「Webtoonは創作性が足りない」読者調査から見る、縦読み漫画の課題とファン層の乖離
2025.02.02
「顔面は人の存在にとって核心的な意義を持つものである。それは単に肉体の一部分であるのではなく、肉体を己れに従える主体的なるものの座、すなわち人格の座にほかならない」──哲学者・和辻哲郎は「面とペルソナ」の中で、社会と文化における「面」の役割を説いた。
現代の“面”の現象を見つめる雑誌『面とペルソナ20's』(編:黒木貴啓/OMOTE PRESS)は、コロナ禍を経験した2022年に創刊された。本稿では、「アバターと仮面、その狭間」を特集した『面とペルソナ20's』2号所収のインタビューを前後編にわたって公開する。
VTuberやメタバースにおけるアバター、SNSのアイコン画像など“仮想世界における面のようなもの”について、カメルーンの秘密結社をフィールドワークした人類学者に話を聞いている。
『面とペルソナ20's』詳細はこちら
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VTuberやメタバースにおけるアバター、SNSでの顔アイコン......オンラインの仮想空間では、自分と異なる「面」を着けて交流するのがすっかりおなじみの光景となっている。
興味深いのは、向こうに生身の人間がいることをわかってはいながらも、人々は画面に映ったその「仮想空間の面」を相手の主人格だとして交流を楽しんでいることだ。配信で中の人の身体特徴が暴かれてしまっても、ファンは変わらずキャラクターとして愛し続ける、なんて話も珍しくない。目の前の虚構を、信じることができる。この人間のいい加減さと言うか柔軟性って、かなりすごくないだろうか?
実はこうした“憑依や変身の演技性”は、伝統的な仮面の儀礼の場においてもしばしば見られるのだという。村人が仮面を着けると、神や精霊が降りてきて憑依が起こる。人々もそれを本当の出来事だと信じ、村に現れた神を崇めていると思いきや、装着者に「中の人」としての意識は残っているし、周囲も「村のあいつが中に入っている」自覚がちゃんとあるというのだ。
名古屋大学大学院人文学研究科の教授である佐々木重洋氏は、カメルーンのエジャガムという民族の形成する社会における調査を通して、仮面による憑依や変身が演技、芝居であるとわかっていながらも、共同体全体でその存続を支える姿を見つめてきた。
昨今の仮想空間における「面の交流」はどのように見えているのだろうか。
目次
- 仮面を被り、神を憑依させる民族への住み込み調査から見えた実態
- 「憑依」という超常現象は、実は支え合いでできていた
- 儀礼において、本当なのかフェイクなのかを問うこと自体がズレている
- 「本当か演技か」というのはすごく近代的な発想
──佐々木先生がエジャガム社会※で出会った「仮面儀礼における憑依の演技性」というのはどのようなものだったのでしょうか?
佐々木重洋 まず、民族集団・エジャガムには人に不幸や災難をもたらす「オジェ」という妖術と、そのオジェから身を守ったりオジェの行使者に罰金などの制裁を加えたりする「ンジョム」という呪薬、2つの概念があります。
そして、私が住み込み調査していたエジャガムの村には、「オバシンジョム」と呼ばれる仮面文化がありまして。
オバシンジョムは、災いをもたらすオジェへの対抗手段としていくつも存在するンジョムの中でも「神」に相当する最高位の存在です。その村では、仮面と衣装を着用した者がオバシンジョムとなって、超自然的な力によってオジェを見つけ出したり、妖術が誰から発信されたのかを割り出したりする。伝統的な、託宣(神・御霊などのおつげ)パフォーマンスだと言えます。
オバシンジョムの仮面を着用できる者は「エブンジョム」と呼ばれ、村に存在する仮面結社の中で決められます。
仮面を被る前にはまず、オバシンジョムからその者へ呼びかけがある。大体5時とか早朝に、その呼びかけに応答したエブンジョムが外で突然叫び出すんです。このとき彼はすでにオバシンジョムの力を帯びている、つまり憑依状態になっています。その力を察知した周囲の人たちが仮面衣装を用意し、彼がそこに入ってオバシンジョムの姿になりながら、託宣を人々に与えていきます。
パフォーマンスが終わると、仮面衣装を着けたままバタッと倒れてしまう。みんなが立たせて仮面を取り外すと、彼は朦朧としている。痙攣もしているので、長老が両手を上げさせていろんな薬草をパンパン叩き込んだりして、正気を取り戻させます。
彼らの説明によれば、Aという人がいたとすると、仮面を装着した瞬間からもうそれはAじゃない。違う状態になっていると言うんですね。そして、託宣儀礼の間に起こったことは、終わったあとにはもう誰も覚えていない。私も結社の一員となってオバシンジョムによる託宣の一部始終を動画で撮ったりしていましたが、「お前も覚えていないし何もわからないんだ」とメンバーたちから言われるわけです。
でも住み込みを続けていると、住民たちから後日談も結構聞くことができる。衣装の中に入っていた当事者や周囲にいた人たちが「いや、実はあれは結構仕込まれてるんだ」「用意しているところもあるよ」と話してくれるのです。
※エジャガム カメルーン南西部からナイジェリア南東部にかけてまたがるクロスリヴァー地方にいくつも居住する民族集団の一つ。佐々木氏は国の南西部州・マニュ県(デヴィジョン)のエユモジョック村に暮らすエジャガムを調査した
──調査者としても「あれ?」となるわけですね。
佐々木重洋 そもそも、どう考えても正気を保っていないとわからないようなこともよく覚えているんです。儀礼中に私がどこにいてどういう格好でどう撮っていたか詳しく知っていたり、「だからあのときお前に罰金を課してやったんだ」と笑い話のように話す人もいたりして。
あと、やたらとタイミングよく気を遣ってくれます。
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