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2023.02.04
ポップカルチャーとしての『ぼっち・ざ・ろっく!』、そのコンテクストを読み解く。
2022年12月の放送終了後も反響が続くTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』。
その人気の理由の一端が音楽のクオリティの高さにあることは間違いないだろう。作中に登場する主人公たちのバンド「結束バンド」のアルバムも人気を集め、「弾いてみた」「歌ってみた」など様々な二次創作も広がっている。
実際に『ぼっち・ざ・ろっく!』に影響されてギターやベースをはじめてみた、という投稿も少なくない。
なぜ『ぼっち・ざ・ろっく!』はここまで盛り上がっているのか? その物語と音楽は、今の日本のポップカルチャーにどう位置づけられるのか。その文脈を改めて紐解きたい。
高いギターの腕前を持ちながらも極度の引っ込み思案で“陰キャ”な高校1年生、“ぼっち”こと後藤ひとりが、伊地知虹夏、山田リョウ、喜多郁代と出会ってバンドを結成、音楽活動を通じて成長していく姿を描く同作。
放送前には注目作やビッグタイトルが揃った2022年秋アニメの中で若干埋もれているような印象もあったが、放送回が進むごとに話題が広がっていく。
きっかけになったのが楽曲の力だった。OPテーマ、EDテーマだけでなく、劇中のライブハウスのシーンで披露される「ギターと孤独と蒼い惑星」や「あのバンド」といったオリジナル曲の切実な情感に満ちた曲調と、演奏シーンのリアリティあふれる描写が注目を集めた。YouTubeにはライブ映像とリリックビデオの両方が放送後、即座に公開され、それがSNSを介してアニメファン以外にも広まっていった。
放送終了後の12月28日には主題歌と劇中曲に加えて未発表曲も収録した全14曲入りのフルアルバム『結束バンド』が発売された。そこに込められた楽曲のクオリティと熱量の高さがさらなる起爆剤になった。収録曲はいわゆる“邦ロック”リスナーのハートも掴み、アルバムのヒットからアニメを知る層も増えた。
目次
- 描写のリアリティとASIAN KUNG-FU GENERATIONへのリスペクト
- ロックとアニメが織りなしてきたポップカルチャーの現在
- 下北系ギターロックの系譜と、アジカンが成し遂げたこと
- もしボーカロイドが存在しなかったら──ロックとボカロの接続点
- NUMBER GIRLから音羽-otoha-まで継がれた、文化と才能の系譜
アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の魅力は、コミカルな日常風景、そしてライブハウスを拠点に活動するアマチュアバンドの描写のリアリティにある。
主人公たち4人が拠点にしているライブハウス「STARRY」は、実在するライブハウス「下北沢SHELTER」がモデルとなっている。「新宿LOFT」をモデルにしたライブハウス「新宿FOLT」も登場する。いずれも日本のロックシーンにおける重要なライブハウスで、多くのアーティストを輩出してきた“聖地”に挙げられる。
また、作品を見て気付くのがASIAN KUNG-FU GENERATIONへのオマージュの数々だ。主人公たち4人の名前はアジカンのメンバーから拝借しているし、各話のサブタイトルもアジカンの曲をもじったものだ。
『まんがタイムきららMAX』で連載している原作者のはまじあきさんは熱心なアジカンのリスナーとして知られている。最終話のラストでは結束バンドによるASIAN KUNG-FU GENERATION「転がる岩、君に朝が降る」のカバーがエンディングテーマとして流れるのだが、その選曲もはまじあきさんによるものだと明かされている(外部リンク)。
本作の音楽ディレクターを務めたアニプレックスの岡村弦さんを筆頭に、アニメ制作スタッフがはまじあきさんの愛情とリスペクトを汲んだ形で楽曲制作にあたったことが何より大きかったはずだ。
2020年代のポップカルチャーの中での『ぼっち・ざ・ろっく!』の位置づけを語る上でのポイントはいくつかある。
まずひとつめに大前提として指摘すべきは、いま、J-POPのメインストリームが「アニメとロックの蜜月」によって彩られている、ということだ。
2022年のBillboard JAPAN年間総合1位は『鬼滅の刃』遊郭編OPテーマのAimer「残響散歌」。他にも『SPY×FAMILY』OP主題歌のOfficial髭男dism「ミックスナッツ」、『劇場版 呪術廻戦 0』主題歌のKing Gnu「一途」、『チェンソーマン』OPテーマの米津玄師「KICK BACK」など、数々のトップアーティストがアニメに書き下ろした楽曲がヒットチャートを賑わせてきた。『THE FIRST SLUM DANK』エンディング主題歌の10-FEET「第ゼロ感」もスマッシュヒットしている。
さらに、ひとつの作品に劇中曲を含む複数の楽曲を制作する潮流も生まれている。その代表はAdoさんが主人公・ウタの歌唱を担当し興行成績年間1位を記録した『ONE PIECE FILM RED』だろう。『チェンソーマン』でマキシマム ザ ホルモンやずっと真夜中でいいのに。など全12組がEDテーマを担当したことも話題を呼んだ。
地上波、ストリーミング配信、YouTube、SNSと情報環境が複層化した今の時代におけるアニメの表現領域は、作中だけでは完結しない。主題歌や劇中曲がYouTubeやTikTokで話題を呼び、バイラル化していくこともヒットを後押しする。そのために音楽が担う領域が拡大しているとも言える。
ただ、それを踏まえても、『ぼっち・ざ・ろっく!』のワンクールに全14曲というのは、明らかに過剰である。
アルバム『結束バンド』には、アニメ本編では主題歌としても劇中曲としても使用されていない「ひとりぼっち東京」「ひみつ基地」「ラブソングが歌えない」「小さな海」「フラッシュバッカー」という5曲の楽曲が収録されている。
中でも、最終話放送後に公開された本PVでも使用されたシューゲイザーテイストの「フラッシュバッカー」は特筆すべき鮮烈さを持っている。
ふたつめに指摘すべきポイントは、『ぼっち・ざ・ろっく!』と00年代以降の”邦ロック”シーンが地続きの音楽性を持っているということ。多くの楽曲にロックシーンで活躍する現役のバンドマンが携わっている。そこが同じくガールズバンドを扱うアニメとして一世を風靡した先行作品である『けいおん!』との違いにもなっている。
アルバム『結束バンド』を一聴して感じるのは、「アジカン以降」のセンス。特に顕著なのは00年代の下北系ギターロックの系譜だ。
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