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  • 2022.05.29

少女へ託す危うさに、書き手として無自覚ではいたくない 伴名練インタビュー

作品集『なめらかな世界と、その敵』の著者・伴名練。同作の大ヒットからアンソロジーを立て続けに刊行し、日本SF振興に力を入れてきた。

そして現在、女性作家たちの足跡を追う連載を持ち込んで『SFマガジン』で執筆している。SF出身で芥川賞も受賞している高山羽根子も同席した取材現場にて、日本SFのこれまでを問い直す。

少女へ託す危うさに、書き手として無自覚ではいたくない 伴名練インタビュー

文庫化された『なめらかな世界と、その敵』を軸に、現代を代表するSF作家・伴名練の「SF観」について前編では掘り下げた。

後編では、その作品における少女性から主題、そして現在『SFマガジン』誌上で連載する、SFにおけるジェンダーバランスについて、話が深まっていく。

同席されていた小説家・高山羽根子さんを交えながら、伴名練の目を通して向き合っているものに迫る。

目次

  1. 少女性、あるいは伴名練作品の主題
  2. 「SFは女にわかるわけない」日本SFの最初期を問い直す
  3. ファンダムの分断と再興
  4. 「新井素子」という存在
  5. 才能と作品が増えることは嬉しい、けれど
  6. SF的な想像力が広がったからこそ

少女性、あるいは伴名練作品の主題

──『なめらかな世界と、その敵』はジュブナイル小説としても広まった側面があると考えています。その要素の一つとして、伴名さんの近年の作品では、少女を主人公にすることが非常に多いように思えます。少女というモチーフに何か意図しているものがあるんでしょうか。

伴名練 同人誌に書いているものも含めて、改めて自分でもいろいろ確認したところ、あるタイミングまでは男性が主人公のものが多いんですよ。

『少女禁区』

伴名練のデビュー小説『少女禁区』

まずデビュー作の「少女禁区」は、男性が主人公じゃないですか。「フランケンシュタイン三原則、あるいは死者の簒奪」※1もそうですし、「かみ☆ふぁみ 〜彼女の家族が「お前なんぞにうちの子はやらん」と頑なな件〜」※2もそうです。では、どこで決定的に変わったかというと、それが2015年に書いた短編「なめらかな世界と、その敵」なんですね

この作品、実は、最初はボーイ・ミーツ・ガールで書いているんですよ。もともとは平行世界同士を穴が貫通している世界での少年と少女の話だったんですけれど、似たアイデアで別の作家が発表したので、全部リメイクしないといけなくなってしまって。

でもリメイクにあたってボーイ・ミーツ・ガールでもう一回書くのはモチベーションが上がらなかったので、女性を主人公にしてみたんです。そのときに発見したんですが──この話を男性の主人公で書くと、結構マッチョな話になるんですよ。そこを女性にすることで、作者と性別が違うからかマッチョからだいぶ遠ざかることができた。

※1 「フランケンシュタイン三原則、あるいは死者の簒奪」:『伊藤計劃トリビュート』(インタビュー前編で言及された同人誌ではなく、ハヤカワ文庫JAとして出版された同名の別アンソロジー)所収

※2 「かみ☆ふぁみ 〜彼女の家族が「お前なんぞにうちの子はやらん」と頑なな件〜」:『NOVA 10』所収

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表題作を収録した作品集『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)Via Amazon

伴名練 それと、決断をするときに失うものがある、という話を自分は書きがちなんですけれど、大人って、いろんなものを捨てられないんですよ。大人になるほど、いろんなものを失うことがわかっていてもそれらを切り捨てて何かを選ぶ、ということがしづらくなる

「なめらかな世界と、その敵」に関しては、男女に限らず、20歳を超えたらたぶん主人公はこんな決断はできないだろうなと。14、15歳だからギリギリできる。その2点から、おそらく自分の小説が「少女」に固定されていったんじゃないかな、と思っています。

──たしかに『ベストSF2021』にも収録された「全てのアイドルが老いない世界」も、まさに何かを得るために何かを捨てる、という話でした。

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『全てのアイドルが老いない世界』(集英社)Via Amazon

伴名練 これはスタート地点がまず違っていて、吸血鬼を人類と共存させたいというところから始まったんです。吸血鬼もののフィクションって、共存していてもどこかで人類と衝突が起こる話が多いんですけれども、ちゃんと共存するにはどうしたらいいのか、と。そう考えたところから逆算してできていったものなんですね。なので、「なめらかな世界と、その敵」とはちょっと違うんです。

それからアイドルって、ある種の搾取じゃないですか。大人が子どもたちを、少年であれ少女であれ、その若さ、エネルギー、あるいは人生というものを消費するわけですよね。その時に、トレードオフじゃないとやってられないはずで、だからああいう形にしたんですよね。

(早川書房の担当編集)溝口力丸 比較的最近の2作、『異常論文』の「解説──最後のレナディアン語通訳」と、『文學界』の「葬られた墓標」に関しても、搾取されるというか、眼差される少女が出てくる話でしたよね。

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『異常論文』(早川書房)Via Amazon

伴名練 自分がやっていることを突き詰めて考えると、どうしてもそういうところに向き合わざるを得なくなっていくんです。

少し前にスケバンものの「インヴェイジョン・ゲーム1978」※3という作品を書いたんですけれど、スケバンのいちばん重要な資料って、1970年代のスケバン全盛期に、とある作家が書いたルポタージュなんですね。でもこの作家、最終的に未成年に手を出して逮捕されるんです。

スケバンの実態を取材して報道していた人間が自分で手を出すなんてマズいだろうと思った時に、他人ごとではなく少女を小説に書き続けている自分にも跳ね返ってくる話ですよね。「インヴェイジョン・ゲーム1978」はまさに、そういう気持ちが書かせた部分はあります。

※3 「インヴェイジョン・ゲーム1978」:『狩りの季節 異形コレクションLII』所収

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