
『オトナ帝国』から『レディ・プレイヤー1』へ 消費ではない継承の可能性
作品を貪るように楽しむこと。それを誰に責められるいわれもない。しかし、文化を消費することと、継承することとは、似ているようで全く異なる様態だ。縮小再生産される“懐かしさ”も“新しさ”も、半永久的に消費できるという点において相違ない。
文化を継承する鍵を、映画『レディ・プレイヤー1』の中に見た。

スティーヴン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』は確かに傑作だ。劇場での鑑賞が必須な映画体験であり、映画史に残る映画だと言いたい。
ただ一つ、腑に落ちない点を挙げるなら、それはこの映画の“語られ方”にある。
映画の感想サイトなどでの本作のレビューはおおむね好評だ。いわく、「映画・アニメ・ゲームオタクのための様々なシーンやキャラクターの引用」や「VRコンテンツの未来描写」が広く人々にウケているようだ。だが、この映画の本懐はそこにはない。
いや、むしろそれら「過去のコンテンツへの懐古」や「未来描写」の否定にこそ、この映画のテーマが宿っているように感じたのだ。スピルバーグと原作者が、この映画で問いかけているのは、“消費”ではなく“継承”なのではないか?
グラフィック制作・執筆:たかくらかずき 編集:新見直
※本稿は、2018年5月「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの
変わらぬ欲望、進化できない人類
『レディ・プレイヤー1』の世界観はこんな感じだ。舞台は2045年の荒廃した近未来。世界中の人々はみんな現実そっちのけで、VRの世界に没頭している。
生活における食事やトイレ以外のほとんどの行為が可能なVR空間「オアシス」では様々な欲望を満たすことができるが、ひとたびHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を外すと問題尽くしの絶望的な現実世界が目の前に広がっている。

『レディ・プレイヤー1』(c)2018WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
そんな中、オアシス開発者であるジェームズ・ハリデーの死後、ゲームの中に潜んでいるという「イースターエッグ」(裏技)を探すゲームが始まる。
エッグを見つけるとオアシスの運営権をもらえるついでに億万長者になれるため、そのゲームは世界を巻き込んだ。ハリデーの残したエッグを手に入れるため、現実の豊かな生活を手に入れるためには、彼の心酔した80年代ポップカルチャーに精通する必要があった。
ひとことで言えば「全人類総オタク化」の世界だ。
オアシスでやることといえば、富・力・名声を得ること。いくら近未来で技術が進化していても、人間の欲望が変わることはない。映画の冒頭ではっきりと、「どこまでいっても人間の欲望はこの程度だ」という見解を突きつけられることになる。
そう、この物語はまず、いつまでも進化できない人類の物語として始まる。
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