KAI-YOU Premium主催 マーダーミステリー「狂気山脈」プレイ感想戦アーカイブ
2022.11.22
Dios・たなか氏によるゲームエッセイ。最新回は、奇妙な名作『デス・ストランディング』に寄せて──
写真はすべて本人提供
クリエイター
この記事の制作者たち
掛けがねを外し、重たい金網でできた扉を開く。iPhoneに表示された地図は非常に曖昧だった。目印として載せられている写真には単なるガードレールと標識しか写っておらず、この扉を探し出すのにはかなり時間がかかった。
扉の向こうでは木々が生い茂っており、地面にはそれらの根が走っている。打ち捨てられた牛乳パックがやけに真新しくて目を引く。整備されたコンクリートの道路と、自然が剥き出しになった山。文明と未開の境界線。僕らはその境界を跨いだ。
扉の先は急斜面になっていて、転ばないように注意しながら降りていく。ぬかるんだ土に足を取られ、何度も滑り落ちそうになる。坂の横には硬い枝が密集した名前のよくわからない植物が生えていて、背中に背負った巨大なマットに引っかかって、僕らはその都度足を止めてその枝を外さなければならなかった。
うっすらと見える獣道は先人たちが踏み均したものだろう。彼らに感謝しながら、じぐざぐの道を僕らは進む。体の前側に背負ったリュックが視界を狭めている。足元がよく見えない。なんのためにこんなことをしているのかわからなくなる。目を凝らしてどうにか進むうちに風が強くなってきた。海に近づいているからだ。
そうして、距離にすれば2,300メートルの道のりを僕らは15分くらいかけて降りた。そこには岩だらけの海岸が広がっている。荒々しい岸壁に切り取られた無限の海を眺める。その上では重たい雲が太陽を覆い隠している。地面に転がる無数の石のなかから比較的大きな岩を選んで、歩いていく。話に聞いていたほどは暖かくない。というか、普通に寒い。雲のせいだろう。
岩だらけの海岸のなかでもひときわ目を引く大きな岩が、僕らが今日この海岸を訪れた理由だ。重たいマットを下ろし、荷物を広げる。リュックから取り出したのは袋に入ったシューズとチョークバッグ。開いたマットの上でストレッチしてから、僕らは巨岩を触る。「トポ」と呼ばれる、先人が見出した登攀ルート集を参照しながら、岩のどの部分を使って登るべきか、そのルートをそれぞれ思い描く。そう、僕らはクライミングをしにこの城ヶ崎海岸を訪れていた。

目次
- 僕らはわざわざ死に接近し、それを克服する
- 「分断を繋ぎとめる」という仕事
- 大人になる、純度を下げる、混ざり合う──それは退化じゃない
わざわざ重たい荷物を背負って、朝6時に新宿に集合して、車で3時間かけて、そこからさらに歩いて、僕らはでかい岩を登りに来ている。正気の沙汰ではない。意味がわからない。
たまの休日というのは、暖房の効いた家でのんびりアイスでも食べて過ごすものだ。極寒の真冬に海岸で、真剣な目で岩を眺めるためのものではない。
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