
「地雷原を全力疾走しているよう」早川書房 “ヤバい“新鋭SF編集者の仕事術
劉慈欣の『三体』やテッド・チャン『息吹』、伴名練『なめらかな世界と、その敵』など、近年SF作品の話題作を次々と発表してい…
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アニメ化が決定した『裏世界ピクニック』(宮沢伊織)や『大進化どうぶつデスゲーム』(草野原々)など、新進気鋭の若手作家の作品を手掛ける早川書房編集者の溝口力丸さん。
SNSやnoteでも出版情報やインタビューを積極的に発表し、作家とSFファンを巻き込んだ「百合×SF」フェアを仕掛けたことでも知られている。
前回のインタビューでは、SF作品の編集術のポイントを詳しく語ってもらった。しかし彼が多くの読者たちから注目されるのは、専門的な編集の技能だけが理由ではない。ハヤカワの次世代を担う若手作家たちを大きく飛躍させ、noteやTwitterを活用し、新たなSFのムーブメントを引き起こしている点にある。今回は、溝口さんに新人作家の発掘方法やネットを活用したムーブメントの仕掛け方などについて聞いた。
インタビュー・執筆:ゆりいか 撮影・編集:和田拓也
溝口力丸
──草野原々さんや宮澤伊織さん、伴名練さん等、ここ数年で日本SF小説の新たな書き手たちが続々登場していますが、こうした新人が次々と発見される背景には何があると考えていますか?
2010年代にSF作家が次々台頭した理由に、弊社主催の「ハヤカワSFコンテスト」や東京創元社の「創元SF短編賞」の影響はあると思います。小説の賞を獲得してデビューしたいという書き手志望の方々が集まった結果、実力のある作家さんも発見しやすくなったのではないかと。草野原々さんはハヤカワSFコンテストの特別賞を受賞したことで大きく注目されましたし、宮澤伊織さんも元々はライトノベル作家としてデビューされていましたが、創元SF短編賞を取られてからSF読者の人気もより高まるようになりました。
また大森望さんが実施している「ゲンロンSF創作講座」などにも多くの受講生が集まっていることからも、書き手たちがこのジャンルに注目していることが分かりますね。
──SFの小説賞が登場したことがジャンルを活気づけることになったと。
書き手側からすれば、デビューの間口が広がっていろいろなタイプの作家が増えたことで、「ここなら面白いことができるかも」という期待感を持てたのだと思います。面白いSF作家がデビューして存在感を高めていくほどに、そのフォロワーの数も増していきますから。相乗効果ですね。
──最近では「小説家になろう」やpixiv小説などに作品を投稿している方を、編集者がスカウトしてデビューさせるという流れもあります。溝口さんはそういった作家獲得の動きについて、どう考えていますか?
そういった獲得の例もなくはありませんが、私の場合はコンテストへ作品を持ち込むように誘導することが多いですね。「ソ連百合」として話題を呼んだ南木義隆さんの場合もそうですが、ネットでバズったことがきっかけで作家デビューできたとしても、たまたま扱ったネタが良かっただけと「一発屋」のように思われてしまうかもしれない。作家としてのキャリアを考えても、ずっとその作品がつきまとうのもあまりよろしくないなと。ただそこで、何かしらの賞を獲得していれば、作家としては名刺代わりになりますし、読者からも長期的な信頼感を得られるメリットがあります。
──溝口さん自身もSFコンテストの受賞作の査読に関わることはあるのですか?
ありますね。そこまで他の一般的な作品賞の査読と大きな違いはないと思いますが、SFについての志や、応募作からどのていど磨けば光るかはチェックしているつもりです。
──SF作品ならではの評価基準もあるのでしょうか?
何を題材として取り扱っているかは重要ですね。作品のテーマが面白ければ、話の構成を入れ替えたり、表現を修正したりといった技法上の改稿は編集側でもフォローできるので。そういう意味ではやっぱり志、SF小説という媒体でしか表現できないものにチャレンジしようとしている方や、ひとつのテーマに熱量を持って取り組んでいる方を見つけようとしています。
──素人の自分からすると、SFを書くためには科学や歴史などに対する相応の知識が必要なように感じます。
たしかに、SFというジャンルはどれ程の勉強をしてきたかをごまかせないところがあります。これまで読んできた本の総量やテーマの下敷きにした作品などが分かりやすいんですよ。伊藤計劃作品や『ブレードランナー2049』がブームだったときは、それっぽい作品が多く応募に集まったこともありました。しかし、そこから独自性のあるものへと昇華したような作品を発掘するのが大事でしょうね。もちろん受賞した作品がそのまま出るわけではなく、編集と相談しながら更に磨きをかけています。
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