LGBTQ差別はなぜレゲエに深く根差してきたのか? ヘイト騒動に巻き込まれたMINMIインタビューも
2022.11.05
I'm sick of you bein' rich and you still mad, let's talk about it
「もう金持ちになったのに、まだお前が怒っていることに反吐が出る」
これは2018年にMachine Gun Kellyがエミネムをディスした楽曲「Rap Devil」の一節だ。同曲は、エミネムの前アルバム『Kamikaze』内の「Not Alike」という楽曲に端を発したビーフ(抗争)から生まれた。その直後に発表されたアンサーソング「Kill Shot」でエミネムに軍配が上がったものの、上記のMGKのディスが的を射ていたのも事実だった。
he’s been rich and mad for 20 years straight. 🤣🚮
— colson (@machinegunkelly) January 17, 2020
「今回のエミネムは何に対して怒っているのか?」。これは彼のアルバムが発表される度に、リスナーや海外のレビュアーが注目するポイントだ。世界のセールスも含めると通算2億2千万枚もCD盤を売り上げた男は、なおも怒りの声を上げることを期待されている。
前作の『Kamikaze』は、前々作のアルバム『Revival』が批評家たちや同業者から散々の評価を受けたことへの「怒り」のアンサーとも言える、まさに全方位型ディス作品だった。皆の求めている「昔のエミネム」の片鱗を見せた同作は、ディスの話題性も含めて一定の評価を収めることに成功した。
それもそのはずで、彼の復帰を祝した2009年の6thアルバム『Relapse』以降は、どちらかと言えば彼自身の処方薬中毒からのリハビリの意味も込められた、自己啓発的な曲に注目が集まることが多かったのだ。サウンド自体も、有名女性ボーカルを迎えた、良くも悪くもスタジアム映えするタイプの楽曲が増えていた。かつてのティーンエイジャーたちがチープなイヤホンを通じてビジュアライズしてきた、怒れるホワイト・トラッシュ(低所得者層の白人)の姿はもうそこにはなかった。
しかし『Kamikaze』では、業界の現状や若手の同業者に怒るエミネムの姿を見ることが出来た。次はどんなテーマで以て業界に爆弾を落としてくれるのか? 古参・新参のリスナーがエミネムの綴る楽曲に注目を集める中、突如発表されたのが、本稿で取り扱う『Music To Be Murdered By』だ。全20曲、再生時間1時間超えの大作で、回転数を重視する近年のストリーミング・サービス向けにマーケティングされた作品とは一線を画するアルバムと言えるだろう。
まずはリリースと同時に公開されたMV「Darkness(ダークネス)」に触れたい。同曲について考えるにあたっては、まずエミネムの持つ私小説性に言及する必要がある。
ラップには一定の私小説性が必然的に伴うが、エミネムは一貫して私小説家としてのスタンスを保ってきた稀有なラッパーだ。多くのラッパーは、まずは自身の過酷な生い立ちを曲にして成り上がり、一定の成功を収めた後に、名声と金に付きまとう新たなトラブルを曲にする。もちろんそのネタもいずれは尽きるため、今度はアーティスト路線に転向していくのが定石だ。
しかし、エミネムは違う。彼は今回のアルバムでも虐待的だった自身の母親や継父(M12:Stepdad)、ほとんど面識の無かった父親(M9:Leaving Heaven)、そして元嫁キムとの愛憎(M14:Never Love Again)について歌っている。彼が今までも散々売り物にしてきたテーマの焼き直しだと穿った見方をすることも出来るが、普遍的かつ悲劇的なアメリカの家庭事情に対するセラピーを彼なりに続けているという印象を筆者は受ける。
エミネムが「Darkness」で披露する圧倒的なストーリーテリングの巧みさを、彼の名曲「Stan(スタン)」と比較するレビューが散見されるが、両曲を分かつのは私小説性と共感性の昇華の仕方だ。まずは下記の「Darkness」の歌詞の拙訳と解説に目を通してから、読み進めることをお薦めしたい。
「Stan」は、「エミネムの生い立ちに共感する、熱狂的なファンの綴ったファンレター」という体で物語が進んでいく。同曲は、その手紙に返信をもらえなかったファンが自暴自棄になり、命を落とすところで終幕する。そこに込められているのは、現代の妄執的とも言えるセレブリティ崇拝への批判と、自身と同じ境遇で育った仲間を音楽で救うどころか、自分が間接的に殺してしまったことへの無念と不条理さへの嘆きだ。
自分に共感してくれるファンに「共感」する。それをストーリーテリングを以て作品に昇華したのが「Stan」だ。
対して、「Darkness」は終始エミネムのリアルな視点から紡がれ、より強い私小説性が付与されている。ライブ前の不安とプレッシャーを、抗不安薬と酒で飲み込もうとするエミネム。しかし、いつしかその視点はラスベガス銃乱射犯のそれとオーバーラップしていく。
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