黒人視点のベトナム戦争から#BlackLivesMatterを考える 映画監督 スパイク・リーの問い

Review

  • 2020.06.22 20:00:00

#BlackLivesMatterムーブメントが加熱するなか投下された、スパイク・リーの最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』。エデュテインメント(教養と娯楽)を標榜し続けてきた監督は、これまで語られてこなかった「黒人視点」のベトナム戦争を通じて私たちに何を問うのか。

黒人視点のベトナム戦争から#BlackLivesMatterを考える 映画監督 スパイク・リーの問い

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』が6月12日にNetflixにて公開された。2019年度アカデミー賞では6部門でノミネートされた前作『ブラック・クランズマン』に次ぐ、スパイク・リー監督による注目の最新作となる。

本作の主人公はベトナム帰還兵の黒人男性4人だ。彼らが、戦死した分隊長の亡骸と埋蔵金を掘り当てるべく、ベトナムの地に数十年ぶりに降り立つところから物語は始まる。白人視点のベトナム戦争映画はこれまでにも幾度となく公開されてきたが、意外なことに黒人視点からの作品はあまり無い。

ジョージ・フロイドの死に端を発する#BlackLivesMatterのデモが活発化し、1992年のロサンゼルス暴動以来の混乱がアメリカ全体を覆う中、黒人視点のアメリカ社会を一貫して描き続けてきたリー監督の作品には否が応でも注目が集まる。

スパイク・リーは映画監督であると同時に、ドキュメンタリー作家でもあり続けてきた。彼の作品群はエンタメ性に満ちながら、アメリカ(黒人)史における歴史的な映像が常に挟み込まれてきた。彼はエデュテインメント(education+entertainment = 教育と娯楽を兼ね備えたメディア)を常に標榜してきた映像作家なのだ。

その作家性ゆえに、スパイク・リー作品は「説教臭い」といった理由で敬遠されることもある。しかし、今の私たちには、彼の「愛と憎しみ」を愚直なまでに問い続ける「説教臭さ」を受け入れる必要があると筆者は痛感した。こんなにも彼の説教が染み入ったのは初めてであったし、それは海の向こう側から#BLMの趨勢を眺めるしかないもどかしさと無関係ではないはずだ。

いま日本人が自分の確固たる考えを持って#BlackLivesMatterについて言及することは覚悟がいる。自身の知識の少なさを自覚しているが故に、二の足を踏んでしまうこともあるだろう。しかし、少なくともその背景を「知ろうとする」行為は正しいこと(ライト・シング)であるはずだ。

執筆:LIT_JAPAN  編集:和田拓也

Netflix『ザ・ファイブ・ブラッズ』を視聴する

目次

  1. 黒人がベトナム戦争で“祖国”に捧げたもの
  2. 黒人が「Make America Great Again」キャップを被る意味
  3. スパイク・リーが描き続けた善悪、愛と憎しみ
  4. スパイク・リーが問う、#BlackLivesMatterのライト・シング(正しい行い)

黒人がベトナム戦争で“祖国”に捧げたもの

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画像はすべてNetflix『ザ・ファイブ・ブラッズ』より

1992年の『マルコムX』がロサンゼルス暴動のきっかけとなったロドニー・キング事件(*1)の映像で幕を開けたように、本作品はアフリカ系アメリカ人のモハメド・アリがベトナム戦争に反対声明を発表したインタビューの映像から始まる。

兄弟を撃つのは良心に反する。
肌の色が濃い人種。貧しく空腹な人々をアメリカのために撃てと?
俺たちをニガーと呼ばず、リンチもせず、俺の国籍を奪わない相手なのに。
モハメド・アリ

これは「黒人にとってのベトナム戦争」を象徴する悲観的な一節だ。アメリカ合衆国の建国時から、黒人たちは国のために血を流して来た。アメリカ独立戦争の直接的な引き金となった「ボストン虐殺事件」の最初の被害者もまた他でもない、クリスパス・アタックスという黒人男性だった。

これまでのベトナム戦争映画には黒人の姿もたしかに確認できた。しかし、劇中でも言及されるように、同戦争に参加したアメリカ兵士の32%を黒人が占めていたことについては触れられていない。当時のアメリカ人口のわずか11%にも満たなかったことを鑑みれば、同戦争における黒人の貢献度がわかるだろう。

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劇中の北ベトナムのプロバガンダ放送で反戦を訴える女性アナウンサー「ハノイ・ハンナ」は実在の人物。作中ではマーヴィン・ゲイの楽曲を流しており、アメリカ軍の黒人たちの士気を低下させることが目的のひとつであったという

しかし、そんな彼らの犠牲と貢献は顧みられず、アメリカ国内における黒人たちへの差別と暴力は依然として続いてきた。現在アメリカで起きている#BlackLivesMatterの様相を見れば、その理不尽さから来る彼らのフラストレーションを計り知ることは難しくない。

そして、この黒人たちの「報われない」ことへの葛藤はスパイク・リーが一貫して描き続けてきたテーマでもある。

前作の『ブラック・クランズマン』では「アメリカ人」でありながら、アフリカにルーツも持つ「黒人」でもあるという二重意識が主人公を苛んだ。それは同時に、アメリカという国に対する「Love(愛)&Hate(憎しみ)」を抱えざるを得ないアンビバレンスを生む。

『ザ・ファイブ・ブラッズ』では、そんな「憎しみ」を選ばざるを得なかった人物の心境を、映画のキャラクターがスクリーンの向こう側の我々に真っ向から投げかけてくる。「第四の壁(*1)」を破壊するモノローグはスパイク・リー印とも言える手法だが、ここまで胸が苦しくなったことはなかった。

*1:「第四の壁」とは演劇上の概念で、舞台(創作)と観客席(現実)の間にある透明な壁のこと。作品内のキャラクターが観客に直接話しかける等のメタな表現を「第四の壁を破る」と呼ぶ。近年の例で言うとコミック原作の映画『デッドプール』などが、この手法を多用している。

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