『パルワールド』はインディーゲームである、しかし──“猿の暴動”とゲーム業界の倒錯
2024.09.28
クリエイター
この記事の制作者たち
爆発的なヒットを記録するモンスター育成オープンワールドサバイバルクラフトゲーム『パルワールド(Palworld)』が、ゲームシーンで賛否両論を巻き起こしている。
仮想通貨取引所・コインチェック(Coincheck)創業メンバーの溝部拓郎さんが代表取締役をつとめる株式会社ポケットペアが開発・運営する同作。
1月19日にアーリーアクセス版がリリースされると、2月1日時点でSteam版の売上約1200万本を達成。また、Steam Chartsの調査(外部リンク)によれば、最大同時接続プレイヤー数もSteam史上歴代2位となる約210万人を記録している。
国産タイトルのこのような快進撃に注目が集まる一方、『パルワールド』は他のゲーム作品との類似性も数多く指摘されており、物議を醸している。
※本稿は、2024年2月に「KAI-YOU.net」に掲載された記事を再構成したものである。任天堂が「特許権の侵害」で提訴する以前に、著作権の観点から検証した内容となっているが、なぜ任天堂が著作権侵害ではなく特許権侵害で提訴したのかを考える一つの材料となるだろう
目次
- ポケモンにデザインが酷似 賛否を呼ぶ『パルワールド』
- 弁護士の見解「連想させるだけなら著作権侵害は認められない」
- 「著作権が発生する」ことが意味するもの
- 表現の選択の幅や「ありふれた表現ではないか」も検討材料に
- 2022年に起きたゲームのキャラデザに関する訴訟
- 仮にポケモン社がポケットペア社を著作権侵害で訴えたら?
『パルワールド』では、ゲーム中に「パル」というモンスターが100種類以上登場する。その一部のデザインが、ゲーム「ポケットモンスター」シリーズに登場するポケモンに酷似していると、SNSで話題になった。
これらについて、倫理的な観点などから嫌悪感を示す反応が少なからずあった。ゲームプレイヤーのみならず、デザイナーやゲームクリエイター含め、あらゆる角度から様々な意見が飛び交った。
実際のキャラクターと似たようなキャラクターもいますが、あんまり似てないものも多いです。ポケモン以外や過去のファンアートなどが参考にされている可能性もああり、全てを把握することは難しいので、参考程度としてください。良いデザインのキャラも居ると感じています。(2/2) pic.twitter.com/iz6rvNKVHo
— 嘯(しゃお, 𝕏iao) (@xiao_signo028) January 25, 2024
その流れは一部で先鋭化し、制作者に対する誹謗中傷にも発展。代表者の溝部拓郎さんは「制作物の責任は私にあります」と明言し、そうした言動をやめるように呼びかけた。
そんな最中、株式会社ポケモンは「他社ゲームに関するお問い合わせについて」と題した声明を1月25日に公開。
「2024年1月に発売された他社ゲームに関して、ポケモンに類似している」という問い合わせが多数あったことを明らかにし、「ポケモンのいかなる利用も許諾しておりません」と発表している。
そして、「なお、ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です」とした。
では実際、『パルワールド』は法的に問題はないのだろうか。
一連の騒動を受け、KAI-YOUは、“For the Arts”を旗印に芸術活動を支援する法律事務所として知られる「骨董通り法律事務所」に所属する寺内康介弁護士を取材。
KAI-YOU Premiumの連載「クリエイターのための法律Q&A」の特別編として、『パルワールド』について見解を聞いた。
──『パルワールド』に登場するパルの一部は、既存のポケモンにデザインが酷似していると指摘されています。著作権/知的財産権上は問題ないのでしょうか?
寺内康介 まず前提として、著作権では「アイデア」と具体的な「表現」を二分して考えます。具体的な「表現」は保護の対象になりますが、「アイデア」自体は保護の対象にはなりません。
著作権は著作権者を保護するだけのものではなく、既存作品から学んだ人々による新たな創作を阻害しないよう、保護と利用のバランスをとることが役目です。その線引きとしてアイデアが保護されないことは著作権法の大原則です。
その上で、著作権侵害が認められるには、他の著作物に対して「類似性」「依拠性」の2つを満たしているかが問われます。
類似性は、「表現上の本質的な特徴」が類似しているかが争点になります。なので、「あるパルが既存のポケモンなど他の著作物を連想させる」というだけでは、著作権侵害は認められません。法的には、その両者の具体的な表現上の特徴が似ているかを比較することになります。
──世間が『パルワールド』が「ポケモンに似ている」と認識している場合でも、それが法的判断に影響することはないのでしょうか?
寺内康介 「似ている」という声は、アイデアやモチーフ、作風だったりすることも多いですね。
もっとも、著作権法が保護する範囲と世間が「アウト」と思う範囲が異なることも少なくないです。裁判では、そうした世論とは別に、あくまで具体的な表現同士を比べて、本質的特徴が類似しているかの判断になります。
例えば、「リーフィア感がある」と話題になったパル・クルリスのデザインを実際に比較してみましょう。
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