Interview

  • 2026.02.20

MCバトルとは、生きた脚本である──「KOK 2025」という物語が抱えた課題と、それでもたしかな熱狂

MCバトルとは、生きた脚本である──「KOK 2025」という物語が抱えた課題と、それでもたしかな熱狂

T-TANG(photo by Kohki Kanai)

クリエイター

この記事の制作者たち

KING OF KINGS 2025(KOK)」について文章を書く。

SNS上では否定寄りの賛否両論が交戦していた。

「仕事しづらい空気にすんなよ、ふざけんなクソが」

僕はそう思っていた。

どうしてこうなったのかを不特定多数の人間が、自分の言葉を自分なりに選んで投稿したりしている。タイムラインに流れてくるそれらを眺めて、僕はため息をつく。この「誰が一番的を射た事を言うか」選手権のせいで仕事を失いそうになるからだ。

やはり僕の仕事は僕の仕事を探すことなんだろうなと改めて思う。

一口に「文章を書く」と言っても「何」を書くかまでは指定されていない。言葉にできない部分を「痒い場所」と呼ぶなら、僕は一年中冬みたいに乾燥してる。

この文章は、そんな僕にとっての越冬譚なのかもしれない

目次

  1. MCバトルシーンが閉じていく感覚──それでも「KOK」は特別であるということ
  2. 9forとSitissy luvitの物語──「KING OF KINGS 2025」開幕
  3. 1回戦第1試合(TOKYO BEAT SOCIETY STAGE)
  4. 1回戦第2試合(呼煙魔 STAGE)
  5. 1回戦第3試合(L.A.B.O Engineer STAGE)
  6. 1回戦第4試合(KM STAGE)
  7. 1回戦第5試合(MITSU THE BEATS STAGE)
  8. 1回戦第6試合(KSMN STAGE)
  9. 1回戦第7試合(ラッパ我リヤ STAGE)
  10. 1回戦第8試合(Lil'諭吉 STAGE)
  11. 2回戦第1試合(GRADIS NICE STAGE)
  12. 2回戦第2試合(DJ KOPERO STAGE)
  13. 2回戦第3試合(FEZ BEATZ STAGE)
  14. 2回戦第4試合(AJ Rob STAGE)
  15. 準決勝第1試合(DJ RYOW STAGE)
  16. 準決勝第2試合(LIBRO STAGE)
  17. 決勝戦(IICEKRR STAGE)
  18. 大会を終えて──MCバトルは“生きた脚本”である

MCバトルシーンが閉じていく感覚──それでも「KOK」は特別であるということ

これも駄目 あれも駄目 リスナーは子供じゃねー”降神「ロックスターの悲劇」より

The Bugglesの「ラジオ・スターの悲劇」という曲がある。

曲名を知らずとも、おそらくほとんどの人が一度は耳にしたことのあるくらい世界的に有名な曲だ。

>The Buggles - Video Killed The Radio Star (Official Music Video)

ざっくりと説明すると、ビデオの時代が始まってラジオの時代が終わり、ラジオ・スターが殺されてしまうことを歌ったものだ。

2025年度のMCバトルには、そういう不安感がどことなく付き纏っていた。

2024年に「フリースタイル日本統一」が終わってから1年くらいはなんとなく変わらない感じの規模感でMCバトル文化が続いていくのかなと思っていた。

空気が変わり始めたのは2025年の10月くらいだ。

冷静に考えてみるとつい最近の話だ。

だけど、ここからの二、三ヶ月があまりに激動だったため理解がそれに追いつくのを恐れてしまったのだと思う。

10月4日に「真ADRENALINE 3on3頂上決戦」が渋谷HARLEMで開催された。

Amaterasに「チーム戦のやつ、どうします?」と聞かれて「え? なにそれ?」と返したのを覚えている。もし確認しなかったら公式発表で自分が出ることを知った可能性もあるが、まあそれは過ぎたことだから別にいい。問題は他の部分にある。

この時点で(たしか7月くらいだ)SAMやRude-αのチームがすでに発表されていて、僕は勝手にO-EASTでやるものだと思っていた。それがHARLEMだと気付いてから「なんでだろ」と少し考えてしまった。

それでも、メンツ的にはソールドアウトになるだろうし、そうなると会場の熱量は高まりやすいから、それはそれでいい大会になるかもしれないなんて呑気に捉えていた。

しかしながら他人事のように見えてこれは物凄く自分事の案件で「もしかしてMCバトルに履かせてもらっていた下駄を返しに行かなきゃいけない時が来たのか」と徐々に暗雲が立ち込めてくる。結局「真ADRENALINE 3on3頂上決戦」はソールドアウトにはならず、しかもゲストライブの発表もなかった(と言ってもお客さんは入っていたし、大会としても盛り上がっていた)。

