「勿忘」から考える、ヒットのメカニズム　大石昌良×atagi（Awesome City Club）対談

なぜ、あの曲は人の心を掴むのか？

それぞれ大ヒット作を持つ音楽家2人が、本気で“ヒット”について考えてみた。

クリエイター

この記事の制作者たち

大石昌良

ホスト

atagi（Awesome City Club）

ゲスト

オグマフミヤ

取材・執筆

川島彩水

撮影

日野綾

取材・編集

「ヒットは事故」「だけど、起きる確率を上げることはできる」。

それぞれ社会現象を巻き起こすほどのスマッシュヒットを経験した2人の音楽家が交わした言葉だ。

映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとして制作された「勿忘」が2021年を代表するヒットソングとなり、Awesome City Club（オーサムシティクラブ）は、今年上半期に最もブレイクしたバンドとして引っ張りだこだ。

「勿忘」は、男女のツインボーカルが描き出す切なくも美しいハーモニーで人々の心を捉え、ラブソングの最新形としてポップミュージック史における新たな特異点となりつつある。

Awesome City Club / 勿忘 (MUSIC VIDEO)

そのAwesome City Clubの作詞・作曲を手がけるatagiを迎えるのは、対談連載「音楽にも物語を」のホストである大石昌良だ。自身も作詞・作曲・編曲をすべて手がけた「ようこそジャパリパークへ」で大ヒットを経験している稀代のソングライターは、その物語性で高い評価を得る「勿忘」のヒットは必然として賛辞を惜しまない。

エンターテインメントが消費される速度は上がり続け、そのトレンドも一瞬で移り変わる現代において、長く愛され続ける楽曲をつくり出すのはまさしく偉業である。その偉業を成し遂げた今、atagiの目には何が見えているのか。

目次
「オーイシ×加藤のニコ生☆音楽王」の功績
ヒットはある種の混沌
日本の音楽史上初クラファンでCDリリースしたオーサム
事故の確率を上げる

「オーイシ×加藤のニコ生☆音楽王」の功績

「大石さんとの対談なら」と、忙しい合間を縫って駆け付けてくださったatagiさん

──お二人はいつからのご縁なのでしょうか？

大石　僕と加藤純一くんがニコ生でやっていた「オーイシ×加藤のニコ生☆音楽王」という番組に、2018年にゲストで来てもらったのが初めてでしたね。今やってる「ピザラジ」（オーイシ×加藤のピザラジオ）にも出てもらったりしてもう3年くらいの付き合いだけど、あんまり音楽の話をした記憶がなかったので改めてお話したいなと。

atagi　僕はそれ以前から大石さんのことを一方的に存じ上げてまして、出会いは鮮明に覚えてます。高校生の頃に焼き肉屋でバイトしてたんですけど、そこの有線放送で（大石さんがボーカルをつとめる）Sound Scheduleを聴いたのが一番最初でした。

atagiさんがバイト先で出会った「ピーターパン・シンドローム」

大石　atagiくんは、純ちゃんの大ファンでもあるんだよね？ Wikipediaにも「加藤純一のファンであると公言」って書いてありました（笑）。

atagi　それもありまして、「音楽王」が始まった時からずーっと「出たい！」ってレーベルの人に言ってたんです。

大石　「音楽王」はインターネットの底辺のおこげみたいな番組なのに、オーサムのようなオシャレバンドがきてくれるなんてどうしようって話はこっちもしてたんです。

atagi　単純にお二人のファンでもありましたし、あの番組の何がすごいって、音楽への愛がしっかりあってちゃんと音楽番組をしてたことなんですよ。

ゲストのラインナップもすごくて、曽我部恵一さんまで呼んでたじゃないですか。

幅広いアーティストが出演されてましたけど、そのあらゆる音楽性を大石さんが全部受け止めてわからない人に向けて言語化してくれるので、特殊だけどすごいしっかり音楽番組だと思ってました。

大石　確かに、難しい言葉はあんまり使わないようにしてました。

メインの視聴者層は音楽のこと全く知らないインターネット好きだと思って、そういう方々にどうやって届けるかを純ちゃんやスタッフさんと考えてたから、伝わってて嬉しいですね。

atagi　出演後のミュージシャン界隈からの反響もすごかったです。「音楽王」に出させてもらって以降、改めて大石さんをチェックしていると毎週新曲出してない!? みたいなペースで活動されているので本当に驚きました。

大石　僕も共演して以降はオーサムを身内のように感じていたので、最近の快進撃を見てはもう諸手を上げて喜んでたんです。僕は本来嫉妬しいで、他の人たちがヒットして上に行くと悔しかったりしたんだけど、オーサムに関してはただただ嬉しかった。