若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
「俺妹」「はがない」「俺ガイル」…ラノベの学園ラブコメは、社会におけるオタク感の変遷とスクールカーストとともに移り変わってきた。
ライトノベルの歴史が振り返られる機会は意外に少ない。
ライトノベルは、戦前の少年小説や戦後間もなく刊行されはじめたジュブナイル小説などを祖として、80年代後半から90年代初頭にかけて生まれた小説の一ジャンルだ。主な読者層は10代や20代とされ、アニメや漫画などのコンテンツと密接な関係を保っている。
ライトノベルについては、ゼロ年代中期に東浩紀や新城カズマらが中心となった批評ブームは存在したものの、その流れは数年で鎮火。
それらに追随する流れとしては、大学教員の大橋崇行と山中智省らによる「ライトノベル研究会」の諸活動があったが、それも今春に刊行された『小説の生存戦略』(青弓社)を最後に解散を発表。
タニグチリウイチや前島賢らの書評によってその存在は単発的に取り上げられ続けているも、批評の文脈は完全に途絶えたといっても過言ではないだろう。
加えて、10年代に入ってからライトノベルの主流になっているWeb小説の書籍化をはじめ、現在のムーブメントを捉えたものはほぼ見られない。
そこで本連載では、ライトノベル批評がほぼ途絶えたゼロ年代中期以降に主眼を置き、各回ごとに一つのテーマを取り上げ、その変化と流れについて言及・考察する。
初回となる第1回では、現在でもなお人気を得ている「学園ラブコメ」にスポットライトを当てる。
文:羽海野渉=太田祥暉(TARKUS) 編集:新見直
目次
80年代後半に発生した宮崎勤による「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」は、その後数十年間、オタク=「虚構と現実の境界が曖昧で事件を起こしかねない犯罪者予備軍」とのレッテルを貼るほどの大きな衝撃を与えた。
それによって、アニメや漫画・ゲームを愛好するオタクたちはさらに蔑まれ、教室内での地位=スクールカーストでは下位になってしまっていた。
筆者の地元である静岡では、その価値観が2010年代初頭まで根強く残っており、祖父母の世代ともなれば「漫画を読むだけで恥ずかしい」というのは共通認識となっていた(なお、筆者は現在23歳。2010年には13歳だった)。
そんな「オタク」=「恥ずかしくて隠したいもの」という認識が如実に現れた作品が、五十嵐雄策による『乃木坂春香の秘密』(電撃文庫,2004)だった。才色兼備なお嬢様だが隠れオタクのヒロイン・乃木坂春香が、ひょんなことから自身がそういった趣味を持っていることを主人公・綾瀬裕人に知られてしまう……という出来事からはじまるラブコメディである。
本作は、スクールカーストの上位に属するお嬢様が、下位になりかねない恥ずかしい趣味を持っているという共通認識のもとに描かれている。しかし、主人公はその趣味にも寛容な態度を示すことが本作の肝だった。
そんな『乃木坂春香の秘密』がヒットしたことを契機として、主人公ないしヒロインがオタクであり、戦闘描写や異能・SFなども何もなしに、恋愛描写へ主眼をおいたライトノベルが多数登場するようになる。
その流れの中、ゼロ年代後半にある作品が大きなムーブメントを生み出した。伏見つかさによる『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫,2008)である。
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