紛争国で、スケボーが女性人気No.1スポーツになるまで

Interview

  • 2020.03.03 19:00:00

紛争下のアフガニスタンに、一人のスケーターが持ち込んだ文化。やがてそれは、自由と平等を育むことになった。

「Skateistan」創設者のOliver Percovichインタビュー。

紛争国で、スケボーが女性人気No.1スポーツになるまで

Skateistan

2020年2月9日に発表されたアカデミー賞。『パラサイト 半地下の家族』の快挙や、『ジョーカー』『1917 命をかけた伝令』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』など大作の受賞が話題をさらうなか、短編ドキュメンタリー賞を受賞したのがキャロル・ディジンガーによる『Learning to Skateboard in a Warzone (If You’re a Girl)』だ。

Learning to Skateboard in a Warzone

英国アカデミー賞(BAFTA)短編映画賞受賞も果たした本作は、スケートボードを通してアフガニスタンの少年少女に無料で教育を提供する団体「Skateistan」(スケートイスタン)にカメラを向けたドキュメンタリー作品。イギリスの映画監督・Orlando von Einsiedelによる2011年公開のドキュメンタリー映画『Skateistan: To Live and Skate Kabul』をもとに制作された。

Skateistanを設立したのは、パプアニューギニア出身でオーストラリア人のスケートボーダー・Oliver Percovich(オリバー・パーコビッチ)だ。

Oliver Percovich

Oliver Percovich Photo by Jeremy Meek

オリバーは、スケートカルチャーが存在しないアフガニスタンにスケートボードを持ち込むことで過酷な環境に身を置く少年・少女にとっての安息地をつくり出し、スケートボードをアフガニスタンの少女たちにもっとも人気のあるスポーツに変えた。現在では女性の社会的地位が低いアフガニスタンにあって、同国のフィメールスケーターの割合は世界でもっとも高いものとなっている。

米政府とタリバンが和平合意に署名する歴史的な出来事が起きたのはつい先日のことだが、「Skateistan」設立当時混迷を極めるアフガニスタンに渡ったオリバーにインタビューを行った。

インタビュー・執筆:和田拓也 編集補佐:新見直 素材提供:Skateistan(ウェブサイト:https://skateistan.org/

スケートボードはあらゆる壁を超えるLevellersだった

Photo by Jake Simkin

Photo by Jake Simkin

25年の歴史を持つスケートボードの国際大会・Mystic Cupに出場するほどのキャリアをもつスケーターであり、オーストラリア政府の調査機関に従事するオリバー。彼がはじめてアフガニスタンの国土を踏んだのは、研究者であるガールフレンドの仕事に同行した2007年のことだ

当時のアフガニスタンは、アメリカ同時多発テロ事件(9.11)が発生した2001年から約19年にわたって続くことになるアフガニスタン紛争の真っ只中。反政府武装勢力タリバンとアルカイダによる自爆攻撃や米国・NATO軍の空爆により、民間人に多くの犠牲者が出ている。それが世界中のメディアが伝える同国の状況だった。

そんな状況下にあるアフガニスタンで、オリバーはストリートへと繰り出す。これまで50を超える国々を訪れたなかで、いついかなるときもスケートボードを手放さなかったというオリバー。もちろんこのアフガニスタンも例外ではなかったようで、舗装もされず、脇には戦車が停まる凸凹のストリートでスケートを楽しんだ。

Photo by Jake Simkin

Photo by Jake Simkin

「最高の気分だったよ。僕は生涯スケーターでいたいと思ってるし、新しい環境でスケートすることを何より愛してるからね。カブールのストリートはめちゃくちゃ荒れてたけど」。オリバーはそう語り、当時のアフガニスタンの人々の反応を振り返る。

「アフガニスタンにはスケートカルチャーそのものが存在しなかったし、当然スケートボードなんて知らないから、リアクションの仕方すらわからないって感じだったよ(笑)。ただただ不思議そうに僕がやることを見てた。特に子どもたちは、自分たちにとってまったく新しいものであるスケートボードに興味津々だったね

