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2024.10.25
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映画『ふれる。』が、この10月より全国公開されている。
長井龍雪監督、岡田麿里脚本、田中将賀キャラクターデザイン・総作画監督による、オリジナル長編アニメーション映画だ。
その3人と言えば、制作チーム「超平和バスターズ」名義で、2011年放送の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下『あの花』)を皮切りに、『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)『空の青さを知る人よ』(以下『空青』)を世に送り出してきた。
「秩父三部作」と呼ばれるそれらを経て、3人は『ふれる。』で再結集することとなった。King & Princeの永瀬 廉、俳優の坂東龍汰、劇団EXILE所属の前田拳太郎の3人がメインキャストをつとめることでも話題に。
脚本家・岡田麿里による作品の系譜として考えても、本作には、過去作品と共通するモチーフとテーマ──作家性と言うべきものがうかがえる。
岡田麿里氏自身が、本作について語ったこと。
※作品の一部ネタバレを含みます
目次
- 「秩父三部作のその次」を、長井龍雪と田中将賀と3人で取り組む意味
- 「“ふれる”は当初、人間の形をしていた」
- SNSには、全部の感情があふれている
- みんな、言葉を尽くそうとはしている
- 『ふれる。』は、『あの花』とは裏返しの物語
- 悩みとの接し方が、物語になる
- だからこそ、みんなが幸せになることを諦めたくない
──映画『ふれる。』は、脚本を岡田さんが務め、監督を長井龍雪さん、キャラクターデザインと総作画監督を田中将賀さんが手がけた『あの花』(2013年)『ここさけ』(15年)『空青』(19年)の秩父三部作を経て制作されました。
岡田さんは『さよならの朝に約束の花をかざろう』(以下『さよ朝』/18年)、『アリスとテレスのまぼろし工場』(23年)では原作・脚本だけでなく、ご自身で監督もされていますが、改めてこのチームで脚本を手掛けるにあたり、作品との向き合い方などに変化はありましたか?
岡田麿里 監督を経験することで、現場の動き方など、これまで知りたかったことを知れた部分もあれば、反対に見たくないところも見えたりしました。監督と脚本では気にするポイントが違ったりと、脚本の書き方で変わった部分はあると思います。
ただ、長井監督や田中さんとの座組での作品というのは、自分の中でもちょっと不思議というか特殊な枠ではあるんです。監督業を経た上での脚本家としての変化というよりも、この座組での一作目から三作目にかけての変化はすごくあります。
「前作はこうだったから今作ではこうしよう」みたいな、このメンバーでしか積み重ねていない反省点の活かし方などがあって、そういった意味で独特だと思います。相手が何を求めているのか、どんなことがNGなのかが、どんどんわかってくる部分もある。
──秩父三部作を通して、このメンバーで培って共有してきたものがある、と。
岡田麿里 (アニメ制作において)同じ座組でここまで続くことって、あまりないと思うんです。制作現場は作品が終わったらバラしてしまいますし、ずっと仲良くやっていられるものでもない。意見が合わなくなってきたら、普通はそこで終わりになります。それに、プロデューサーにとってはスタッフ同士の新たなかけ算や足し算こそが腕の見せどころでもあるので、同じ座組というのは解体したがる部分もあります。
そうした中で、私たちはいつの間にか「秩父三部作をやる」という形で、一定の期間はずっと一緒にやっていく運命になりました。私たちは3人とも同年代で、『あの花』を始めた頃はまだ全員が監督や構成経験なども多くない状態で一緒に育ってきた。
「なあなあでやりたくないよね」みたいなことを話していた時期を経て、自分たちが何をやっていきたいのかが見えてきた。なので、前の作品から学んで具体的にこう変化したというよりは、私たちの歴史の中で今回はこうしよう、となって『ふれる。』に繋がったんだと思います。
──『ふれる。』では、主人公3人は“ふれる”を通じてお互いの考えていることがわかるという設定です。しかし、現実には“ふれる”はいないので必然、相手のことを理解するためには言葉で議論を交わさなければなりませんよね。制作中、どのような議論を交わしたのですか?
岡田麿里 この座組だと、それぞれの役割というのがもう結構できています。
私たち3人は、友情とも違うけどもちろん仲が悪いとかでもないですし、お互いの考えがなんとなくわかるときもあるけど……なんか不思議な感じなんです。表現が難しい。ただ、相手の考えていることがなんとなくわかったとしても、話をせずに十分わかり合えるということはありません。
長井監督はダメなモノに対しては絶対にダメと言う人で、こちらからのさまざまな提案を取捨選択した上で作品を組み立てていくんです。私としては、トップレベルに難しい監督だと思っているんですけど(笑)。
でも、だからこそ無理やりにでもぶつかっていって、それこそ相手に触れることでしか作品づくりも進まないのかなって。
──時には意見をぶつけ合いながらもコミュニケーションをしていくしかない、というのは『ふれる。』にも通じるテーマだと思います。
──そもそも『ふれる。』の制作は、どんな経緯から始まったのでしょうか?
岡田麿里 『空青』の完成前に、秩父三部作という括りではなく次をやりましょうか、というお話をいただきました。ざっくりとした内容を考えている時点から、“コミュニケーション”の話にしたいというのはありました。
また、最初に長井監督や田中さんをはじめ、いろんな人からやりたいことをヒアリングする場があって、そこで長井監督からは「男がワチャワチャしてる話がやりたい」という希望が挙がったんです。『あの花』や『ここさけ』など、これまではどちらかというと女の子の心の動きが強い作品をつくってきたので、次は男同士の友情をやりたい、と。
何より大きかったのが秩父三部作、つまり“青春”が終わって一歩先に進もうということで、上京の話として3人の男の子が共同生活をする話になったんです。
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