ゲーム文化を蝕む「インディー・アポカリプス」問題──失われた“豊かさ”を求めて
2024.12.29
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かつて、インターネットでの投稿や交流に端を発する「ネットラップ」、ニコニコ動画で隆盛した「ニコラップ」と言われるジャンルが存在した。
2024年、ネットラップを出自に持つラッパーの中でも、卓越したスキルを持つ3人がコラボを果たし、かつての文化や今の活躍を知る人々を騒つかせた。
旗振り役となったのは、ラッパーのJinmenusagi。ラップを始める以前からステージでその活躍を見ていたという先達の2人に声をかけたことから、その曲は実現に至った。
呼びかけに応じたのは、「ニコラップ」の先駆者にして、「World Wide Words」はじめ数々のイベントも手がけるらっぷびと。
そして、RainyBlueBellやFAKE TYPE.でも知られAdoやMori Calliope(森カリオペ)といったアーティストへの楽曲や作詞も手がけるトップハムハット狂 a.k.a. AO。
3人で顔を突き合わせて語り合うのは初めてのこと。「Opp Otaku」Remixを契機に、かつてのネットラップやニコラップのこと、それぞれのオタク/ラップ道を語る座談会を前後編でお届けする。
目次
- 初めて集った、ラップオタクの最高峰
- ネットラッパーならでは? 高いリテラシーに裏打ちされた信頼感と楽曲制作
- 古の、ネットラップにおけるスタンダード
- 「ネットラップ」という総体を語る難しさ ストリートとオタクとの対立
- 「Opp Otaku」の真意? オタク像の変容
トップハムハット狂 それぞれで会うことはあるけど、「Opp Otaku」Remixきっかけで3人で集まったのっていつぶりだろう……?
らっぷびと それこそ10年近く前?
Jinmenusagi たぶんそれくらいだと思います。
──出会いはどれくらいだったのですか?
Jinmenusagi 俺が初めてらっぷさんをリアルで見たの、2009年に新宿MARZでやってた「Nrl」っていうニコラップのイベントに遊びに行った時ですね。それが、現実の世界で本物のラッパーを観た初めてのことだったはず。
トップハムハット狂 俺らは最初はネットかな?
Jinmenusagi AO(トップハムハット狂のかつての名義)さんとはリアルで会う前に、Skypeで遊んでましたよね。
──その懐かしい面々を、「Opp Otaku」Remixが集めたわけですね。そもそも、2023年に発表されたオリジナル版の「Opp Otaku」はどういった経緯から書かれた曲なんですか?
Jinmenusagi 去年の3月から4月頃、仕事がなくて本当に暇で。真っ昼間からPS2の『天誅』っていう忍者のゲームを引っ張り出してプレイしていたんですけど、ゲームの中で条件をクリアすると「免許皆伝」の評価がもらえるんです。それを見ながら「俺、車の免許もないのに忍者の免許皆伝してんのか」とか思って……。本当に暇だったので、もうその状況をそのまま書くしかないな、と思ってつくった曲です。
サバンナも捨てがたいがしかし
わたくしno license
だけどこれが天誅だったら俺は
忍術皆伝
勝手な価値観と感想
押し付けないでだって
お前の頭ん中にある
ラッパーなんて概念
Opp Otakuしばく「Opp Otaku」Remix Jinmenusagiのverseより
──そこからオタクというテーマで、トップハムハット狂さんとらっぷびとさんに依頼しようと。
Jinmenusagi 自分のアルバムである『DONG JING REN(東京人)』の全楽曲リミックスの制作が決まって。「Opp Otaku」は「オタク」がテーマの楽曲ということで、そのテーマでラップできる人を選ぼうと。自分がゲームをモチーフに書いたのと同じレベルの歌詞を書けて、かつラップが上手い人といえば、この2人に頼むほかないだろうと。
トップハムハット狂 最初にウサギから依頼が来たときは嬉しかったし、「あ、俺でいいんだ」みたいな気持ちだった(笑)。ウサギのラップはいちリスナーとして聴いていたから、声をかけてくれたということは、自分という存在を認めてくれているのかな? と。
ただ、タイトルにある「Opp」の意味がよくわからなくて。あえて意味は聞かずに、ネットラップの経験で培ったオタク観をそのまま書き記していけばいいかな、と思ってつくりました。
まん丸肥え太った興味本位
食べる仰山 格別の My new gear
視覚ハック いと奇抜
ピーキーな操作 なぞる指 今じゃ専らMIC「Opp Otaku」Remix トップハムハット狂のverseより
らっぷびと 俺も、ウサギから曲の誘いが来るのは初めてだったので、最初に連絡が来た時は緊張もありましたけど、嬉しかったですね。最初は2人でやるのかな? と思ってたら、「もう1人呼ぶ予定です」と途中で知らされて、それがトップハムハット狂だった……これはシビれる仕事だな、と思いましたね(笑)。
ラップが好きな人たち同士でスキルがずば抜けているラッパーを10人あげるなら誰? という話題で盛り上がると、ウサギとトップハムハット狂は大体名前が挙がる。その2人と俺が一緒に並ぶというのは、相当覚悟のいる仕事だなと。
──Jinmenusagiさんが思い立ったことで、この3人での楽曲が初めて実現したと。歌詞の中では「ラッパー道」がテーマになっていますが、ラッパーとオタクという2つのテーマを扱う際に意識した点はありますか?
