Interview

  • 2026.01.21

映画『爆弾』を観た元刑事に聞いてみた「犯人と取調室での頭脳戦って本当にある?」

本稿は、Webメディア「KAI-YOU」にて2025年11月18日に公開された記事を再構成したものです。

映画『爆弾』を観た元刑事に聞いてみた「犯人と取調室での頭脳戦って本当にある?」

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街を切り裂く轟音と悲鳴、東京をまるごと恐怖に陥れる連続爆破事件。きっかけは、「スズキタゴサク」と名乗る冴えない中年男が放った「霊感で事件を予知できます。これから3回、次は1時間後に爆発します」という予言──。

呉勝浩さんのベストセラー小説を原作にしたサスペンスミステリー映画『爆弾』が、10月31日から公開されている。その緊迫感溢れる展開とアクションは反響を呼び、累計動員は100万人を超え、興行収入は14億円を突破する爆発的な大ヒットスタートを記録した。

映画『爆弾』予告

佐藤二朗さんの怪演が際立つ謎の男・スズキタゴサクの“爆破予言”に翻弄される警察。そんな彼と取調室を舞台にした心理戦&頭脳戦を繰り広げるのは、山田裕貴さん演じる警視庁捜査一課・強行犯捜査係の刑事・類家だ。

類家をはじめとした刑事と爆弾魔・スズキによる、長時間にわたる取り調べと言う名の“対決”が象徴的だが、ふと「現実でもこうした取り調べはあるのだろうか」と興味がわいてくる。

山田裕貴さん演じる刑事・類家。スズキタゴサクの取り調べを担当し、事件解決に挑む

山田裕貴さん演じる刑事・類家。スズキタゴサクの取り調べを担当し、事件解決に挑む

数多ある警察を描いたフィクションの中で、映画『爆弾』は元警察の目にどう映ったのか。今回は、千葉県警に27年間つとめた森透匡(もりゆきまさ)さんと、警視庁に26年間在籍した西見高次(にしみたかし)さんの二人に、元刑事の立場から観た『爆弾』について話を聞いた。

文:フガクラ 取材・編集:恩田雄多(KAI-YOU)
※この記事には映画『爆弾』のネタバレが含まれます。

目次

  1. 元刑事が驚愕したスズキタゴサク役・佐藤二朗の怪演
  2. 元刑事が『爆弾』で“現実でもあり得る”と感じたシーン
  3. 警察の人数と取り調べ時間は「さすがにフィクション」
  4. 取り調べ担当刑事の交代「プライドや指揮の観点から容易ではない」
  5. 元刑事が「リアル」と感じた刑事ドラマとは?
  6. 若年層が加担しがちなトクリュウ「絶対救出できるから相談してほしい」

元刑事が驚愕したスズキタゴサク役・佐藤二朗の怪演

──まずはお二人の自己紹介として、警察時代にどういった事件を担当されていたか、そして現在の主な活動についてうかがえればと思います。

 森透匡です。千葉県警で警察官を27年、うち刑事を20年つとめていました。刑事としては捜査二課所属、つまり知能犯担当ですね。あとは詐欺・横領・選挙違反など、組織犯罪対策課にも長く在籍していました。

若い頃は、捜査一課の事件応援や、薬物・銃器の事件を追いかけることもありました。警察時代の最終的な役職は警部で、捜査本部などで指揮を執る立場でした。

現在は日本刑事技術協会(※)の代表で、企業顧問・コンサル、講演・研修、テレビ出演など、元警察官ならではの活動を行っています。

元千葉県警警部で現在は詐欺・横領等知能犯事件専門家の森透匡さん

元千葉県警警部で現在は詐欺・横領等知能犯事件専門家の森透匡さん

西見 西見高次と申します。私は通算、26年間警視庁に在籍していました。20代は交番・パトカー勤務で、一時期は柔道の特別訓練員(選手)も経験しました。その後、機動隊の爆発物処理班に約3年在籍した後、29歳頃に刑事へ配属。それ以降は主に暴力犯事件担当、いわゆる“マル暴”の経験が長かったです。

現在は行政書士事務所の運営と、警察が取り扱いにくい微妙な事案の相談を受けて解決する株式会社プライベートポリスの代表をしています。

元警視庁マル暴刑事で現在は暴力団関係事件・情報専門家の西見高次さん

元警視庁マル暴刑事で現在は暴力団関係事件・情報専門家の西見高次さん

※一般社団法人日本刑事技術協会:刑事として培われた観察力・判断力・対人対応力などの「刑事技術」を社会に活かし、企業や団体のリスクマネジメント、危機管理、コンプライアンス体制の強化を支援。警察OBの知見を基に、研修・講演・コンサルティングを通じて安全で健全な社会づくりに貢献している。

──実際に映画『爆弾』をご覧になって、元警察という立場からどのように感じましたか?

