VRChat隆盛の転換点「スタンミ世代」の現在──初訪問から現在までの足取りを聞いてみた
2026.01.05
クリエイター
この記事の制作者たち
アニメ映画『ピノキオ』の有名な一節──「There Are No Strings on Me(僕は操り人形じゃない)」と書かれた立て看板を青空に向かって掲げ、若き芸術家たちが歩道に行列をつくる。
1941年5月、カリフォルニア州バーバンクにあるウォルト・ディズニースタジオでは、過酷な労働環境に反発した従業員たちが労働組合を結成し、大規模なストライキを起こしていた。大恐慌の影響が残る中、スタジオは低賃金、長時間労働、そして商業的な作品づくりをスタッフに強いており、ついに彼らの我慢が限界に達したのだ。
このストライキを契機にスタジオを離れたアニメーターたちは戦後、巨大資本に頼らない独自のスタジオを設立し、ユナイテッド・プロダクションズ・オブ・アメリカ(UPA)を結成するメンバーをはじめとする、戦後の自由で創造的な「インディペンデントアニメーション運動」の中心的存在となっていった。
「インディペンデント」とは、「支配されない」という意味をもつ。
80年以上前のストライキに端を発したインディペンデントアニメーションの歴史は、現代まで脈々と受け継がれている。
「The Amazing Digital Circus POP UP STORE」東京会場にて
2017年、オーストラリア在住の任天堂愛好家のケビン、ルークの兄弟がGlitch Productions(グリッチ・プロダクションズ)という独立資本の3DCGアニメーション会社を立ち上げた。2人は任天堂ゲームの二次創作映像を発表する「SMG4」というYouTubeチャンネルで世界中にファンを持つ、筋金入りのギーク兄弟だ。
無人の惑星に住む奇妙なドローンたちの殺し合いを描いた『マーダー・ドローンズ』や、スタジオ最大のヒット作となったゲーム世界を舞台にしたホラーコメディ『アメイジング・デジタル・サーカス』など、彼らは次々と破天荒で独創的な物語を世に送り出している。
『アメイジング・デジタル・サーカス』は、大人向けホラーカートゥーン作品『Hazbin Hotel』(ハズビン・ホテル)で音楽を手がけるGooseworxが監督をつとめる。
注目すべきは、その風変わりな内容だけではなく、彼らの配信プラットフォームをYouTubeに限定している点だ。多くのインディーアニメーションのクリエイターたちが大手制作会社やストリーミングサービスと提携する中、Glitch ProductionsはあくまでYouTubeを主戦場としている。
日本でも、YouTubeに多くの自主制作アニメーションが投稿され、新しい才能が次々と注目を浴びている。しかし、知名度を得た多くのクリエイターたちは、企業案件や大手アニメーション制作会社でのクライアントワークに従事し、自主制作時代の自由な作品づくりを続けられるケースはそう多くない。
そのような状況下で、Glitch Productionsが「自主制作アニメ」ではなく「インディペンデントアニメーション」、いわば“There Are No Strings on Me”の精神を掲げることには、特別な意義があるように感じられる。
『マーダー・ドローンズ』を手掛けたLiam VickersやGooseworxのような、独立系クリエイターたちのアイデアを現実のものにして、実現させる手助けをする彼らの狙いは一体何なのか。Glitch Productionsのインディペンデントとしてのこだわりを、来日したケビン・ルーク兄弟へのインタビューを通じて紐解いていく。
彼らから見る、現在のホラー潮流「ファウンド・フッテージ」や「アナログホラー」の魅力とは?
6月には大阪で、7月には名古屋での「POP UP STORE」も控える中、世界で3億回以上再生されている『アメイジング・デジタル・サーカス』の制作秘話に迫る。
目次
- 明るさとダークさのコントラストに魅せられて──Gooseworxとの出会い
- おもちゃやアニメは卒業するもの、という西洋的価値観を変えたい
- 不安と恐怖は似ているが、非なるものである
- サイコロジカル ホラーとコメディは、対立するものではない
- アナログホラーの特性は、“期待を裏切れること”
左がルーク・ラードウィッチャグル、右がケビン・ラードウィッチャグル
──『アメイジング・デジタル・サーカス』の作成に至った経緯を確認させてください。過去のインタビューでは、Gooseworx監督による、横スクロールアクションゲームを模したホラーアニメーション『Little Runmo』を観て、Gooseworx監督にコンタクトをとったと語っていました。Gooseworx作品の、どのような部分に最も興味を持たれたのでしょうか?
Glitch 『Little Runmo』を初めて観たとき、映像冒頭の明るい雰囲気からダークな雰囲気に変化するコントラストが非常に面白かったんです。
Glitch Productionsという会社のブランドにも合うと感じたので、すぐにGooseworx監督にコンタクトしました。
──Glitch Productionsの前身であるYouTubeチャンネル「SMG4」でも、任天堂などのゲーム映像を使用し、二次創作的な作品を作られていましたよね。ゲームというモチーフ選びへの共感や、自身のイデオロギーに共鳴する点はあったのでしょうか?
※『SMG4』は2011年、当時13歳だったルークの立ち上げたチャンネル。当初は「スーパーマリオ64」のゲーム映像をキャプチャし、キャラクター同士の会話シーンにシュールかつ過激な字幕をつけた二次創作アニメーション映像を投稿していた
Glitch 確かに、『Little Runmo』やGooseworx監督の作品と「SMG4」には共通点があります。最も大きな共通点は、その“奇抜さ”ですね。また、ダークなテーマを作品に潜ませている点も気に入りました。
──『アメイジング・デジタル・サーカス』の作品内容は、プロデューサーと監督が双方に意見を交わしながら進めていったのでしょうか? それとも監督がすべてを考えていたのでしょうか?
Glitch まず、Gooseworx監督から最初に3つほど根幹となるテーマをもらって、そこから現在の作品となるテーマを選びました。ただ、今回の作品に関してはアイデアの99%は彼女が考案したもので、私たちはほとんど手を加えていません。
Glitch Productionsからのフィードバックとしては、YouTubeという媒体で視聴者にどのように響くか、また削除すべき要素があるかなどの調整を行った程度です。
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