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  • 2023.06.15

世界一使われた“美女AIモデル” 制作者の素顔 「文化発展のため」に果たす責任

世界一使われた“美女AIモデル” 制作者の素顔 「文化発展のため」に果たす責任

クリエイター

この記事の制作者たち

5月某日、渋谷にある社内のミーティングスペースに、スーツ姿の男性が大きなキャリーバッグを引いて現れた。

「家が地方なんで。いま、取材や商談が色々あって東京に来てるんですよ」と、開口一番、溌剌とした口調で話してくれる。

手際良く荷を解いて机の上に広げられたのは、何の変哲もないノートPCだ。男性はWebのユーザーインターフェース上でAI画像生成ソフトを立ち上げる。いくつかの設定を行い生成ボタンを押すと、ぼやぼやとした淡い色のノイズが画面に出現する。

一体このノイズがどうなるのか見つめていると、PCのファンが廻り、高速でロードを始める。更新される度にノイズの中から輪郭が浮かび上がり、ものの十数秒でメイド服を着た可憐な美少女の画像が、我々の目の前に現れた──現代のAI技術は、まさに魔法のようだ

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AIモデルから美少女画像を生成するTASUKU氏

「画像の出力はものすごく早いので、仕事に行っている間にリモートで100枚ぐらい画像を出しておいて、そこから(SNSに投稿する画像を)選んでいますね」

PCの操作を終えて、そう語るのは「世界一ダウンロードされたAIモデル」との呼び声高い“ChilloutMix”という画像生成AIモデルを生み出したTASUKU氏だ。

その明朗快活で品のある雰囲気と、少々アングラな匂いのするAI美少女のアンバランスとも言える組み合わせは、私には様々な人種が入り乱れるAI業界の象徴のように見えた。

目次

  1. 世界一ダウンロードされた実写系AIモデル制作者の素顔
  2. 絵心のない非エンジニア──画像生成AIなら、そうしたスタープレイヤー輩出が可能
  3. AIモデル公開から大反響、激動の展開に「自分でもわけがわからない」
  4. 非エンジニアの流入、画像生成AIのカンブリア爆発──きっかけは2022年8月
  5. ChilloutMix権利譲渡の背景と、TASUKU氏の戦略
  6. 「AIを受け入れてほしいなら、ふさわしい活動を心がけるべき」
  7. 「AIで失業した人は、他のことをできる時間をもらったと思うべき」
  8. AI技術が進歩するほど、逆説的に「人間らしさ」と「文脈」が求められる
  9. 属人性の欠如 AIが恋愛市場を「変えることはない」
  10. TASUKU氏の、未来予想図

世界一ダウンロードされた実写系AIモデル制作者の素顔

近年、爆発的な進化を遂げるAI技術。2022年8月に画像生成AI「Stable Diffusion」がオープンソース化してからというもの、世界中の技術者たちが改良と発展を繰り返し、今ではイラスト、実写問わずAIがつくり出したことなどまるでわからないような、ハイクオリティな画像が手軽に出力できるようになっている。

特に実写系の画像生成AIで注目を集めたのが、アジア系少女を美しく描画する機能に特化したChilloutMixというモデルだ。
世界最大規模を誇るStable Diffusion AIモデルのプラットフォーム「Civitai」に今年の2月ごろに投稿されると共に急速にユーザー間に広まり、同月末にはCivitai上で「世界一ダウンロードされたAIモデル」にまで上り詰めた。

また、そのモデルもさることながら、制作者にも注目が集まった。その人物こそが今回のインタビューの主役であるTASUKU氏だ。モデル公開時よりTwitterアカウントを開設すると、世界一ダウンロードされた実写系AIモデルの制作者の正体が日本人であるという事実に多くの人間が驚いた

現在はChilloutMixの権利を譲渡した氏だが、その後、積極的にユーザー同士のディスカッションを行うことで、業界のオピニオンリーダーとしての地位を築き、現在TASUKU氏のTwitterアカウントのフォロワー数は20万人を超えている。

TASUKU氏はAI技術の解説役として『ワイドナショー』(フジテレビ系)やAbemaをはじめ数多くのメディア露出を行っており、そのスタイルはなんと「顔出し完全OK」だ。

