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  • 2024.04.06

スマホゲーム『リバース:1999』が傘に隠した切実な主張 香港ポップカルチャーの闘い

スマートフォンゲームの中には、社会問題をモチーフとした作品がある。そしてそれは『リバース:1999』も例外ではない。

そのテーマを語ることはリスクを伴う。どのようなリスクが存在するのか。読みさえすれば納得していただけると思う。

スマホゲーム『リバース:1999』が傘に隠した切実な主張 香港ポップカルチャーの闘い

クリエイター

この記事の制作者たち

まず最初に香港製作のSF映画『未来戦記』の話をさせてほしい。香港の会社、香港のVFXスタジオでつくられたSF超大作である本作は、作中に出てくる「共産主義の脅威をメタファーとして描いた50年代のSFホラー映画」に対し、香港の名優ラウ・チンワンが「結末は自分たちで決める!」と啖呵を切る。

これは、香港の未来は自分たちで決めるという決意に他ならない。この話は、今からする『リバース:1999』の話と無関係ではない。

『リバース:1999』はスマートフォンおよびPC向けに配信されている世紀末タイムリバースRPGである。開発・運営は中国広東省広州市に拠点を置くBLUEPOCH。広州は香港と同じ広東省に属し、距離的に近い(といってもあくまで中国の基準だが)だけでなく、同じ広東語を話すため、文化的にも近い距離にある。

2023年5月31日に中国本土で配信された『リバース:1999』は重厚な世界観とSF大国の底力を感じさせる上質なシナリオで熱い人気を誇っている。日本では遅れて2023年10月26日に配信され、本国の人気には及ばないものの、美麗なアートワークや優れたUI、何より力の入ったローカライズで徐々に評価を高めている。

『リバース:1999』ティザーPV

その一方で、『リバース:1999』には多くの人が震撼しながら、決してインターネット上では語られない部分がある。というわけで『リバース:1999』を語る上でまず読者の皆々様方にお願いがあるのだが、どうかこの記事でこれから語ることについて、ある特定のワードを含めた具体的な内容を、X(旧Twitter)などオープンな場所で言及するのを控えてほしい。中国本土の政治情勢と照らし合わせ、この記事の内容が広まってしまうことは『リバース:1999』の運営に悪影響を及ぼしかねないからだ。

「それならそもそも(この記事で)言及しなければいいのではないか」といった批判も出てくることは想像に難くない。実のところそれはかなり正鵠を射た批判である。いくらクローズドな媒体とはいえ、ある程度公に開かれた場で話すことに変わりはない。

その一方で、これから筆者が言及することは『リバース:1999』の製作陣が確かに物語の中にメッセージとして表現したものでもある。本作をローカライズに力が入っていると評したが、そのローカライズによって生まれる本国との表現の差に、巧妙かつ克明にメッセージが織り込まれている

また、現状日本において『リバース:1999』のプレイヤーはそれほど多いとは言い難い。筆者も僭越ながら月額パックなどで課金しているものの、あれほど豪華なローカライズの費用の助けになっているとは思えない(本当にとんでもなく豪華なんです。フルボイスだし)。

本記事は『リバース:1999』に織り込まれたテーマを半ばクローズドな媒体で語ることで、『リバース:1999』という挑戦的な作品に興味を持ってもらえることを目的としたい。

『リバース:1999』に込められたテーマを語ることはとてつもないリスクを伴うが、同時に『リバース:1999』という作品の持つ異様な空気を伴った覚悟のようなものに触れることができる。

というわけで改めてお願いしたい。どうかオープンなSNSなどで、この記事の具体的内容に言及するのはなるべく避けていただくようお願い申し上げます

無論、これはあくまでお願いであり、強制ではない。誰にも沈黙を強いる権利はなく、拡散を阻む意図もない。ただ、現実的なリスクが存在することをご理解いただきたい。なぜこのようなお願いをするのか、そしてどのようなリスクが存在するのか。それについては記事の内容を読みさえすれば納得していただけると思う。

・編集部注:有料媒体とは言え、通常の記事において、具体的言及やご意見、ご感想を控えていただくといった方針はありません。むしろ、そうしたものは著者や媒体への力にもなります。本記事に限ってのみ、その内容の特殊性と切迫さを鑑みて、このようなお願いをさせていただいていることをご理解いただければ幸いです

目次

  1. スマートフォンゲームがモチーフに盛り込んできた社会問題
  2. 人間とは違う種族「神秘学家」時代を逆行させる「ストーム」──『リバース:1999』の世界観
  3. 差別に対して強い姿勢を打ち出す『リバース:1999』のストーリー
  4. 『リバース:1999』の傘はなぜクィアベイティングに当たらないのか
  5. ストームからの避難先として国家規模の力を持つヴェルティのスーツケース
  6. ある「運動」について
  7. 静かな暮らしを取り戻すという願いと、限度のある自由
  8. 『リバース:1999』の主人公ヴェルティと傘は何を象徴しているか
  9. BLUEPOCHは『リバース:1999』を通して何を訴えているのか
  10. メッセージを巧妙に隠す香港映画と、この記事に書かれたことの危険性
  11. 香港を愛する人へ──娯楽作としての『リバース:1999』の熱量と魅力
  12. 世界に傘が必要なくなる、その日まで
  13. あわせて読みたい記事

