Column

  • 2024.04.26

音楽批評は不必要なものなのか──音楽メディア「Pitchfork」GQ併合と人員削減に寄せて

音楽批評は不必要なものなのか──音楽メディア「Pitchfork」GQ併合と人員削減に寄せて

Pitchfork

クリエイター

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アメリカの大衆音楽専門批評サイト「Pitchfork」が男性ライフスタイル雑誌『GQ』の傘下に併合されることが、2024年1月に明らかになった。

それに伴い、編集長を含む編集陣の解雇が同時に報じられた。

「Pitchfork」と『GQ』の母体会社であるCondé Nastのコンテンツ部長・Anna Wintourさん名義で送られたメールによると、「Pitchfork」のパフォーマンスを評価した上で『GQ』チームへの併合を決定。それが音楽をカバーする両ブランドにとって最善の道だと信じると伝えている。

また組織改変に伴って編集長のPuja Patelさんを含むメンバーがチームを去ることも決まった。

「Pitchfork」は1996年にインターネット・ブログとして創刊。2015年には、『GQ』や『Vogue』を擁する大手メディア企業のCondé Nastに買収されている。

主に同時代の幅広いジャンル及び地域の音楽作品を取り扱う批評メディアで、10点満点のレーティング・システムと、年間ベストアルバムのような充実した批評コンテンツや音楽フェスティバルの開催などを通し、世界の音楽ファンたちから人気を博している。

21世紀のインディー・ロック・ブームにおける批評的な支えとなったり、アンダーグラウンド・ミュージックを積極的に発掘するなど、同時代の最も影響力の大きい大衆音楽の批評メディアと言っても過言ではない。

そのようなメディアでリストラが生じたことに対し、懸念の声が多く集まっている。韓国・日本で音楽批評を行う駆け出しライターの筆者として、その背景と所感を記したい。

※本稿は、2024年1月にKAI-YOU.netで掲載された記事を再構成したものとなる

「Pitchfork」のリストラに対する言論界の反応

世界で最も大きく活発な音楽批評メディア「Pitchfork」で人員削減が行われたことは、ジャーナリズム界に大きな衝撃をもたらしている。

『The Washington Post』では、「音楽ジャーナリズムの心苦しい損失」、「音楽批評誌が男性誌に併合されることで女性/性的マイノリティー/有色人種などの多様性を失うことが懸念される」などのコメントを掲載した(外部リンク)。

ジャーナリストのLaura Snapesさんは『The Guardian』誌で「Pitchforkは、毎日新しいレコード2〜4つのロングフォームレビューを公開することに専念する唯一の音楽窓口」であると紹介した。

それを維持していた従業員たちの失業を憂い、音楽批評が独立した分野として成り立たなくなることへの懸念を表明している(外部リンク)。

音楽評論家のAnn Powersさんは『NPR Music』誌で「音楽ライティングの発見、広報のような役割は否定できない」と言いつつも、それを好きな理由が「市場主導の必然性を回避できるということ」と主張。

また、「素晴らしい音楽は、人を減速させ、他の誰かの創造的な仕事に本当に没頭するスペースを生むことによって、人の生産性を台無しにする」。だからこそ、「Pitchfork」のような音楽批評ジャーナルが生産性・効率性と関係なく、あり続けるべきであることを力説している(外部リンク)。

他にも『Rolling Stone』のような同様の音楽マガジンから、アメリカの大手言論誌『The New York Times』に至るまで、この決定に懸念を示すコラムが発表されている。

ポップカルチャーにおいてジャーナリズムが追放されていく象徴のような事件として、ジャーナリストたちは声を挙げている。

それは批評の独立性が、経済的要求によって存廃に晒される危機感としても捉えられる。

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音楽批評が経済サイクルから逸脱した韓国