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  • 2024.03.24

「死んでたと思う」 Jinmenusagiが、デパスにロヒを手放せなかった夜を越えて

「死んでたと思う」 Jinmenusagiが、デパスにロヒを手放せなかった夜を越えて

ラッパー・Jinmenusagi。活動から10年超、現在32歳である。

ニコニコ動画でのラップ投稿──いわゆるニコラップからその歩みを始め、今も極めて特殊な立ち位置で活動を続けている。

5年ぶりとなるアルバム『DONG JING REN(東京人)』を2023年末にリリース。最新のビートに、複数の言語によるリリックが飛び交う。

インタビュー前編では、Jinmenusagiの案内で地元、市ヶ谷から神楽坂をめぐりながらそのルーツを紐解いた。

後編では、Jinmenusagiというラッパーの強い哲学、これまで語られなかったアルバムが出るまでの空白の2年、そして自身の未来について口を開く。

目次

  1. 言語好き、老獪な言葉も操るJinmenusagiのギークラップ
  2. 言葉遊びが通じる瞬間、が醍醐味
  3. 毎日曲をつくり、歌詞を書く。「仕事だから」
  4. アジア人としての、世界への意識
  5. それって結局、記号を見てるだけでしょ──金、服、時間
  6. 死んでたと思う──デパスにロヒが手放せなかった夜を越えて
  7. フックアップとかじゃない。彼らが戻してくれた──空白の2年
  8. Jinmenusagiの引き際──ずっと先の将来への恐怖と、先人が示す希望との狭間で

言語好き、老獪な言葉も操るJinmenusagiのギークラップ

ナードの俺は飲まれないと思ってたけど 飲まれてた現状「Never Mind」より

Jinmenusagiは、自他ともに認めるオタクである。こだわりが強いとも、我が道を行くとも言える。「ゲーム好き」みたいな表面的なことを指しているわけではない。何かにハマれば、調べずにはいられないタチなのだ。曲中に使われる言葉、音、そして生活それぞれにJinmenusagiらしさが宿っている。 

「爺ちゃんに、わからないことがあればすぐに辞書で調べろと言われていたんで。さすがに今は辞書じゃなくて、スマホで調べてますけど(笑)」

歌詞に下ネタが出てくると思えば、中国語が登場する。挙句の果てには、世代的によく知っているなと驚くほどの言葉まで出てくる。すこぶる言葉のチョイスが幅広い。

「自分が書いてるリリックって、同世代か40代初めから中盤くらいの人が聴いた時に『おっ』ってなると思うんですよ」

Jinmenusagiはまだ32歳だ。

「親の本棚にあった漫画を読んで育ったので、同世代とも少しズレているんです」

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「目っけもんてわかりますか?」と彼は聞く。最近聞かないながらも子どもの頃には使っていた記憶があるし、意味ももちろん理解している。

「前に同じイベントに出た若いラッパーに聞いたら、『わからない』と言うんですよ。何気なく使っている同じ日本語でも、世代によってわからないなら、自分の武器になるかなって」

言葉遊びが通じる瞬間、が醍醐味

クソガキ相手 マウント取る 俺はSAKURABA」「SAKURABA」より

アルバム『DONG JING REN』収録曲の「SAKURABA」。かつて地上波で大晦日に放送され、年末の風物詩的な番組であった総合格闘技「PRIDE」などで活躍した格闘家・桜庭和志のことを指す。

Jinmenusagi - SAKURABA | 03- Performance | From Tokyo

「PRIDEは子どもの頃に見ていて、大人になってからもUFCやRIZINなんかの総合格闘技を見ていますね。最近のUFCだとショーン・ストリックランドが好きです」

格闘家の名前を曲名にしたり、リリックにしたりするのには、Jinmenusagiなりのこだわりがある。例え話が好きなのだ。

「野球をわかんない人に落合のバッティングのすごさを話してもわからないじゃないですか。オタクなんで、わかる人同士で語れる瞬間が好きなんですよ。1つの趣味を見つけて、それを吸収して歌詞に落として上手く例えられたときに、そのコンテンツが好きなリスナーが『この歌詞はこういう意味の言葉遊びなんだ』ってわかってくれる瞬間が面白いし、醍醐味だと思っています」

当然、わからない人にはわからない。わかりやすさが求められる現代に逆行している姿勢に、勝手に好感を抱く。

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楽曲制作のスタイルにも、そのオタクっぷりを見て取れる。昔と今とで変化したこととして、例えばドラムの音素材からJinmenusagi自らでつくるようになったことだ。

「レコードやCD、あるいはネットに落ちてるドラムの音って、音質なんかはバラバラなんですよ。それらを1回共通の機材、YAMAHAのSU200を通すことで音質を揃えたりしています」

そうした音の素材は、ドリルミュージックが多く収録されている最新アルバム『DONG JING REN』でも使われている。

「ドリルって、ギャング同士の暴力的なマーダーミュージックとも呼ばれてるんです。自分がそのドリルをやるなら、得意なことを組み込まないとただの真似になってしまう。そういう自分らしさを活かして差別化を図っていますね」

毎日曲をつくり、歌詞を書く。「仕事だから」

Jinmenusagiは、これまでの10数年というキャリアで計8枚のアルバムを発表している。かなりの多作に思える。

仕事だからっすよ

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Jinmenusagi、引き際に思いを馳せる。