ただ、この時の僕は自分の正直さというか、人間としての小狡さとか弱さを改めて実感する羽目になった。

よく「俺は場所を選ばねぇ」とか「1000人の前でも10人の前でもやることは変わらねぇ」なんて角度の言葉を使う人がいるけど、環境によってモチベーションが左右されてしまう自分がいないとは言い切れない。もちろん、頭では「ギャラを貰う以上は、ちゃんとやる」と意識しているし、チーム3人でスタジオにも入った。なのにここにきてどうやって自分を奮い立たせていいのかわからなくなってしまったのだ。

結果として、僕は自分の納得できるパフォーマンスができなかった。

モチベーションに上下のあるタイプではないと自分で思っていただけに結構気落ちした。

そこから、MCバトルのシーンでは悪いニュースが続いた。

晋平太さんの件から始まり、ACEが「真ADRENALINE」を離れること、怨念JAPが引退をすること。サイプレス上野さん主催のENTA DA STAGEが終わること。

急激に物語が閉じていくような、そんなもの悲しさに苛まれながら僕は自分のするべきことを考えていた。
 
MCバトルの規模感が縮小していく侘しさを無視できない中で、今年度も「KOK」が豊洲PITで行われるという事実が視野に入ってくる。

12月になるとKOKの出場者が顔を揃え始め、バトルビートの公開と共に注目が集まっていく。

僕と同じように一抹の不安を抱えていた人は多かっただろうと思う。

今の状況下で3000人を埋めることができるのだろうかと。

だからこそ「KOK」本戦のソールドアウトというニュースは衝撃的だったわけだ。

【出場MC】
01.9for(KING OF KINGS 代表)
02.NAIKA MC(戦極MC BATTLE 代表)
03.T-TANGG(KOK vs 真ADRENALINE 代表)
04.脱走(凱旋MC Battle 代表)
05.句潤(口喧嘩祭 代表)
06.Sitissy luvit(Red Bull ROKU MARU代表)
07.REDWING(NEO GENESIS 代表)
08.K-rush(THE 罵倒 代表)
09.L.B.R.L(U-22 MC BATTLE 代表)
10.PONEY(KOK全国大会 代表)
11.盧舎那(九州MCBATTLE 代表)
12.ST-C(ENTA DA STAGE 代表)
13.レイジ(SPOTLIGHT 代表)
14.MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻(UMB 代表)
15.Donatello(9SARI 選抜)
16.Bendy vs OWG(高校生RAP選手権代表決定戦)

【審査員】
漢 a.k.a. GAMI
Zeebra
FORK
ERONE
MOL53
KEN THE 390

【DJ】
KOPERO
ZAI
YANATAKE

【MC】
MASTER

9forとSitissy luvitの物語──「KING OF KINGS 2025」開幕

KOKへの出場が内定しているメンバーは、良くも悪くも見慣れたラッパーばかりだった。

ドラマ的な視点で見ると、9forSitissy luvitの頂上決戦にケリをつけるという構図が浮かび上がってくる。

9for_solo.jpg

9for(photo by Kohki Kana)

Sitissy-luvit_shot.jpg

Sitissy luvit(photo by Kohki Kana)

2025年度のMCバトルにおいて、一年を通して最も活躍したのはSitissy luvitだろう。これには誰も異論がないはずだ。

昨年度のチャンピオン9forと共に、大きな荷物を背負わされていたように思える。
 
2026年になり、気持ちはすっかり「KOK」を楽しみにしていて、例年通りの昂揚感がたぎっていた。

僕は他のラッパーに比べて、ABEMAで観られるMCバトルの大会は軒並みチェックしている方だと思う。ただ、それでも毎回毎回本腰を入れて観られるわけではない。移動時間だったり、事務作業の“ながら”視聴だったり、少し距離を置いた見方をしているのが日常である。

だけど、この季節になってくると趣が変わってくる。

去年、GILが9for戦で言っていたように「このKOKだけは一個違うんだよ」という重みは正直感じてしまっていた。

つまり要約すると「MCバトルの時代が縮小していく」という実感や不安に対して「予想外のKOK熱の高まり」そして「チケットのソールドアウト」という状況である。

開演前に、「高校生RAP選手権」の代表戦が行われる。

外ではまだ整理番号の遅い人が中に入りきれていないまま、それは始まった。

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