コロナ以降に、同人音楽と同人即売会で起きたこと 「ハレ」を取り戻す日まで

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  • 2020.12.15 21:00:00

同人音楽を辿る本連載。

特別描き下ろしとなる今回は、コロナ以前/以後について。

コロナ以降に、同人音楽と同人即売会で起きたこと 「ハレ」を取り戻す日まで

既存の音楽シーンとは全く違うところで発展を遂げてきた同人音楽とそのシーン。

日本での極めて独自な同人音楽の軌跡を、本連載「新世紀の音楽たちへ」では辿ってきた。

2020年から世界で大流行し、今なお終息が見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、他のあらゆるジャンル同様、同人音楽および即売会を決定的に変化させた。

この一年で何が起き、同人音楽を巡る環境はどう変化したのか。筆者の安倉儀たたた氏に改めて振り返ってもらう。

執筆:安倉儀たたた 編集:新見直

目次

  1. それ以前の世界/それから後の世界 失われた「ハレの日」
  2. 対岸の火事から危機へ
  3. ライブハウスというワルモノ
  4. 同人イベントと新型コロナウイルス感染症対策
  5. 危機が明らかにしたこと
  6. 筆者から見た、オンライン開催のリアルな現状
  7. コロナウイルス感染症と同人イベントの現在
  8. オンラインイベントの成功事例と課題
  9. コロナの「埋め合わせ」で起きていること
  10. いけにえを出さないために 情報を共有する試み
  11. 具体的な対策とアクション
  12. わたしたちにできること

それ以前の世界/それから後の世界 失われた「ハレの日」

本稿は、2020年を覆い尽くしたコロナウイルス感染症の流行で大きなダメージを受けた同人イベント、とくに同人音楽をめぐる状況を整理し、今後ぼくたちがどのようにしていくべきかを考えるものです。

木尾士目『げんしけん』は、「現代視覚文化研究会」(現視研)というオタク系サークルの輝かしき大学生活を人間関係の機微や恋愛劇と絡めて描いた漫画で、続編の『げんしけん 二代目』と共に人気を博しました。『げんしけん』は90年代後半から、『二代目』は2000年代から10年代のオタク文化を描いていて、今も変わらないような、今とはちょっと違ったような、濃厚なオタク文化を描いていました。

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『げんしけん 二代目』(シリーズとしては10巻)/Via Amazon

その象徴が現実世界では「コミックマーケット」(通称コミケ)と呼ばれ、『げんしけん』の世界では「コミックフェスタ」(通称コミフェス)と呼び換えられる大規模な同人イベントです。大規模な、オタクたちの「ハレの日」として、そして苦しい「現実」を忘れることのできる夢の空間として存在していました。

『げんしけん』には「コミフェスの季節」という言い方が出てきます。春夏秋冬の季節がめぐるのと同じぐらい、この世界ではコミフェスが開かれ、数十万人の人たちが集まり、同好の士と語り合い、欲しい本を買いあさる特別な時間が来ることが自然だったのです。

これは現代に生きる同人イベントの愛好家たちにも通底する感覚でしょう。1975年12月に初回が開かれて以来、おおむね年2回(過去には年3回でした)開かれてきたコミケ。特別な「ハレの日」。

しかし、2020年は史上初めて通年一度もコミケが開かれない年になりました。理由は──新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の影響です。

対岸の火事から危機へ

2019年末ごろから中国から広まった新型コロナウイルス感染症の波は、2月から徐々に日本でも流行の兆しが見られるようになりました。

感染症対策のために設置された「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(当時)では、基本的な対策手法として「クラスター対策」を掲げました。「人が集まる場所」、「ウイルス感染が発生した場所」を特定し集中的に対策することで、感染の拡がりを抑えようという試みです。

そこで取られた当時の対策が、三密(密閉、密集、密接)というフレームを用いて、感染しやすい環境を特定し、人の交通量を減らすこと、人の集まりを減らすこと、感染しやすい環境を変えることでした(厚生労働省では現在は「5つの場面」として整理されている)。

しかし、「クラスター」「三密」といった用語系は、メディアを通じて本来の意義とは異なる、ワルモノ探しの様相を呈してきます。三密の環境から逃れられない施設や人々をまるで「感染症を拡大させた犯人」であるかのように表象し、クラスターが発生した場所や職業が名指しで批判されました。

その最初の矢面に立たされたのが〈夜の街〉という曖昧な表現で指弾されたホスト・ナイトクラブ・バーといったナイトカルチャーイベント、そしてライブハウスでした。

ライブハウスというワルモノ

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2月15日に大坂のライブハウスで開かれたイベントで感染者が確認され、立て続けに4件のライブハウスでのクラスター発生をうけ、大坂府ではライブハウスをはじめとする施設に対して休業と来場者の検査要請を出しました。

この休業要請は6月には解除されましたが、ライブハウスは三密によるクラスターを発生させやすい〈ワルモノ〉として、多くのメディアに取り上げられてしまいます。

ライブハウスでは、密閉度が高く密集的な空間だからこそ大音量で盛り上がることができて、たくさんの人が大声を出すことができた。〈場〉に集い、声や体を使って全身にあびる熱と一体感こそが、ライブがLive(生・生活)たる由縁でした。

三密の想定によるクラスター対策は、感染が広がる条件から人を隔離したがゆえに、その条件をもつ店舗や業態と、その文化を楽しむ人々をワルモノにしてしまったのでした。

これはライブハウスだけではなく、様々なイベントが直面した問題でした。展示即売会や同人イベントも無関係ではありません

3月中盤から市中感染が確認されるようになったことを受けて、3月27日、コミックマーケット事務局から5月に開催予定だったC98(コミックマーケット98)の中止が告げられることになります。

「ハレの日」はいつしか恐ろしい感染症を拡大させる可能性を持つ、「悪い場所」に変わってしまったのです。

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