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  • 2019.12.18

「フリースタイルラップと通訳/翻訳には共通点がある」

2003年、「外人21瞑想」の名で飛び入り参加したB-BOY PARK MCバトルを制した、ヒップホップ・ヘッズを唸らせ続けているラッパーであり、国内最大の通訳大会「同時通訳グランプリ」を制したプロの通訳者でもあるMeiso。「言葉の達人」に聞いた、ストリーミング時代の翻訳者/通訳家。

「フリースタイルラップと通訳/翻訳には共通点がある」

近年、ユーザーの「サブスクリプション疲れ」が表面化するほどに数多くの定額制ストリーミングサービスが乱立し、大作コンテンツが目まぐるしい勢いで次々と投下されている。

映像ストリーミングサービスの最大手であるNetflixでは、1シーズン分のコンテンツを190ヵ国・28の言語で世界同時配信することが通例となっており、ローカライゼーションの規模とサイクルの速さにおいて、劇場映画の「全世界同時公開」とは異なる労力を要する。

グローバル化を念頭にローカライゼーションすることがデフォルトとなっている現在の映像作品市場にあって、ラッパー・通訳家のMeisoは、「翻訳の需要は日に日に高まっている」と話す。

しかしながら、多額の予算をかけて集められる映像クリエイターと、翻訳家の価値のギャップが小さいとは必ずしもいえない実情がある。薄給問題によりストリーミングサービスを避ける翻訳家も存在し、結果として字幕の質の低下も招く。機械翻訳の発展著しく、テクノロジーが言語の壁をなくしている現在にあって、翻訳家はクリエイターではないのか?そんな疑問が残る。

しかし、我々が投げかけかけた問いに、かつての外人21瞑想はこう返す。

原文は楽譜。演奏を託されるのが翻訳家。

取材・執筆:LIT_JAPAN 企画・編集:和田拓也

目次

  1. 言葉を繋ぐ翻訳者の、ラストワンマイルの表現
  2. 効率化とクオリティの両立を試行錯誤するNetflix
  3. 日米での翻訳者の立ち位置
  4. 原文は楽譜。演奏を託されるのが翻訳家

言葉を繋ぐ翻訳者の、ラストワンマイルの表現

Meiso

Meiso

Meisoによると、近年のストリーングサービスにおける翻訳の質は「崩れてきてる印象が強い」という。

「毎回、何かしらの誤訳があって、明らかに間違っているものも頻繁にありますね。仕事で翻訳・通訳をやっているので、音と言葉を照らし合わせて観ちゃう癖があるからなのかも知れないですけど。それでもやはり、以前より誤訳が目立ちます」

これだけコンテンツが大量投下されるにあたり、徹頭徹尾完全な翻訳(など存在しないのだが)は難しいが、先日あるコメディ番組を視聴した際、若者言葉で「カッコつける」「見せびらかす」の意で使われる“flex”という言葉が、大トリのオチで「柔軟に行け!」と直訳されておりズッコけてしまうことがあった。

このようなコロケーション(慣習的に用いられる英単語の組み合わせ)やイディオム、ダブルミーニングをローカライズして翻訳に反映するのは、非常に難しい作業でもある。

「特に字幕は、文字制限もあるのでダブルミーニングを字幕で表現することはかなり難しいですね」と、Meiso。

「とはいえ、”shit hits the fan”(事態が悪化し、取り返しが付かなくなる、の意)が、「うんこがファン(扇風機)に当たったら」みたいに直訳されていると、良い作品なのにもったいないなと感じてしまいます。余計な疑問が生まれて作品への違和感に繋がるので。

だからこそ、翻訳や通訳は訳者のセンスが問われる部分が大きい。そういう意味で、代表的な映像翻訳家の一人、アンゼたかしさんが担当していた映画『ジョーカー』の字幕には舌を巻きました。

映画『ジョーカー』予告

ホアキン・フェニックス演じるジョーカーのネタ帳にあった“I hope my death makes more cents(sense) than my life.”というネタを、『この人生以上に硬貨(高価)な死を』と訳していた。

“make sense(意義ある)”と“make cents(お金になる)”のタブルミーニングをコインの”cent(硬貨)”と価値の”sense(高価)”の漢字でかけていて、高い文脈でもすっと理解できる素晴らしい訳でした」

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