スマートフォンゲームがモチーフに盛り込んできた社会問題

スマートフォンゲームが中身のない拝金主義の象徴であったことは、もはや過去になりつつあるのかもしれない。今や資金と情熱を注ぎこんだものがセールスランキング上位の一部を占める。

そんなスマートフォンゲームの日本市場において、近年存在感を強めるのが『アークナイツ』や『崩壊:スターレイル』、『ブルーアーカイブ』や『勝利の女神:NIKKE』といった中国、韓国発のタイトルだ(正確に言えば、コンピュータ向けのものもあるが)。これらの中には、社会問題をモチーフとした作品がいくつかある。

少数民族に対する同化政策への批判を盛り込んだ『アークナイツ』。韓国近現代史の潮流をオタクコンテンツに内包する『ブルーアーカイブ』などは、スマートフォンゲームとして普通に楽しめつつ、そこに潜ませた社会的テーマの鋭さに時折圧倒される。

特に『アークナイツ』はその潜ませ方も巧みだ。大英帝国批判に見せかけて大陸を批判するのは、香港映画でも常套手段である。そしてそれは『リバース:1999』も例外ではない

人間とは違う種族「神秘学家」時代を逆行させる「ストーム」──『リバース:1999』の世界観

『リバース:1999』は神秘学家と呼ばれる人間の形をした、人間とは全く違う種族が存在する世界を舞台にしている。神秘学家とは、ざっくり言えば『ハリー・ポッター』シリーズにおける魔法使いである。『ハリー・ポッター』では魔法使いが人類(マグル)を差別しているが、『リバース:1999』では人類が神秘学家を差別している。両種族間にある軋轢は、人類史における差別の歴史をなぞるようである。

そして至る1999年。ミレニアムカウントダウンと同時に発生したのが「ストーム」という現象だ。ストームは時代を逆行させる謎の現象である。人類史における重要な出来事と共に訪れ、その時代のものは人であろうと文明であろうと、すべて逆行する雨と共に洗い流されてしまう。

そんな中でストーム現象の影響を受けないものが4つある。1つが聖パブロフ財団の所有する土地。聖パブロフ財団は人間と神秘学家からなる組織であり、ストーム現象の謎の解明を目的としている。もう1つはマヌス・ヴェンデッタの所有する土地。マヌス・ヴェンデッタは純血主義の神秘学家組織であり、ストーム現象を利用して神秘学家が栄光を誇った時代に戻ることを目的としている。3つ目が、聖パブロフ財団に所属する本作の主人公ヴェルティ。そして4つ目が彼女の持つスーツケースだ。

『リバース:1999』の主人公ヴェルティ/画像は公式Xより

『リバース:1999』の主人公ヴェルティ/画像は公式Xより

逆行する雨の中、唯一ストームの影響を受けない体質を持つヴェルティは「タイムキーパー(時を司る者)」として時代の誕生と消滅を記録する使命を持つ。彼女の持つスーツケースがストームの影響を受けないと判明するのが、本作の始まりである。ヴェルティのスーツケースは魔法のスーツケースであり、中に住居可能な広大な土地を持つ。後に説明するが、これが物語において重大な意味を持つようになる。

差別に対して強い姿勢を打ち出す『リバース:1999』のストーリー

『リバース:1999』において、核となるテーマのひとつは「差別」である。人類と神秘学家の関係性を通じて、現実にも通底する差別のあり方を炙り出している(ちなみに「差別」というテーマは冒頭に記した“公に述べられない題材”ではない)。

この「差別」というテーマに対して、徹底的に真摯なところが『リバース:1999』の一番奇特、あるいは尊敬すべきところだろう。筆者が初めてプレイしたイベントストーリーが「モル・パンク遊記」なのだが、これが人間から神秘学家への差別だけでなく、神秘学家から人間への差別、小さなコミュニティで生じる偏見、家父長制の軋轢、個人間の相互不理解、あらゆる差別を煮詰めた恐ろしいストーリーだった。

『リバース:1999』Ver.1.3PV「モル・パンク遊記」

「モル・パンク遊記」のシナリオでラスボスをつとめたのが、神秘学家のコミュニティにも人間のコミュニティにも属せなかった中年女性クマールである。彼女の存在はシナリオを読んだ者に深い爪痕を残すのだが、そのビジュアルが目鼻立ちが整っているものの普通の中年女性然としているところに『リバース:1999』運営の強い意志を感じる(もっともザ・美魔女な中年女性も出てくるが)。

また『リバース:1999』運営の差別に対する強い姿勢は、シナリオ以外のところにも見られる。その中でも特別執念を感じるのが、英語版のローカライズにおけるキャスティングだ

一般的なスマートフォンゲームがそうであるように、『リバース:1999』では多種多様なキャラクターがガチャから排出される。『リバース:1999』のキャラクターは人類史における出来事・人物・創造物それ自体の擬人化(犬や林檎、ラジオがいるため正確には擬人化ではない)であるとされるため、彼らの人種もまた多様なものとなっている。『リバース:1999』が徹底しているのは、多様な人種のキャラクターたちに対し、同じルーツを持つ声優を起用しているところだろう。

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