「ギャルはこうじゃなきゃ」という固定観念を壊せた──苺りなはむ×半熟卵っち×KOGYARU座談会
2024.10.16
クリエイター
この記事の制作者たち
2024年9月21日に開催された「THE HOPE 2024」にて、Creepy Nutsが出演した。
お台場に特設会場を設け、初めて2日間にわたって開催された「THE HOPE」には数万人のヒップホップファンが来場。
彼らの前で「合法的トビ方ノススメ」、「ビリケン」、「Bling-Bang-Bang-Born」と披露したR-指定は、その感慨を口にする。
俺がラップ始めた時、何年前の中学校高校の時
ヒップホップのフェスで こんだけ大勢のお客さん集まって
こんだけみんなが色んな人の曲知ってて 一緒に盛り上がって踊って
若手もレジェンドも出てくるようなイベント この規模でできるってまったく想像してなかった
自分の想像とか理想みたいな超えたとこにある現実が 今目の前に広がってます
HOPE 夢のような景色見せてくれてありがとう「THE HOPE 2024」R-指定
ヒップホップは今、これほどに市民権を得ている。この勢いを絶やさず共に盛り上がっていこうとR-指定は言う。
しかし続く言葉は、集まった客や運営への謝辞とは異なる意外な内容だった。
でもな 俺は この盛り上がりが このお客さんたち全員が 一人もいなくなっても
おらんようなっても たぶん変わらず ラップしてると思います
出てるやつ全員そうやって
流行ろうが廃ろうが このお客さんたち 十分の一なろうが いやもっとや 百分の一なろうが たった一人なっても そこに観に来てる奴 かますべき相手がおったら 変わらずラップしてますよ
だって俺に必要なのはこのマイク 一本のマイク これだけやから これがあればいけるから俺は あと一本のペン そして一枚のペーパー それがあったらリリック書けるから
どんな状況でも
あとはDOPEなBEATS それが鳴り響いたら 首ふって自然とライムしてるって
あと欲を言えば ステージとスピーカーとお客さん 集まってくれたら 全力でかますって
じゃあ そのステージも スピーカーも ビートもなくなったらどうすんのか
それでもやるって それでもやるって俺は「THE HOPE 2024」R-指定
そうして、R-指定はアカペラで「生業」をラップした。文字通り、独りで。DJ松永もいつの間にかステージを去っていた。
仮にお客さん全員が自分のもとを去ってしまっても、ステージもスピーカーもビートもなくなっても──もしかしたらスタッフや仲間すらも──それでもR-指定は、自分を含めたラッパーはマイクを持ってラップし続ける、という覚悟を突きつける。
おそらくはマイクもなくなり、歩道橋の上で誰も自分を意に介さない状態になったとしても、彼はラップを続けるのだろう。
客からすれば、盛り上がるフロアを前にR-指定が突然、客がいつか自分を見捨てるかもしれないという話をし始めて、一体どうしたことかと思っただろう。
これまでは「POP YOURS」や「THE HOPE」などのいわゆる“ヒップホップフェス”にはほとんど出演してこなかったCreepy Nutsが他のラッパーと肩を並べ、集まったヒップホップ好きの観客たちを沸かせ、日本語ラップにおける記録的なヒットを成し遂げたにも関わらずヒップホップコミュニティでの評価が追いつかない「Bling-Bang-Bang-Born」を観客と“念願”のシンガロングで披露した上で、わざわざその悲観的とも言えるビジョンを、この「THE HOPE」という大舞台でR-指定は伝えるのだった。
この口上はしかし、 非常にR-指定らしいとも言える。
筆者は、この日から遡ること12年前の、大阪での出来事を思い返す。この「THE HOPE」に集まった観客数より遥かに小さな規模のクラブでの、R-指定の後ろ姿が目に焼き付いている。
ここでは前後編にわたって、今日本のMCで最も知名度があり、売れていると言っても過言ではない「R-指定」のラッパー像に焦点を当てる。
目次
- もはや言うまでもないが、Creepy Nutsについてまずはおさらい
- 日本語ラップの偉業としては語られないCreepy Nutsの世界的ヒット
- 「お前らが間違った広め方をしたせいだ」R-指定の悲観的な未来予想図
- 「歌えるくせに」事件
- ヒップホップリスナーへの強い対決姿勢
- なぜ、Creepy NutsやR-指定はコミュニティから“受け入れられない”のか
- BOSSをして「存在自体が残酷」だと言わしめたR-指定
Creepy Nutsは2017年にSony Musicよりメジャーデビューした、DJ松永とR-指定の2名によるヒップホップ・ユニットである。
今では広く知られているが、自他共に認める卓越したスキルを持った2人だ。
DJ松永は「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019」に日本代表としてバトル部門に出場し、世界大会での優勝を果たしている。
R-指定は、2010年からUMB(ULTIMATE MC BATTLE)大阪予選大会を5年連続で優勝。さらには、当時MCバトルの日本一を決める大会であったUMB決勝大会で、2012年から2014年にかけて3連覇という前人未到の偉業を成し遂げた。