 忖度なしで率直な感想を言うと、非常に面白い映画でした。取り調べシーンを軸に爆弾事件を扱う刑事ドラマというのが、とにかく新鮮で。

あと、佐藤二朗さんら役者陣の演技が良くて、取調室で行われる犯人の追い込み方もリアリティがあった。印象に残ったのは街中で爆弾が起爆して、たくさんの人々が逃げ惑うシーン。特撮も迫力があって、撮影するのは相当手間がかかっただろうなぁと。

佐藤二朗さんの怪演が話題を呼んでいるスズキタゴサク

佐藤二朗さんの怪演が話題を呼んでいるスズキタゴサク

爆弾の爆発シーンも見どころの一つ

爆弾の爆発シーンも見どころの一つ

西見 私もいち観客としてスズキタゴサク役の佐藤二朗さんの演技に感動しました。普段、テレビドラマでたまに拝見するんですけど、あんなに迫力のある役者さんだと思わなかった。劇中で長台詞を一気に捲し立てるシーンがあるんですが、あの長尺で観客に恐怖や緊張感を与えられるのは、相当な演技力ですよね。

物語の内容については、現代であれほど大規模な爆弾事件はほとんどあり得ないと思います。とはいえ、エンタメとして取り上げてくれたお陰で、若い人に警察の重要性を伝えられる良い作品だと思いました。

元刑事が『爆弾』で“現実でもあり得る”と感じたシーン

──劇中のシーンで、実際の現場でも「あり得る」と思った部分はありますか?

 取り調べにおける一連の流れは、かなりリアリティがあると思います。

スズキタゴサクが、最初は自販機を壊した器物損壊事件での連行でしたよね。ただ、野方署の刑事である等々力(演:染谷将太さん)が取り調べ中、被疑者の供述が現実の爆発と符合していって、連続爆発事件の可能性が浮かんだあたりから雲行きが怪しくなる。

捜査一課から強行犯捜査係の刑事である清宮(演:渡部篤郎さん)と類家が乗り込んできて、取り調べの担当者も等々力から捜査一課の二人に変わる。

この流れは自分も観ていて、確かに取り調べの担当が変わるだろうなと思いました。こういう時は、一課が夜だろうと何だろうと、事件に乗り込んでくるんですよ。ましてや、今回は連続爆発の疑いがある事件なので。

染谷将太さん演じる野方暑の刑事・等々力は、捜査一課が来たことで取り調べ担当を交代に

染谷将太さん演じる野方暑の刑事・等々力は、捜査一課が来たことで取り調べ担当を交代に

──捜査一課など各課で、それぞれ担当する事件が違うということですよね。それぞれどのような担当になっているのでしょうか?

 捜査一課が、殺人・強盗・性犯罪・立てこもり・爆弾などの強行犯。次に、捜査二課が詐欺・横領・選挙違反・贈収賄などの知能犯。三課が窃盗。四課が暴力団関与案件を横断的に担当します。呼称は今では変わっているものもありますが、おおむねこのような分担です。

だから強行犯とわかった途端に、事件を担当する課が変わるわけです。その点は、映画でも実際の警察の動きをしっかり研究していると感じました。

それから、取り調べで被疑者から出た情報が捜査に活かされていくところ。映画みたいにクイズ形式ではないだろうけど、被疑者のたった一つの言葉が、事件解決に繋がるというのは現実でもあり得ると思います。

西見 自分も映画を観ながら、強行犯だと判明した後、急に捜査一課が乗り込んでくる流れは「あるな」と思いました。

それから、交番勤務・巡査長の矢吹(演:坂東龍汰さん)が、刑事への昇進をかけて、一生懸命捜査を進めるじゃないですか。活躍することで刑事へのキャリアに繋がる事件であれば、現実でも張り切ることは全然あるし、気持ちはわかります。

坂東龍汰さん演じる矢吹(右)は、刑事になるチャンスとして野心的に捜査に打ち込む。伊藤沙莉さん演じる交番勤務の倖田(左)と行動を共にする

坂東龍汰さん演じる矢吹(右)は、刑事になるチャンスとして野心的に捜査に打ち込む。伊藤沙莉さん演じる交番勤務の倖田(左)と行動を共にする

西見 ただ、矢吹の捜査はあまりにもスタンドプレー過ぎる(笑)。組織命令を無視して事件と関連性の高い現場に向かった時点で、即処分対象です。犯罪捜査規範(※)にも反しますから。

※犯罪捜査規範:日本の警察官が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構えや捜査の方法、手続など捜査に関する必要な事項を定める国家公安委員会規則。

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