」MU-TONという才能
取材協力:Music Bar & Restaurant óleo
──福島県白河市は、MU-TONさんのみならずJAG-MEさんをはじめとする個性的なラッパーを輩出しています。白河とはどんな街ですか?
MU-TON ちょっと変わってる町かもしれないです。自分が思う白河は、小峰城という城の存在が大きい気がしますね。
昔、人から聞いた話なんですけど、城下町で城を守っているヤツが多かったから、あまりよそ者を受けつけないところがあるというか。良く言えば、媚を売らないで仲間を大事にする。
だからか、県外のアーティストを(ライブに)呼ぶ時も、本当にみんなが好きなラッパーじゃないと軽々しく呼んだりしない硬派なイメージがありますね。
──濃いコミュニティが形成されているんですね。
MU-TON そうかもしれないですね。今、UNDER THE MUG'Sという仲間のクルーで「BONGO」っていうハコを白河でやっています。自分が東京にいるのでほとんど帰れていないですが、みんなそこに集まって遊んでます。
数年前まで白河駅前にあった、JAG-MEさんたちが活動してた「GUEROVER」(ゲロバー)っていうクラブが拠点だったんですが、そこがなくなっちゃったので俺たちでつくりました。
──白河は、水戸や八王子のような地方都市ですか?
MU-TON いや、もっとめちゃくちゃ田舎です。コンビニに行くにもBONGOからはだいぶ歩かないといけないし。
MU-TON ただ福島はデカいので。白河の上には郡山があって、その先は福島市、左は会津、右はいわきで、それぞれのちょっとしたシーンがありますね。シーン同士で関わりがあって、ちょうど中間くらいに白河があるんです。
仲は良いけど、それこそ会津にも鶴ヶ城があって、白河と似たような硬派なスタイル。俺らは「小峰の城下」、会津の人らは「鶴ヶの城下」って呼ばれてます。
福島に限らず、東北はそうなのかな。東京に出てきて、関西とか南にも行くようになって、余計に東北は硬派だと感じますね。
──MU-TONさんは、音楽自体にはどれくらいから触れているんですか?
MU-TON 小学校の卒業文集に書いた将来の夢が「歌手」だったから、子供の頃から音楽でやっていきたいっていうのはあったと思いますね。
中3くらいにRADWIMPSとかELLEGARDEN、レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)みたいなロックが流行ったんです。
それでバンドやろうぜってなったけど、白河は田舎すぎてそういうカルチャーも環境もなかったから、話だけで実現しなかった。
そのあと高校でAK-69が流行って。ラップは簡単にできるじゃないですか。バンドと違って学校でも携帯でビート流してフリースタイルできる。自分もそれに感化されました。UMBも全盛の頃です。
──MU-TONさんが95年生まれだから、2010年くらいの話ですね。
MU-TON 最初は遊びでラップしてました。学校が終わったあと、友達は白河駅の下のトンネルでサイファーをやってたんです。
──MU-TONさんも混ざってたんですか?
MU-TON 俺、昔はあがり症だったんですよ。だからみんながサイファーやってても「恥ずかしいからいいわ」って感じで見てるだけだったんです。
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