Review

  • 2022.11.14

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は“追悼と継承“の物語としてなら完璧だった

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、ティ・チャラ、そしてチャドウィック・ボーズマンへの“追悼と継承”の物語としてはほぼ完璧である。

しかし、一つだけ大きな疑問が残る──。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は“追悼と継承“の物語としてなら完璧だった

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ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』がいくつかのハードルを越えなくてはならない作品であることは、公開される前から明らかだった。

前作およびマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)が生んだ、コミック史上世界初の初の黒人ヒーローとして、アフリカの超文明国家ワカンダの若き王ティ・チャラ、そしてスーパーヒーローのブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンは、2020年にガンで亡くなった。

ボーズマンは、単なる黒人の俳優ではない。近代メジャーリーグ初の黒人選手であるジャッキー・ロビンソンや、ブラックミュージックの帝王であるジェームズ・ブラウンを演じ、さらに多種多様な黒人文化を詰め込んだ『ブラックパンサー』で主演を務めた。現代アメリカの重要アイコンの一人と言っていい人物である

失ってはならない人物を失った『ブラックパンサー』シリーズだが、ディズニーとマーベル・スタジオはCGでの再現や代役の登用を否定し、これによって『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』はティ・チャラ亡き後の物語となることが確定した。この時点で本作にはまず「ティ・チャラ/チャドウィック・ボーズマンの弔い」というハードルが設定されたのである。

さらに、タイトルが『ブラックパンサー』である以上、タイトルロールであるブラックパンサーの登場は必須である。ティ・チャラが登場しない以上、必然的に次代のブラックパンサーが新たに生まれなくてはならない。

ワカンダの王族としてはティ・チャラの母である女王ラモンダ、ならびにティ・チャラの妹であり前作にも登場していたシュリがいるが、王家とは関係のない人間がブラックパンサーのスーツを着用する可能性もある。「新ヒーローのオリジンを描く」というハードルも、本作には設定されることとなった。

そのほかにも、スーパーヒーロー映画である以上はヒーローと敵との戦闘があり、それを打倒するストーリーが求められるだろう。前作がそうであったように、『ブラックパンサー』のタイトルが冠される以上はアフリカ文化やブラックカルチャーといった文脈への目配せも欠かすことはできない。

さらに本作では、マーベル最古参キャラクターの一人であるネイモア/サブマリナーの登場もアナウンスされていた。これら多くの要素を配置し制御しつつ、ティ・チャラの弔いと次世代のブラックパンサーの誕生を描かなくてはならない。これが、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』に課せられたミッションだった。

※以下、本作のネタバレを含む

目次

  1. ティ・チャラの不在。追悼と継承としての『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
  2. シュリを歪に成長させた悲壮な運命と、彼女の決断
  3. 数多くのハードルを飛び越えて、きれいに着地した“継承の物語”
  4. 「なぜワカンダとタロカンが戦わなくてはならないのか?」という疑問
  5. 黒人とヒスパニックという、アメリカを構成する二大人種のルーツ
  6. 被害者同士の抗争が描かれ、肝心の問題への処遇は先送りに

ティ・チャラの不在。追悼と継承としての『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

本編は、ティ・チャラの死の間際から始まる。

シュリはティ・チャラを救うために、ブラックパンサーの力の源であるハーブの複製を行おうとするが、ギリギリで間に合わず悲嘆に暮れる。

続くマーベルのロゴも本作独自のチャドウィック・ボーズマンをフィーチャーしたものとなっており、にもかかわらずボーズマン本人の姿は本編のどこにも現れない。ティ・チャラの不在を、否が応でも突きつけられるスタートだ

アフリカの儀式らしく陽気な音楽が流れる中を国王の葬列は進む。亡き国王への敬慕とボーズマンを失ってしまった悲しみがないまぜになり、見ているこちらも実際に葬儀に参加しているような感覚に襲われる。ワカンダの人々の白い正装の眩しさが、どこまでも悲しい。

「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」

1年後、ワカンダのラモンダ女王は国際会議において激しい突き上げをくらう。ブラックパンサーの死を受けてワカンダで産出される超金属・ヴィブラニウムを狙う各国の動きが激化。強力な兵器に転用できるヴィブラニウムを守り国際秩序を維持するため、ワカンダは各国に対して態度を硬化させていた。

そんな中、アメリカは専用探知機を使い海底のヴィブラニウム鉱床を発見。しかしそれは、海に住む古代マヤ文明の末裔が築いたタロカン王国の重要資源でもあった。

ヴィブラニウムはいかなる機材にも探知できないことが大きな特徴だ。しかし、それを覆す探知機が発明されたことを、タロカンの王であるネイモアは問題視する。かつてスペイン人によって海に追われ、人目を避けて海底に住むタロカンにとって、ワカンダを含む地上での問題からヴィブラニウムの存在が暴かれたことは許し難い。

ネイモアはワカンダの国境を侵して女王ラモンダとシュリに接触。探知機を発明した科学者を拘束し、タロカンへと引き渡すことを要求する。兄を失って以来研究室に閉じこもりがちだったシュリは、ワカンダ最精鋭部隊の隊長であるオコエを伴い、科学者を捜索するためアメリカへと飛ぶ。

シュリを歪に成長させた悲壮な運命と、彼女の決断

冒頭の葬送からわかるように、「チャドウィック・ボーズマンへの追悼」という点に関して、本作は非常に繊細に作られた映画である。

ハイセンスな衣装と音楽によって演出されたワカンダの伝統的な葬送は、映画であることを超えて故人へのリスペクトを感じさせる。冒頭からエンドロールに至るまで、偉大なキャラクターであり社会的役割を持った役者だった人物を失ったことへの悼みに満ちている。

本作に設定された「ティ・チャラ/ボーズマン追悼の物語」というハードルを、製作陣は真摯に受け止めて乗り越えようとしていたと思う。

確かに、ティ・チャラ/ボーズマンの死は悲しい。しかし、本作は愛する人物の死からの、再起と継承の物語でもある。ティ・チャラ亡き後のブラックパンサーとしてスーツを着ることになったのは、彼の妹であるシュリだ

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“継承の物語”としてはきれいに着地した。