若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
アメリカのコメディアンで急先鋒と目されるハサン・ミンハジのNetflix番組『ハサン・ミンハジ: 愛国者として物申す』。
「Supreme」というポップな話題から「インドの選挙」というディープな話題まで、「ユーモア」を武器に、社会問題と大衆の媒介者となる彼のジョーク(パンチライン)から、世界のいまを読み取る連載シリーズ。
イランの実質ナンバー2であるソレイマニ司令官暗殺がトランプ大統領の命令によるものだったということが衝撃を広がる中、同氏による2011年のツイートが盛んにリツイートされています。
「オバマは再戦を勝ち取るために、イランとの戦争を始めるだろう」
トランプの再戦をかけたテコ入れと、弾劾追訴を逃れようとする思惑が見え隠れする今回のイラン空爆。当時は一介の起業家であったトランプ氏のこのツイートが壮大な伏線になっていようとは。アメリカ国民はその事実に唖然としつつも、RTボタンをタップし続けています。
In order to get elected, @BarackObama will start a war with Iran.
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) November 29, 2011
今回取り上げるNetflix『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』のエピソードが配信されたのは昨年の11月。ちょうどウクライナ・スキャンダルの煽りを受け、トランプの弾劾調査がメディアで騒がれ始めた時期です。案の定、1ヶ月後には米下院本会議で弾劾決議が可決されました。しかし、トランプの弾劾スキャンダルにばかり国民が注目している時こそ、他のスキャンダルが埋もれてしまうとハサンは視聴者に警告します。
「トランプの悪策:難民制度撲滅」(Trump's War On Asylum)と銘打たれた今回のエピソード。そういえばトランプの主要公約だった「メキシコとの国境沿いに壁を建てる」件って、進捗いかがなんでしょうか?
「Build a Wall(メキシコとの国境沿いに壁を建てる)」
2016年の大統領選を代表するトランプ陣営のスローガンも、今ではなんだか懐かしい響きを帯びています。ニュースなどでもめっきり目にしなくなった話題ですが、やはりと言うべきか、壁建設の進捗は芳しくありません。2020年末までに700kmの壁を建設するという公約内容に反して、現時点ではわずか160kmしか完成していません。その160kmも既存の壁の「改修」であるため、新しい壁はほぼ一切建てられていないというのが現状です(外部リンク)。
その代わりと言わんばかりに、トランプが執心しているのが難民制度の破壊です。これはトランプの政策のうちでも最も残酷だとハサンは訴えます。
アメリカはこれまでに難民たちにとっての安住の地としての役割を果たしてきました。第二次大戦後には主にポーランド、ウクライナ、エストニアといった欧州の国々から亡命希望者がアメリカに流入し、同国はユダヤ人などを何千人という単位で受け入れてきました。難民受け入れ体制の確立に尽力した、第33代大統領トルーマンによる1947年の宣言はあまりにも有名です。
「民主国家は戦争や迫害の被害者に生活再建の支援をするべきだ。(中略)友好の土地に根付いてもらう他に、文明的な道はない」
その宣言から70年後の現在、アメリカ南部の国境には、メキシコ及び中米北部地帯(ホンジュラス・エルサルバドル・グアテマラ)からの亡命希望者が殺到しています。彼らのほとんどがギャングによる暴力や誘拐といった被害から逃れるために、自由の国アメリカの門扉を叩きに来ているのです。
しかし、その国境の門はこれまで以上に固く閉ざされています。その上、「メキシコ待機政策(MPP)」によって、およそ5万5千人の難民が申請の聴聞まで国境を跨ぐことを許されず、メキシコ国境沿いで過酷な生活を余儀なくされています。待機中の亡命希望者への暴行や誘拐件数は340件以上が報告されており、劣悪な環境から逃げてきた人々が、さらに過酷な環境に身を置くはめになっているのです。
あまりにも悲惨な亡命希望者たちの現状。しかも「メキシコ待機政策」は難民問題のわずか一部に過ぎません。ハサンは絶妙なジョークを交えながら、この飲み込みづらい現実の全容を明らかにしていきます。
No, that’s just me partying with Epstein.「なんてことはない。トランプはエプスタインとパーティをしていただけだ」 ハサンのパンチライン①
数々の過激な発言やスキャンダルで国民の目をくらますトランプのメディア戦略を「まるでペテン師だ」と評するハサンは、本題の難民制度の話題に入る前に、「トランプの目くらまし」を挙げ、軽いジャブを繰り出します。
「今回取り上げるトランプのスキャンダルは”ハリケーンを核爆破する”発言? いや、違うな。それとも”エプスタイン”との会合かな?」
この”エプスタイン”という単語を聞いた途端に、観客は少し躊躇するように歓声を上げます。観客のどっちつかずの反応をしたり顔で楽しむハサン。一体エプスタインとは何者なのでしょうか?
投資家ジェフリー・エプスタインは、多くの謎に包まれた人物でした。表舞台にはなかなか登場せず、陰謀論者が「影で暗躍する人身売買の帝王」として話題に上げる程度。その陰謀論の内容も、「カリブ海に浮かぶプライベート・アイランド、通称”罪の島”で各界の大物たちに未成年の少女たちを提供している」などといったトンデモぶりです。
そんな彼が昨年の7月6日、未成年の少女を性的に搾取した疑いで逮捕されたのをきっかけに、その陰謀論が真実であったことを裏付ける証拠が次々と白日の下に晒されることになりました。
さらに、彼の元で働いていた執事が保管していた「黒い手帳」の存在が明らかになり、その交友録が波紋を呼びました。手帳に並んでいたのはイスラエル元首相のエフード・バラク、大富豪のデイヴィッド・ロックフェラー、イギリス王位継承権第8位のアンドリュー王子等々の大物たちの名前などなど(New York Times)。
その極めつけがトランプの名前でした。トランプはエプスタインとの交友を以前から公言していたため(外部リンク)、今回こそはトランプもお手上げかと思われました。しかし、そんな矢先にエプスタインが勾留施設で首吊り自殺をしたことが報じられたのです。遺族が依頼した法医学者は他殺を主張していますが、氏の抱える著名人たちの醜聞は永久に闇に葬られることになりました。
皮肉にも陰謀論者が喜びそうな方向に展開してしまったエプスタイン・スキャンダルですが、本件はあくまでも陰謀論の域を出ません。だからこそ、観客もハサンがエプスタインの件を持ち出したことに肩透かしを食らって、笑いで以て反応しているのです。「トランプが本当に隠したいものはそんなものじゃない」。だってアメリカ国民はもう3年以上もトランプ大統領の手管に付き合わされているのですから。
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