大人になることは、汚れることじゃない──『デス・ストランディング』脳
2023.02.15
クリエイター
この記事の制作者たち
SOUND CLASH!!
それはジャマイカが生んだレゲエミュージックには欠かせないカルチャーであり、血湧き肉踊る「音の格闘技」。“ちょっと特殊なレゲエ版MCバトル”とでも言えばイメージしやすいかもしれない。
参加者たちはMCでのDisり合いはもちろんのこと、ここでしか聴けない「DUB PLATE」(詳細に関しては後述)を繰り出し、熱き戦いを繰り広げる!! 日本には、サウンドクラッシュの世界チャンピオン・MIGHTY CROWNの存在もあり、広く知られてきた音楽文化であろう。
この連載は「ジャマイカ独立60周年」にちなんだものであるが、そんなMIGHTY CROWNも今年、2023年には30年以上の歴史に一旦ピリオドを打ち、活動休止に入る……。
だからこそ、今一度サウンドクラッシュにまつわるエトセトラをしっかりと紹介する必要がある。最近このカルチャーに興味を持った人はもちろん、「何を今さら」と思う人まで、サウンドクラッシュをさらに楽しむためのガイドになれば幸いだ。
記事後編では、大のレゲエ好きで「HIPHOPサウンドクラッシュ」も主催する韻踏合組合・SATUSSY氏と、国内屈指のサウンドクルー・BARRIER FREEのDOCTOR氏へのショートインタビューも掲載している。
目次
- サウンドクラッシュとMCバトルとの違いは「DUB」にあり
- サウンドクラッシュの神様、RICKY TROOPER
- 歴史を変えた2組の日本人サウンド
- 激動の2000年代 サウンドクラッシュ、世界規模の戦国時代へ
- 新時代へ 「まだ、クラッシュで感動できるんだ……」
- 二重のマイノリティがシーンを騒がす現在のレゲエクラッシュシーン
- 韻踏合組合・SATUSSYインタビュー
- BARRIER FREE・DOCTORインタビュー
- 人種も民族も越えて……あとがきにかえて
サウンドクラッシュとは曲をかけ合いながらMCも混じえて戦う音楽バトルである、ということは何となく知っている人も多いと思うが、ヒップホップのMCバトルと決定的に違うのは「DUB PLATE(ダブプレート。レゲエ・サウンドがアーティストに依頼してつくる特注の曲)」の存在である。
レゲエのサウンドはこの“DUB”を多く持っていることがステータスのひとつであり、クラッシュの際には勝敗を決する大きなファクターとなる。
百聞は一見にしかず、具体的にはどんな感じなのか見てみよう。
皆さんご存知、三木道三の『Lifetime Respect』は、日本語レゲエ史上初めてオリコン1位を獲得した楽曲だが、そんな曲もサウンドクラッシュで「DUB」としてかけられるとこんな風になってしまうのである。
ここで尼崎のEMPERORがかけているのはこのクラッシュのためだけに用意した「当日用DUB」であるが、すごいサウンド(※)はクラッシュであらかじめ相手が言いそうなことを予想しておいてそれを返すための「当日用」を何曲も何曲も用意する。
クラッシュ用語で「COUNTER ACTION(カウンターアクション。ジャマイカ風に訛らせて“コントラクション”ということが多い)」と言うのだが、大きな大会の際には録ったはいいが結局使わなかった「当日用」や「コントラクション」のDUBが山ほど生まれるため、後日それらの曲だけでMIX TAPEまでつくられるほど(!)。
なぜこんなにDUBが重要視されるかと言うと、サウンドクラッシュでは「PLAY BACK」と言って、同じ曲の二度がけをするな!という定番ルールがある。そのため、出場サウンドはみな楽曲に独自のカスタマイズを施しDUBの撃ち合いをする(ちなみにDUBを用意しすぎて、優勝して賞金を手に入れても結局赤字になってしまうサウンドもいるほどである!!)。
2000年代当時、MIGHTY CROWNに在籍したCAPTAIN-Cが単独でクラッシュに出場した際、うっかりPLAY BACKしてしまい次のサウンドに山口百恵の『プレイバック Pt.2』をかけられそれが大ウケ。ディフェンディング・チャンピオンだったのにまさかの一番最初に脱落してしまう。
直後にCAPTAIN-CはMIGHTY CROWNを脱退するのだが、この敗戦がそのキッカケになってしまったのかは定かではない……。まさに一瞬たりとも気が抜けない、空恐ろしい勝負の世界なのである。
※「サウンド」とはセレクター(レゲエの世界で言うところのDJ)、MC、またサウンドシステムのエンジニアなども含めたレゲエ・サウンド・クルーの総称。多くは略して単に「サウンド」とだけ言う。初期は「サウンドシステムを所有していなければサウンドとは呼べない!」といった厳格な線引きが存在したが、近年その定義も曖昧になってきている。また、一人のセレクターであっても「サウンド」を名乗る場合も存在する(ただいまだに「サウンドシステムも持ってないくせにサウンドを名乗るな!」というのはクラッシュの定番Disとして使われる!)
現在のサウンドクラッシュにおいて“基本”となるDUBやCOUNTER ACTION、PLAY BACKといったものを慣例化させたのは、ジャマイカの老舗サウンドクルー・KILLAMANJAROに在籍したRICKY TROOPER。通称“サウンドクラッシュの神様”と呼ばれる人物である。
RICKY TROOPERはKILLAMANJAROに89年、DeeJayとして加入(※レゲエの世界では歌い手を指す言葉。一般的な“DJ”はSELECTORと呼ばれる)。93年「STONE LOVE vs METRO MEDIA vs KENYATTA vs KILLAMANJARO」戦において、KILLAMANJAROのメインセレクターの代役で出場した際のプレイが反響を呼び、以後KILLAMANJAROの看板セレクターとして活躍。
“同じ曲の二度がけをするな!(PLAY BACK)”と言うのはこのTROOPERが歴戦の中で慣例化させたもの。サウンドクラッシュが、大金を投入したDUBの撃ち合いであるのも、TROOPERが“BIG SOUNDは誰でもかけられる45じゃなくて、EXCLUSIVEなDUB PLATEでサウンドを殺すんだ!!”と言い出し、事実それで勝ち続けたから定着したものである。
※「45」とは市販のレコードのこと。レゲエの世界で主に使われる7インチレコードが45回転であるためこう呼ばれる
それまではルールらしきルールもなく曖昧で、サウンド所属のアーティストも含めての“総当たり戦”だったサウンドクラッシュを、現在の形に様変わりさせたのは紛れもなくRICKY TROOPERであり、クラッシュの歴史を語る際は、必ず“TROOPER以前 / 以後”で分けられる。
そしてそんなKILLAMANJARO時代のTROOPERを語る際、必ずワンセットで出てくるのが95年に開催された『KILLAMANJARO vs KING ADDIES』の“ジャマイカ vs アメリカ”の一騎打ちの話である。
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