らっぷびと アニソンでラップする「らっぷびと」という名前で活動を始めて15年以上経っているので、俺の中では「オタク」と「ラップ」とがほぼ溶け込んでるんですよね。
だから、単なる2つのワードの組み合わせではなく、オタクでありラッパーである自分を自然体としてそのまま出すことを意識しました。バースの最後を「ただラップしている大人」と締めたのは、俺の中ではそれが自然体、つまりこれが俺のラップ道でありオタク道だと。
眠らない街 ザナルカンド
2つの顔持つ 黒羽快斗
毎日ループ エンドレスエイト
あからさまにラッパー道だろ
ダンガンロンパとかまいたちの夜「Opp Otaku」Remix らっぷびとのverseより
トップハムハット狂 俺もらっぷさんと重なるんですけど、自分自身がオタクだというのが前提にあって。音楽制作においても機材とかソフトウェアとか、別に使わないものでも興味が向いたら買ってしまう節があって、そういう部分はかなりオタクなのかなと。そうした自分がどうやって生まれて、なぜここに至ったかということをそのまま書きましたね。
Jinmenusagi 大きな軸は一緒だけど、ゲームだったりアニメだったり漫画だったり違う作品を通っていて、違う時間軸から3人とも“今”へ回帰していく。三者三様で面白いですよね。
それぞれ興味が重なる部分もあるけど、違う分野が好きな3人。作品名は古今東西のものをクロスオーバーさせながら歌っていく中で、違う点を通るけど、結論としては「今やっているのはこれだ」という自分なりの答えで締めるという。
──2人に依頼して届いたバースを聴いた時、どういった印象を受けましたか?
Jinmenusagi 久しぶりに他人のラップを聴いて痺れましたね。自分の見ていない角度から、こういうことを書くんだ!という驚きがあった。『DONG JING REN』の背景として、30代に入ってずいぶん長い期間が空いた後のソロアルバムだったので、自分のルーツをもう1回提示しなきゃいけない作品になるなと思っていて。それで、自分にはネットラップの文脈があるということを説明しておきたかった。
Jinmenusagi そこで「Opp Otaku」を2人に頼んだというのは……これを言うのはめっちゃ恥ずかしいんですけど、「NasとJay-Zと一緒につくっておきたい」みたいな、そういう感情だったんです。
そもそも俺は高校生の時に、らっぷさんにディスソングをつくってますからね(笑)。当時、メジャーでの流通作品をリリースしていたらっぷさんに、高校生からのディスソングなんて成立する次元じゃないんですけど、でもちゃんとアンサーを出してくれた。ネットラップって、そういうことが成立する変な世界だった。
そういう過去のフラグをきちんと回収して、昔はすみませんでした、こういうことができるようになりました、と言いたかったのが一つ。そして今一度、ビジネスのフィールドで何か一緒に作品をつくりませんか? というのがもう一つ。
らっぷびと 自分の中では当時ウサギからディスを受けたとは思っていなかったけど、本人の気持ちが聞けたのは嬉しいですね。自分の中では良い思い出というか、当時からウサギは自分というものを確立していたし、俺はウサギにリスペクトがあったので。ただ、ウサギの話と同じように、自分の中でも無意識的にではあるけど「Opp Otaku」は過去の清算、3人の新たな関係値を築く1曲になっている感覚がありましたね。
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