その後、『フリースタイルダンジョン』での活躍などからお茶の間にもその圧倒的即興力が広く知られ、MCバトルを事実上引退した今も、最強のバトルMCとして挙げられることが多い。
楽曲においても、快挙を果たしている。
YouTubeのウィークリー楽曲ランキングで「Bling-Bang-Bang-Born」がグローバルの1位を獲得、日本人としては異例の4週連続での首位となった。
米Billboardのグローバルチャートは最高8位、世界で最もヒットした日本の楽曲ランキングでは2024年上半期で1位に輝いた。
こうした大ヒットにもかかわらず、Creepy Nutsをヒップホップユニットとして音楽雑誌が表紙や雑誌のメインとして取り上げたのは「サウンド&レコーディングマガジン2022年11月号」のみであり、またこの世界的ヒットは日本語ラップの偉業としてはほとんど語られていない。
それは例えば、かつて「KOHH」として知られた千葉雄喜がMegan Thee Stallionの客演で参加した「Mamushi」のヒットが、日本のヒップホップの世界進出として取り沙汰されていることを思えば明らかだろう。
言うまでもなく、「Bling-Bang-Bang-Born」も「Mamushi」も、同じ2024年のリリースである。
メジャーシーンで大活躍するCreepy Nutsは明らかに、一部の層からは無視され続けている。後述するが、これはヒップホップにおいて市場に媚びるスタンスを忌避する“セルアウト”問題だけでは片付けられない。
Creepy Nutsの楽曲「未来予想図」に、こんなリリックがある。
鬼の首を取ったように
「ほら言わんこっちゃない」
「そうなると思ってた」
「初めからわかってた」
したり顔のヘイター
皆 水を得た魚
真っ先に槍玉
あげられんの俺かな?
「お前のせいでシーンにガキが増えた」
「お前らが間違った広め方をしたせいだ」と
戦犯 つるしあげ 容赦ない罵声Creepy Nuts「未来予想図」より
R-指定のリリックにはこうした「お前らが間違った広め方をしたせいだ」といった「正しい/間違い」の価値判断のうち、Creepy Nutsは「間違った側である」という指摘を受けているリリックが見られる。
この「広め方」は、今のヒップホップにおいてはたびたび議論される論点でもある。
有名なものとしては、「フリースタイルダンジョン 3rd season Rec 7-5 晋平太 vs T-Pablow」でT-Pablowがバトル中に放ったバースに同じ言葉がある。
T-Pablowがまず「ヒップホップは文化だ/ブームじゃねえ/てめぇらがクソだせぇもんにしてんじゃね? クソダサいラップのCMしない/腐っても鯛でいたいのが俺のスタイル」と言い、それに対し晋平太が「ブームに乗って増えてくれる皆のための文化じゃね?」と返す。
さらにT-Pablowは晋平太に対し「確かにヒップホップを広めることは大事/けど本当に大事なのは広めることよりも広め方/金稼ぐことよりも金の稼ぎ方」とラップしている。
このT-Pablowの言う「広め方」はおそらくは「未来予想図」で問題とされている「広め方」とほとんど同じ論点で語られたものであろうと思われる(なお、この放送と「未来予想図」は同じ2017年だが、後者の方が先にリリースされている)。
この「広め方」とは異なる言い方だが、「未来予想図」のリリック内にある「お前のせいでシーンにガキが増えた」は、リリースの3年前、「UMB2014 GRAND CHAMPIONSHIP BEST8 第4試合」でR-指定に呂布カルマが投げかけたパンチラインを彷彿とさせる。
呂布カルマはR-指定に対し、「今さら知った人間っていいな/俺は生まれた時から享受してるぜ/まじで/ニッポンに生まれてニッポン語/俺これ使った武器最強/R-指定/お前R-指定って名前負け/お前のラップに大人はあがらねえ/ガキ向けのラップ/ガキが増える/本物のMCが死ぬ」とdisる。
さらに締めのターンで呂布カルマは「客の耳なんか舐めちゃねえ/お前は俺のケツの穴を舐めろ/こいつらが今日何しにきたのか教えてやるよ/お前が負けるところ見にきてんだ/うぬぼれんな/頭がたけえ/俺には敬語を使って話せ/R-指定/バトル/つまんねえ/お前が持ち込んで来たんだその価値観」とラップし、R-指定は頷いている。
これがビートにあわせて首をゆらせているのか、それとも延長戦になった時のために反論を考えているのか、それはわからないが、リリックに影響を及ぼすほどの激闘であったことには違いないであろう。
ヒップホップは「広め方」であり、R-指定はガキを増やす。
こうした批判との戦いが、R-指定の「未来」においても繰り広げられる「業」のようになっていると筆者は考える。
筆者はこれまで、カルチャー同人誌『アレ』にて、「ヒップホップではない」とされるヒップホップの楽曲の議論などについて論じてきたため詳しくはそちらも参照いただきたいが、少なくともR-指定は、自分の人気がなくなった未来では、ヒップホップ評論家やヘッズ(コアなヒップホップファン)から一斉に罵倒され、それまでの頑張りも否定されるに違いないと考えていると、リリックからは読み取れる。
そこでは、「お前らが間違った広め方をした」と未来で言われるだろうと、ヘッズの言葉を“先取り”して予想している。
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