Column

  • 2024.12.29

ゲーム文化を蝕む「インディー・アポカリプス」問題──失われた“豊かさ”を求めて

膨大なクリエイターが市場に参加できる環境になっても、ヒット作は限られ大半のタイトルは売れない——インディー・アポカリプス。

莫大な数のゲームが登場し「どのゲームを、どういう文脈で遊ぶか」という視点を喪失したインティーゲームシーンの今。

ゲーム文化を蝕む「インディー・アポカリプス」問題──失われた“豊かさ”を求めて

文明が退廃した後の終末的な世界観を描くジャンルにポスト・アポカリプスがある。それが映画や小説といったフィクションの範疇なら、破滅はわかりやすい刺激であるし、終末は現実世界の暗喩として消化できる。

だが、ある文化の名前にポスト・アポカリプスという言葉が織り込まれたなら、その文化は破滅的な何かがあるということなのだろうか?

ビデオゲームの世界では、まさにそんな破滅に例えられた分野がある。それはインディーゲームだ。これは大企業に縛られず、独立した個人クリエイターや小さなチームがつくるゲームを指している。

それが現在、インディー・アポカリプス(Indie Apocalypse、またはindiepocalypse)と呼ばれる事態にある。しかもこの事態は昨日今日始まったことではなく、10年近く続いている。これは簡単に言えば、インディーゲームで膨大なクリエイターが市場に参加できる環境になっても、ヒット作は限られ大半のタイトルは売れないという問題を指している。

この世に様々な文化があるが、 “終末的な世界”と名付けられるようなジャンルは他にあるだろうか。もしある文化が終末的と呼ばれる何かがあるならば、その文化の観客はどうなるのだろうか。

インディー・アポカリプスはクリエイターやパブリッシング側から、ビジネスとしての問題として長らく議論されてきた。だがゲームを遊ぶ側や広める側である、プレイヤーやゲームメディア側にとっての問題はあまり語られていない。そんな中、僕はメディア側としてインディー・アポカリプスという、文化的な終末世界について考えさせる、ある出来事に遭遇する。

目次

  1. ある大学の講義室にて “終末”に出会う——「インディーゲーム、数が多すぎてわからないんですよ」
  2. プレイヤーにとってのインディー・アポカリプス。それは、文脈の喪失
  3. 開発企業、クリエイター……『FFVII Rebirth』に見るプレイヤーが大作ゲームから汲み取る複雑な文脈
  4. 『Bastion』から『Hades』、『Pony Island』から『Inscryption』へ。体験を期待できる人気ジャンルへの転向
  5. 文脈はなぜ形成されないのか? ストアのアルゴリズム、マスメディア、そしてアワードの機能不全
  6. ソーシャルメディアと販売プラットフォームのアルゴリズムの外に、これから文脈をつくるために

ある大学の講義室にて “終末”に出会う——「インディーゲーム、数が多すぎてわからないんですよ」

この前、大学で学術的にゲームを研究するイベントを取材したときのことだ。今、ビデオゲームは世界各国で学術的な研究が活発に行われている分野でもある。ビデオゲームに興味を持つ学生の中では、そんなゲーム研究へ進路を決める人も多い。

ゲーム研究のイベントに参加する学生は、いわばこれからのビデオゲームのシーンを調査したり、研究したりする候補と言えるだろう。そんな学生のひとりと少し話をすると、20歳になったばかりなのに「ドラゴンクエスト」シリーズをファミコンの実機でプレイしており、昔のゲームをよく知っていることから知識もゲーム経験も高いことがわかる。

『Lorelei and the Laser Eyes』

『Lorelei and the Laser Eyes』画像はニンテンドーストアより

「さすがゲーム研究をやろうとする方々だ」と思い、僕が2024年リリースされたなかで、もっとも優れたインディーゲームのアドベンチャーだと感じた『Lorelei and the Laser Eyes』の話をしてみた。

この作品は古くからのアドベンチャーゲームが持つ謎解きや探索の魅力を踏まえつつ、 同時にアドベンチャーゲームの数十年を振り返るかのようなメタフィクションの要素もある、高度な文脈で構成された一作だ。The Game Awardsのインディー部門にもノミネートされていた。だからこそ、このあたりの作品をこれからの学生はどう感じているのか気になっていた。

LORELEI AND THE LASER EYES | Release Date Trailer

ところが学生は急に口ぶりが重くなる。ファミコンの『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』のロンダルキアの洞窟でいかに大変だったかを滑らかに話していたのが嘘みたいだ。話題を小島秀夫氏の話に切り替えると、『DEATH STRANDING』がいかに素晴らしいかという会話になる。

どうもゲーム産業の大手に関わるゲームに詳しいのだが、インディーに関しては会話が途切れる。気になってそのあたりのことを質問してみると、学生は気まずそうにこう言う。「インディーゲーム、ちょっとわからないんですよ。数が多すぎて

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