Interview

  • 2020.01.23

「Weed売るより金になる」ヒップホップが変えた“価値” 転売ビジネス最前線

世界的なヒップホップの流行によって、価値が跳ね上がったものは、ラップやヴァイナル、だけではない。

転売自体は手放しに肯定できる行為ではないだろう。だが、ここで紹介する「ストックX」は、やがて違法なディールによって生計を立てるしかなかった人にとっての、福音になるかもしれない。

「Weed売るより金になる」ヒップホップが変えた“価値” 転売ビジネス最前線

クリエイター

この記事の制作者たち

最新の転売ヤーの実態を知ることで見えてくる世界がある。

今に続くスニーカーブームの火付け役とも言える、カニエ・ウエストがプロデュースするadidasのYEEZY BOOST(イージーブースト)。ストリートブランドから一気にのし上がったSupreme(シュプリーム)……それらに共通するのは、それを求める人間はもはや、スケーターやB-BOYといったストリートの住民に限らなくなった、ということだ。

むしろ一番貪欲に求めているのは、それを飯の種に、スニーカーやストリートウェア、フィギュアに至るまでを右から左へと転売し利益をあげる“転売ヤー”たちだろう。

朝の原宿、スニーカーショップの店頭で長蛇の列をなす面々を目にしたことがある方も多いのではないか。

“数時間並んで買うより、割高でもいいから楽に買いたい”

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転売の需要が生まれる本質はそれに尽きる。動機はシンプルだが転売ヤーのマーケットは今や世界規模だ。

あるいは販路が海外に拓けたからこそ、転売ヤーの面白味が増していると言えるのかもしれない。

例えば中国、タイ、インドネシア…アジア各国の富裕層が、あるアイテムを日本での販売価格の2倍でも3倍でも買いたいと思い、当然逆もしかりで、海外で買うほうが日本で買うより安いアイテムもある。

ここに転売ヤーが暗躍する余地がある。

昨今の転売ヤーが愛用するプラットフォーム「ストックX」(StockX)は、まさに転売ヤーの販路を世界へと押し広げた立役者と言っていい。

スニーカーを中心に取り扱いアイテムを徐々に増やし現在も規模拡大の途上にある。このデトロイト発のプラットフォームは、同じ地元のアーティスト・エミネムが出資することでも知られる。

取材・執筆:山田文大 編集:新見直

目次

  1. 覗き見る、転売ライフ
  2. 自己破産した転売ヤーの話も
  3. 情報収拾はDiscordで
  4. 「Bot」は金の生る木
  5. Botもプレ値?
  6. ストックXが起こした“転売革命”
  7. ストックXが“良い取引所”である理由
  8. Weedより金になる?

覗き見る、転売ライフ

最近のスニーカーやストリートウェアの転売もしくは転売ヤーの最新事情について書きたい。モノを右から左に転がして利ざやを得る「転売」自体に新しい響きはない。ここで紹介するのも、ヤフオクやメルカリで日常的に行われている、あの転売についての話だ。

では、従来の転売と今とでは、何が違うのか。話を聞いた転売ヤーのひとり(仮にXとする)は、転売の本質について、導入としてコンビニエンスストアを例に説明してくれた。

「物の適正な価格は、市場では需要と供給で決まる」そうXは言う。

「語源の通り、コンビニの売りは利便性です。スーパーマーケットや専門店に行かないと買えなかったものが、もっと身近に買えるようになった。その便利さにいくら払うか。コンビニで紙を100枚買うと300円かかるのが、アマゾンでは500枚500円で買える。それがわかっていても、急に必要になれば割高でもコンビニで買うしかない」(X)

Xは月に約400万円の金を動かし、だいたいその30%を売り上げるという。どのようにして、このような額の金が動いているのか。

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筆者撮影

Xの底知れない転売ライフに踏み込む前に、もう少しだけ一般的な転売事情について触れておこう。

「朝8時59分に(スニーカーの)アプリにログインして(売り出す)9時ちょうどから、狙っているスニーカーの購入画面を彼女とひたすらリロードする。買えたらその画面をスクショしてそのままメルカリに出品する。その朝は2人とも買えたから、それだけで10万円以上の稼ぎになった。所要時間15分(笑)。特別なことは何もしてない。裏技も使ってない」

そう話すのはY。この朝Yが15分で得た幸運は、スマホが一台あれば誰にでも起こりえた話だ。こうした利ざやを生むスニーカーは月に一度発売されるビッグイベントといった特別なものではなく、週一ペースで売り出されるものだという。「僕は一般層なので、こういうスニーカーを買えるのは10回に一度ですが、コスパは悪くないですよね」とY。

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たとえ運やまぐれでも、ハズれた時に失うのは朝の15分程度の時間で元手はゼロ。悪くないどころか、隙間時間のバイトと考えれば羨ましくなるような話だ。

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