一般就職した『スマブラ』プロあばだんごの半生 「配信せず練習しろ」と言われた時代を越えて
2025.01.29
人気勝負になった客判定、小学生の参戦、人種差別的発言──「MCバトルは終わった」という大きな批判は、日本一を決めるMCバトル大会「KOK」2024FINALへとなだれ込んだ。
ラッパー・ハハノシキュウが前後編で全試合解説を通して綴る、「KOK」という大会からのアンサーについて。
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雲の上 上り詰めると辿り着くとこ 探してる場所 そこに行く者 一握りの選ばれし人 皆の代表OZROSAURUS「影光り 光り影」
MCバトルが終わったとしても、終わってなかったとしても、僕らにそういう話をさせた人たちは僕らがこういう話をしていることにすら気付いていない。
そのくせ鬼の首を取ったように誰かのしたことに気付いた時、その人は自分がしたことには気付かない。
とりあえず1回戦が終わって、僕が感じたのは2点。
1.他にもたくさんバトルイベントがあるが、やはりKOKは命を賭けるに値する場所だと再認識させられる。それは観客にも言えることで、冷笑気味な空気感は一切ない
2.水を差したいわけではないが、良くも悪くも例年通り。いや、例年通りというよりヒップホップの“変わらない部分”が尊重されていると言えばいいだろうか
実際、音楽という観点ではMCバトルで行われていることは古き良きものの延長である。現行で売れているヒップホップとは明らかに別の世界線を辿っている。だからと言ってKOKにトレンドを取り入れてほしいとも思わないし、このままでいいのかもしれない。
同時に「いつまで不良コンプレックスと付き合っていかないといけないんだろう」と自問自答したくなる気持ちは正直ある。
目次
- 2回戦第1試合 CIMA vs GIL(ENDRUN STAGE)
- 2回戦第2試合 ミメイ vs 9for(DJ KOPERO STAGE)
- 2回戦第3試合 SIMON JAP vs T-TANGG(Gerardparman STAGE)
- 2回戦第4試合 輪入道 vs S-kaine(NoahSTAGE)
- 準決勝第1試合 9for vs GIL(TOKYO BEAT SOCIETY STAGE)
- 準決勝第2試合 SIMON JAP vs S-kaine(FEZ BEATZ STAGE)
- 決勝戦 9for vs S-kaine(LIBRO STAGE)
- 決勝戦 延長 9for vs S-kaine
- 「MCバトルが終わったなんて言われてたけど、終わってなかった」そんな感想で話が済むのならそれに越したことはない
- 「MCバトルが終わったなんて言われてたけど、終わってなかった」そんな感想で話が済むのならそれに越したことはない
2回戦が始まり、それなりに年齢を重ねた2人がそれなりに年齢を重ねた言葉で戦い合う。
CIMAの強さは論理性の軸が定まっていないところにあると思う。
目の前にいないとわかりにくいが、観客がどのポイントに賛同して声を上げたのかわからない時があるのだ。論理性というか決して内容がないわけではないのだけど、どことなくオノマトペに近い引っ張られ方をする時がある。
1回戦の対戦相手だった呂布カルマが論理性に特化したスタイルなのは言うまでもないが、相手がCIMAだからこそアンサーが一発で決まりにくかった。
そういう意味ではGILも呂布カルマと同系統である。
しかもGILの方がタメが長く、「スマブラ」のキャプテンファルコンのように外した時のリスクが大きい。
「理由なんてないと思って握っていたマイクが、あらゆる期待を背負って勝手に理由ができていた」というGILの詩的なライン。
「勝手に背負った気になんな、変なプレッシャーなんて背負い投げだ、それじゃ立ち場なし、まだまだ余裕で足払い」
対するCIMAのアンサーは、なんとなく言いたいことはわかるが柔道の言葉遊びも入ってきて一言で「こうだよね」と集約できない。だからアンサーが返しにくい。
これを読んでいる人も自分だったらどうやって短い言葉で返答するか考えてみてほしい。
GILの答えはこうだった。
「お前は期待やプレッシャーをどっかにぶん投げちまうのか? 俺はそいつをどんなに重くなっても背負い続けて足跡を残すのさ」
僕の脳味噌の回路からは出てこない。捻りが利いているのにド直球である。
これに「バカ野郎、仲間も期待も背負っているが、気体と思っちゃいねぇよ」とCIMAがアンサーを返す。前述のように論理性を欠いているが、これが持ち味であり、時には敗因になる。
一言で言えば、満員御礼の大箱においてGILは強すぎる。
S-kaine同様に、優勝以外にまるで意識が向いていない素振りだった。
この2人の対戦が何回目なのか、数える気にもなれない。
僕はこの試合が始まる直前までミメイが勝つと思っていた。
なぜなら1回戦でミメイにダメージを与えられるディスをlonelowが言い尽くしていたからだ。
インフルエンザにかかった後のように、同じウイルスには耐性がついている。そういう意味でアドバンテージはミメイにあった。
と言っても実際始まってみれば、普通にいい試合だった。
いい試合で9forの圧勝だった。
ミメイ相手にフロウで押し切ろうとする9forの初手はありきたりだが、スキルが有無を言わさない状況をつくっていた。
それでもなんとかミメイが「フロウがねぇって」「都合がええなぁ」とライムで試合を五分に戻す。
最終的に決め手となったのは9forの「音源の話はしないでやるよ」だろう。
lonelowとは逆のアプローチである。
これを言われるとミメイは、1回戦で入手したビートの行く末を言葉にせざるを得ない。
対する9forは昔から根を張ってライブ活動をしていることをボースティングする。これはlonelowも同じことを言っていたが、自分から振った話と相手から振られた話では捉え方が変わるし、lonelowより9forの方が「やることやってる」に説得力がある。そうなると返す言葉もない(と言ってもラストバースだったが)。
この日の9forのラップには迷いがないというか、頭で考えるよりもその少し前にラップがあるような全能感を持っていた。正直、かなり難易度の高いビートだったと思うが、それを感じさせないくらいに入り込んでいた。
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