それからオリバーは幾日もストリートへ繰り出し、子どもたちとスケートをした。このときオリバーのスケートボードを借りてスケートした子どもたちは、もしかしたらアフガニスタン初のスケーターかもしれない。はじめて目にするスケートボードに熱中する彼/彼女らは、どこかこれまでにない新しい自由を感じている。オリバーの目にはそう映った。

Photo by Jake Simkin

Photo by Jake Simkin

それからというもの、オリバーは地元住民に毎日のようにお茶に誘われるようになり、沢山の時間をともに過ごした。“西側”の人間である自分への敵意は感じなかった。彼らは世界の人々が考えている以上に温かく、彼らを幾度となく振り回す紛争から立ち直ろうとするしなやかさがあった。

「常に彼らの立場になってものを考えようとするんだけど、その度に彼らがもつ困難な状況から立ち直る知恵と力強さに驚かされるんだよ。自分と異なる人々と深く関わると、自分と相手の間に共感が生まれる自分とまったく異なる文化からやってきた人間を理解するのは難しいことだけど、あらゆる境界線が曖昧な今の世界では、これはすべてのひとにとって重要なことなんだと思ったよ」と、オリバーは語る。

アフガニスタンの北東から南西に1200kmにわたって延び、標高4000m級の山々が連なるヒンドゥークシュ山脈、山脈の合間を縫って道が連なるサラン峠、それを超えた先にあるパンジシール渓谷(※)──。オリバーがモーターバイクを走らせて幾度も足を運んだというアフガニスタンの風景は彼を惹きつけたが、何より心を動かしたのは、スケートボードを通して知ったアフガニスタンの人々そのものだった。

※ソビエト連邦の赤軍にもタリバンにも制圧されなかった唯一の地域。「パンジシールの獅子」と恐れられたアフガニスタンの英雄、アフマド・シャー・マスードが指揮した

Photo by ChadForeman

Photo by ChadForeman

アフガニスタンの子どもや女性が直面する障壁

しかし同時に、アフガニスタンの子どもたちや女性が直面する問題も知ったという。

アフガニスタンの人口の70%を25歳以下の若者が占め、半数は16歳以下。貧困により子どもたちは早くから路上で仕事をし、満足な教育を受けられない。学校にいく子どもの数は世界で最も少ない国の一つで、かつてのタリバン政権下で教育システムが崩壊して以降は、女性の識字率は世界最低レベルの13%という調査結果が出ている。

当時、女性に対し非人道的な扱いを行ってきたタリバン政権の影響が残るなか、復権を恐れ女性が外で仕事をすることやスポーツに参加することは許されていないことがほとんどだった。少年少女たちが直面していたのは、当時頻発するテロによる危険だけではなかったのだ。

Photo by Andy Buchanan

Photo by Andy Buchanan

特に女性の社会的地位の低さにショックを受けたオリバーは、スケートボードに熱中する子どもたちを思い浮かべた。

「何ていうか...スケートボードをはじめて見る子どもたちにとって、それは自分たちをどこか違う場所に連れて行ってくれるものだったんだよ。日々の生活に常につきまとう最悪な出来事を忘れさせてくれるね。彼/彼女らは、世界中の子どもたちと何ら変わりない。安心して、何かを楽しみたいだけなんだよ。

スケートボードは、誰もが参加できて、ジェンダー、年齢、民族、貧富、文化的背景──彼らを取り巻くあらゆる壁を超える、ある種のLevellers(人を隔てなく平等な立場におくもの)なんだと知った。そのときSkateistanのアイデアが頭の中に浮かんだんだ」

こうしてオリバーは女の子たちを集めてスケートセッションをはじめた。場所は彼がカブールで見つけた、ソビエト式の団地に打ち捨てられた噴水。水不足を襲ったアメリカで、ティーンたちが目を盗んでスケートした富裕層のプールと重なった。

Photo by Jake Simkin

Photo by Jake Simkin

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“抜け穴”になったスケートボード