
同性愛者が見た『ズートピア』論 多様性と偏見を巡って
人種や性別、年齢、価値観…個人を規定するファクターは無数に存在する。時にはそれが、相互理解の妨げとなることがある。
自分とは異なる人とともに暮らすこの世界で、それでも手を携えて生きるために必要な態度は、“許す”ことだろうか。

ディズニー映画『ズートピア』。現在、国内累計興行収入53億2975万5500円を超え、全世界興収でも10億ドル突破が有力視され、『アナと雪の女王』に迫るほどの大ヒットを記録しています。
すでに、ネット上でも本作を絶賛するレビュー記事は、数多く公開されています。
本稿では『ズートピア』の魅力を簡単に紹介すると共に、作中で「感動の名場面」とされているあるシーンから、本作のテーマとされる“差別や偏見”について、極私的な立場で筆者なりに紐解いていこうと思います。
※本稿は、2016年6月「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの
『ズートピア』はありふれた良い話だったか?
本作の簡単なあらすじは、以下の通り。
肉食動物が草食動物を捕食する野蛮な時代ははるか昔に過ぎ去り、動物たちは文明を築いて暮らすようになりました。
その象徴ともいえるのが、さまざまな種族の動物が共生する文明都市“ズートピア”。ここは誰もが夢をかなえられる楽園。そんなズートピアから遠く離れた田舎町で育ったウサギのジュディ・ホップスの夢は、“ズートピア初のウサギの警察官になって、世界をより良くすること”。
「ウサギは警察官になれない」という両親の説得や警察学校の厳しい訓練を耐えぬいたジュディは見事警察官となり、ズートピアに着任します。
しかし、赴任した警察署(ZPD)でジュディは疎んじられ、同僚が街を騒がす連続失踪事件の捜査にあたる中、ひとり駐車禁止違反の取り締まりを命じられます。そう、ここズートピアにも種族に対する差別や偏見は存在したのです。
めげずに頑張る彼女は、詐欺紛いの商売を生業とするキツネのニック・ワイルドと出会います。ニックは“ずる賢い”というキツネのパブリックイメージ通りに生きているように見えます。出会った当初は、互いに反発し合うジュディとニック。
しかし、ある事件をきっかけに2人は共に連続失踪事件の謎を追うことに──。
正直な話、筆者個人的には、鑑賞前の『ズートピア』の第一印象は、決して心惹かれるものではありませんでした。
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なぜニックはジュディを許したのか?
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