MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
MCバトルは、観たいじゃない。聞きたい──
※本稿は、2016年に「KAI-YOU.net」で掲載された連載を再構成している
クリエイター
この記事の制作者たち
まるでIce-Tとスパイクリーに楽太郎を足した最新のブラックなジョークで JUSWANNA/ピエロスタイル(2009年)
ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第6回である。
ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを1歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。
目次
- 先攻1本目・母野宮子「まるで落語のように、MCバトルを聞きまくった」
- 後攻1本目・ハハノシキュウ「MCバトルのMP3化を望む理由」
- 先攻2本目・母野宮子「ラジオこそが、フリースタイルバトルにもっとも適した媒体」
- 後攻2本目 ハハノシキュウ「人の心なんて、ブラックボックスでいい」
「落語を聞く」という言い方がある。
現場に足を運んで、生でパフォーマンスを体感する時には「〇〇を観に行く」という言い方をするのが一般的だが、落語の場合は「聞きに行く」という。
この「聞く」という一感で表現するように、落語はCDで聞いたりMP3をスマホに入れたりして、耳で楽しむ人も多い。
ハハノシキュウは学生時代、落語ではなくMCバトルに今以上に熱中していた。熱中し過ぎて、少しおかしくなっていた。
だいたい2006年から2010年頃まで、「UMB」(ULTIMATE MC BATTLE)予選大会の動画を観るために「HYPE UP SOUND」という公式サイトに登録し、月額料金を支払っていた人間がたくさんいた。
地方予選が終わる度に、新しいアーカイブがアップされることを心待ちにし、また年度が変わると観れなくなってしまう動画もあったため、ガラケーに齧りつくように同じ試合を何回も観ていた。
そして、ベストバウト以外の動画が観れなくなることを危惧して、気に入ったバトルをWindows用のフリーの録音ソフトで全部録音していた。昭和の音楽番組をラジカセで録音していた自分の親世代の気持ちが、少しばかりわかった気になっていた。
だから、その時期のハハノシキュウの感覚は「MCバトルを聞く」ことに特化していた。
ハハノシキュウが特に何度も聞いていたのは「呂布カルマ vs YUKSTARR(現YUKSTA-ILL)」と「Chino vs 大佐」のバトル。どちらも3回以上延長している名勝負だ。
iPodにそれらを詰め込んで、耳だけで楽しむ時期が続いていた。同じ落語を何度も聞いている人の気持ちもこれに近いのだろう。
最近、YouTubeにはMCバトルの試合を投稿主の好みで編集し、繋ぎ合わせたものが多く見受けられる。一人のMCに特化したものや、韻の踏み方に特化したもの。「高校生ラップ選手権」だと前振りをカットしたものだったり、その形はさまざまである。
それは、ハハノシキュウが自分のためにやっていたことと、本質的にはあまり変わらない。アップした人が、ただ「アフィリエイト感覚」でやってるなら話は別だが、きっと自分が「聞きたい」と思う形に編集しているに違いない。
著作権のある作品を無断でアップロードしてしまうくらい、人を“出来心”でおかしくさせてしまうのがMCバトルなのだ。
MCバトルのDVDは長い。長い方が面白いし、バトル以外の前振りの部分にも駆け引きがあったりして、それは必要な長さだ。
だけど、その長さ故に、見返す時の億劫さが大きくなってしまう。
DVDをプレーヤーに入れるという一連の動作にすら面倒臭さを感じてしまうくらいに、世の中は便利になってしまった。
だからこそ、だからこそMCバトルを1試合ごとに小わけにして、音声だけにしたものをiTunes Storeで売るか、DVDに音声のダウンロードコードをつけて販売してほしい。
続きを読むにはメンバーシップ登録が必要です
今すぐ10日間無料お試しを始めて記事の続きを読もう
800本以上のオリジナルコンテンツを読み放題
KAI-YOUすべてのサービスを広告なしで楽しめる
KAI-YOU Discordコミュニティへの参加
メンバー限定オンラインイベントや先行特典も
ポップなトピックを大解剖! 限定ラジオ番組の視聴
※初回登録の方に限り、無料お試し期間中に解約した場合、料金は一切かかりません。