米ジャズプレーヤーが解き明かす“J-POP”の正体、音楽的アイデンティティ

Interview

  • 2020.04.06 20:30:00

日本の音楽が持つアイデンディティとは何か。

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米ジャズプレーヤーが解き明かす“J-POP”の正体、音楽的アイデンティティ

グラミー賞ノミネート経験もある第一線のジャズミュージシャンであり、日本のポップカルチャーの熱いファンでもあるパトリック・バートレイJr.はJ-POPの音楽的な特徴を誰よりも鋭く、かつ愛情を持って分析できるミュージシャンの一人だ。

数々の大物ミュージシャンとステージを共にする一方、自らが主宰するプロジェクト「J-MUSIC Ensemble」では多くのJ-POPやアニソン、ゲーム・ミュージックの楽曲を自らアレンジし演奏している彼。 幼い頃からの音楽の英才教育、そしてジャズミュージシャンとしての素養をもとに、J-POPやアニソンの成り立ちをさまざまな角度から分析してきた。

そこでKAI-YOUでは来日したパトリックのロングインタビューを実施。彼自身の生い立ちとアニメ愛をじっくり語ってもらった。

こちらでは、日本の音楽の持つユニークな特徴をパトリックに解き明かしてもらう。

淡谷のり子や坂本九から、AKB48やモーニング娘。、椎名林檎、初音ミクなどさまざまな名前を挙げながらの解説。メロディが持つノスタルジーの感覚、音韻とリズムの関係など……専門的な内容も含まれるが、とても興味深い言葉が次々と綴られる。

インタビュー・執筆:柴那典 通訳:LIT_JAPAN 撮影・編集:和田拓也 取材協力:Jazz Cafe Bar DUGJazz House NARU

“J-POPらしさ”とブラックコミュニティに通底するエッセンス、両者の分岐点

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パトリック・バートレイJr.

──パトリックさんはJ-POPを研究して音楽的に分析してきたということですが、まずはどんな特徴が挙げられますか?

パトリック 僕は日本の社会のあり方が音楽に影響を与えていると考えています。アメリカや西洋社会全般においては「個人」にフォーカスが当てられている一方で、日本では「集団」が重視されているように見えます。これは他のアジア社会でも同じかもしれませんが、その価値観が音楽にも染み込んでいると思います。そこが僕がまず興味深いと思っているところですね。

例えばAKB48やモーニング娘。などを見ていると、これらのグループのメロディ、ダンス、振り付け、ファッションのほとんどが、ある特定のフォーミュラ(公式)に沿って作られていることがわかります。そこにはある種の団結や結束の心理をかき立てるようなものがある。嵐やKAT-TUNなどのジャニーズグループの音楽もそうです。これらのグループが非常にポピュラーなのはそれが理由にあるように思います。

加えて、こうしたグループが歌うメロディは、非常に多くの音が詰め込まれ、早く展開する、日本らしいポップなメロディです。それがJ-POPのユニークさを生み出していると思います。

──日本らしいメロディということですが、それはどういうものですか?

パトリック いくつかのメロディの発想があり、それを理解していればこんな風に15秒で「J-POPっぽい」音楽を作ることができます(と、鼻歌でメロディを歌う)。多くの日本の作曲家は、こうした聴き馴染みのあるメロディを生み出しています。日本の素晴らしいキーボーディストであるBIG YUKIとセッションをしたときにも、「なあ、俺、J-POP風メロディを10秒で作れるよ。作りたいなら作るよ! 500万円!(笑)」と言って、即興でメロディを歌ったことがありました。日本の作曲家は、この「聴き馴染みのあるフィーリング」をリスナーから引き出す方法を理解しているように思います。これは僕にとってすごく興味深いコンセプトとフィーリングなんです。

──パトリックさんがジャズを学んだ経験は、日本の音楽を分析する上で役立ちましたか?

パトリック もちろんです。ジャズという音楽は、他のどのジャンルよりも深堀りしないと音楽の全体像が見えないジャンルだと思うんですね。学習することで音楽のより深い部分が見抜けるようになる。少なくともプレイヤーにはそれが求められます。かつ、ジャズは、大胆で冒険的なプレイヤーたちが、他のタイプの音楽からコンセプトや音楽理論を引っ張ってきて取り込み続けているジャンルです。

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パトリック つまり、重要なのは、ジャズミュージシャンは楽曲構造や高度な音楽理論を勉強し、その上で新しいものを作ることが求められるということです。即興で新しいものを作り出し、楽譜には書かれていないニュアンスを高いレベルで表現する必要がある。だから、僕たちは、一つの和音を聴いたときに、それを解釈して拡張する様々な可能性が”聴こえている”んです。即興演奏においては、高度な集中力と、高度な音楽理論の知識を総動員しなければいけない。ジャズミュージシャンはそれをコンスタントに行う訓練を積んでいるわけです。

──そうした視点を踏まえて、パトリックさんに“聴こえる”可能性とはどういうものでしょうか?

パトリック 日本の音楽を聴いていて一番面白いなと思うのは、ジャズやクラシックのミュージシャンであれば普通は演奏しない音が聴こえてくることです。特に、日本の音楽はノスタルジア、伝統、家族といった感情を呼び起こすんですね。それがたとえ荒々しいメタルやビジュアル系のサウンドであってもそうです。日本の文化と心には、ノスタルジアや故郷に関する感覚が深く刻まれているように聴こえるんです。これはアメリカの文化圏で確立されているものとは真逆です。アメリカでは「故郷から逃げ出したい」「自分のアイデンティティを見つけたい」「新天地でチャンスを手にしたい」「ヒップでクールでいたい」という感じなんですね。

ジャズミュージシャンにもそういう側面がありますが、その気持ちはまた別のところから来ているんです。ブラック・コミュニティの”もがき”、つまり不自由だった奴隷時代以降のアイデンティティの欠如から来ている。だからこそ僕はその経験を”僕の耳で聴こえている”日本の音楽に取り入れているし、さらにその経験を日本の音楽に注入したいと思っているんです。ジャズに影響を受けた日本の作曲家たちも、そういう風に自分なりの経験を音楽に取り入れていると思います。

──それは例えばどなたでしょう?

パトリック 服部良一がまさにそうです。彼が書いた、淡谷のり子の「別れのブルース」まで遡ります。ジャズが持つ自由やアイデンティティを渇望する心と、日本のアイデンティティが比較されている。それがとても面白いんです。

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