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身バレや炎上を恐れ顔出しどころか個人のSNSアカウントすら持たないAI系の技術者が多い中、あえて真逆の“打って出る”スタイルのTASUKU氏はAI業界において極めて特異な存在とも言える。

TASUKU氏は、元セクシー女優の上原亜衣さんが自身の姿を学習させたAIモデルのコンテストでも、最優秀賞を受賞したばかり。

画像生成AIモデル界の寵児は、一体どのような人物なのだろうか。そして、世界的に話題となった“ChilloutMix”というAIモデルの権利をなぜ手放したのか──取材を申し出ると、快く引き受けていただけることになった。

絵心のない非エンジニア──画像生成AIなら、そうしたスタープレイヤー輩出が可能

TASUKU氏が画像生成AI技術に関心を持ち始めたのは、多くの人々と同様にメディアで本格的に取り上げ始められた2022年中旬ごろからだったという。その段階では技術に対する驚きこそあったものの、特に本格的な参入を検討しようとは思わなかったそうだ。

きっかけになったのは、今年の「正月休み」だった。

「お正月に時間があったので、AIが話題になっていたことを思い出してStable Diffusionを触り始めたんです。そうしたら、だんだん『これはヤバイ技術だな』と思い始めて」

一般的に見てもそう早くはないタイミングだ。しかも、なんとTASUKU氏の本業は、IT系とは全く無関係な業態であったことを打ち明けてくれた。確かにその受け答えの様からは、正業を持っているちゃんとした社会人だということが伝わってくる。

かといって最新技術オタクやガジェットマニアのような様子もあまり感じられない。TASUKU氏は飾らずに「自分はITに詳しくないんですよ」と笑う。

「本当に、ITとかWebとか全く無関係の人間なので。なんなら今のTwitterも、機能とかを周りに聞きながら触っているんです(笑)。それでも今こうしてAI業界に携わっているのは、やっぱりStable Diffusionを触るのが楽しくて、勉強したいと思ったからですね」

画像生成AIはイラストレーターや映像クリエイターからの注目が高かったが、TASUKU氏はそうした創作系ジャンルとも無縁な存在だ。

「自分には絵心が全くなくて、白紙を前にすると何をしていいかわからなくなる。そうした美術と無関係の人間でも、美しい画像が出せるのがただ面白かったんです

非エンジニアかつ非クリエイターのTASUKU氏は、画像生成AIという枠組みから考えると異色の存在だ。言ってしまえば、画像生成AIでは全くの門外漢とも言うべき人物の、単なる年明けの暇つぶしでしかない画像生成AIいじり。

しかしその一方でAI技術の可能性を知り、徐々にTASUKU氏の興味は本格的なものになっていく。様々な画像生成サービスやモデルを遊んで試していたところ、ある日画像生成AIのとある弱点に気づいたそうだ。

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画像はすべて、商用フリーのモデルを利用してTASUKUさんが生成したもの

「当時は、モデルにリアル系の画像を出力できるものが少なすぎたんですよね。もしあったとしても、なんちゃってリアル系みたいな(笑)。自分的にはアジア人の現代的な美少女の画像を出したかったんですけど、それが出せない不満が強くなってきて……」

画像生成AIは万能な魔法のようなものだと思われがちだが、一方でStable Diffusionのような汎用的なモデルは器用貧乏な画家のような存在に近い。ありとあらゆるものをそれらしく書ける代わりに、特定のジャンルに特化した画像は出しづらいという欠点がある。

そうした弱点を克服するために、AI技術者の間では、「ファインチューニング」と呼ばれる一部のジャンルに特化した学習を施したモデルが次々とつくり出されている。

それでもTASUKU氏がChilloutMixを発表する以前は、写実的なモデルこそいくつかあれど、生成される人物の多くが西欧系の顔立ちをベースにしたものが多数を占めていたのだ。

仮にアジア人を出力しても、西洋的な美観から見たアジア人の顔出ちになってしまい、いわゆる西洋的なバイアスを排した「現代的なアジア系の美少女」を出力できるモデルはほぼ皆無と言ってもいい状況だった。

TASUKU氏は、そこに目をつけたのだ。

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