きっかけは「祖母の介護」日本のVTuberが中国で築いたシンデレラストーリー
2021.12.26
KAI-YOU Premium編集長の新見直が振り返る1年と、コンテンツに託したテーマ。
クリエイター
この記事の制作者たち
2019年3月にリリースした「KAI-YOU Premium」も1年が経ちました。
“ポップカルチャーの未来に種を蒔く”をテーマに、日本初※となるポップカルチャー専門のサブスクリプション型メディアとして幸先の良いスタートを切ることができました。
※当社調べ
これもひとえに登録いただいているユーザーの皆様のおかげです。ありがとうございます!!
いくつかのテーマを設定しジャンル横断的にコンテンツを発信していますが、ここでは補助線的な意味で、これまでの内容の一部をそのテーマと共に振り返ってみます。
まず意識したのは、これまであまりメディアに露出していないながら、話を聞いてみたいと強く思うクリエイターや作家さんにご登場いただいたことだ。
例えば、勃興するバーチャルYouTuber(VTuber)シーンにあって、企業運営の企業勢が多い中、“個人勢”の星として今なお強い強い存在感を発揮するバーチャルYouTuber(VTuber)のピーナッツくんや、自身の妹「甲賀流忍者!ぽんぽこ」のプロデューサーでもある兄ぽこさんのインタビュー。
背景を知らない人にはピンと来ないかもしれないが、要するにこれは、表立って触れること自体がタブー視されているVTuberの“中の人”に中の人としてインタビューするという異例の取材でもあった。
また、最近メディア露出は増えてきたが、当時いくつかの雑誌でのインタビューしかなかった、2019年の国内HIPHOPシーンで最もプロップスを高めたクルー・舐達麻へのロングインタビューも大きな反響をいただいた。
断片的にしか語られて来なかった彼らの過去と、強い哲学で裏打ちされているその活動について、じっくり話を聞くことができた。
もう一つ、KAI-YOU Premium名物連載の一つである、音楽クリエイター・大石昌良さんによる対談連載。
大石昌良さんは雑誌やWebメディアふくめて露出は多いが、同じく最前線で活躍するクリエイターとの対談という座組での希少価値は高く、すでに7組との対談を果たしている。
全くジャンルは異なるが、いずれにも共通していることがある。そのクリエイティブが突き抜けている点はもちろん、独立独歩による個人志向が強い3組であるという点だ。
彼らは自営業者である自身を意識し、「自らがどう振る舞うべきか」という点に強くこだわり、考え抜き、一歩一歩あゆみを進めている。
取材の場で直接対峙した我々だけではなく、それは、インタビューの端々から感じ取ってもらえるはずだ。
そして、「個の時代」というテーマでは、プロとアマとの拮抗を、ストーリーのみならず突然の連載終了と同人活動という作品の連載それ自体でも顕在化してみせたバンド漫画『ロッキンユー!!!』作者の石川香織さんへのインタビューや、
学生の有志らの手によって生まれ今ではネット小説の巨大なプラットフォームとなった「なろう」こと「小説家になろう」のデータや設計思想に迫ったインタビューも。
記者や編集者という仕事の醍醐味の一つとして、書籍やブラウザの向こう側にいる才能を直接目にできる点も挙げられる。
感じるのは、全くかけ離れたジャンルであっても、ある分野において優れた功績をあげている成功者には、どこかで必ず共通した所作や哲学のようなものが存在する。
例えば前述の連載の中で、大石昌良さんと、『けいおん!』などで知られるTom-H@ckさんが口を揃えて言うのは、「成功したければ成功者の傍にいろ」ということだ。
実は全く同じ言葉を、KAI-YOU Premiumリリース1発目に取材させていただいた思想家・東浩紀さんの口からも聞いていた。
現代の日本を代表する思想家である東浩紀さんは、かつては雑誌を、現在はリアルな場所という形で討論を発信し才能が集う運動体としての場作りを行なっている。
思想家であり経営者であるという、日本では珍しいというか“異端”の彼が、「哲学者になりたければ哲学者のいるところにいればいい」と言っていたのが印象的だった。
場作りという点では、かつては“教養の交差点”だった本屋が、もう20年来、出版不況からくる撤退戦を余儀なくされている。
下北沢の「本屋 B&B」の内沼晋太郎さんと、六本木で人気を博す有料書店「文喫」の有地和毅さんは、今的な本屋の役割とどのような場が必要なのかについて、刺激的な議論を交わしている。
この1年にも、いくつかの痛ましい事件が起きた。それをきっかけに、守るもののない立場からの凶行を意味する“無敵の人”という言葉が再び取り沙汰された。
その言葉の提唱者であるひろゆきさんに、今こそ話をうかがいたいと考えた筆者は人づてにコンタクトをとってもらった。
同時に、現在パリに在住するひろゆきさんに、「官民が協力するクールジャパンはなぜ失敗したのか?」と改めて問いかけている。
漫画やアニメといったポップカルチャー領域では今の時点では日本が最前線を走っているが、アジア諸国に目を向けると、音楽や文学、映画といった領域ではやはり韓国のコンテンツパワーが際立っている。そこで複数領域から韓国カルチャーに切り込む連載を、批評集団のRhetoricaメンバーに執筆いただいた。
文学や映画に留まらず、IZ*ONEから見る韓国芸能の特異性を辿り始めたことをきっかけに、のちに日韓のアイドル/芸能を揺るがす事態に発展した「PRODUCE 101」の投票不正捜査問題と接待容疑について、韓国の芸能ジャーナリストにインタビューさせてもらうという機会を得た。
それは決して対岸の火事ではなく、今も日本において常に突き付けられている“真正であるとはどういうことか”を省みる僥倖ととることもあるいはできるかもしれない。
他方、テレビ的に重宝され“キャラクター”として面白がられ(気持ち悪がられ)る日本のバラエティーを象徴するクロちゃんと、「はるかぜちゃん」こと春名風花さんとの対話を通して、日本的な大衆文化とキャラクター消費が浮き彫りになっている。
また、日本人として21年ぶりにカンヌのパルム・ドールを受賞した是枝裕之監督の『万引き家族』に呼応するかのようなテーマ性でアジア人初のアカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホへのインタビューと、本編で描かれた韓国の土着的文化となぜそれが国境を超えたのかについて考察するレビューを、KAI-YOU.netと連動で掲載している。
また、韓国カルチャーにおける当事者からの重要な証言を取り上げた2つのインタビューも。
かたや、クラブシーンで活躍する若き音楽プロデューサー
かたや、韓国のユースカルチャーと共に並走し続けるインディペンデントファッション誌の編集長
彼らは、それぞれのジャンルの発展とその可能性、だけではない“怒り”について、慎重に言葉を割いてくれた。
国家間の緊張間が高まり続ける現在において、雑誌批評という形で、『ニューズウィーク』の「百田尚樹現象」特集やリニューアルした文芸誌『文藝』の「韓国・フェミニズム・日本」特集といった、時代のうねりを見逃すまいとするメディアをつぶさにすくいあげる文筆家・仲俣暁生さんによる精緻なコラムや
「越境する音楽家たち」と題してボーダーレスな活動を展開する音楽家の言葉に耳を傾ける連載も始まっている。
また、サブスクリプションは、音楽やアニメ、映画といったあらゆる領域の越境を推し進める強いプラットフォームとなった。
日本のスタンダップコメディーではあまりお目にかかれない、熱心な勉強と検証と皮肉たっぷりのブラックユーモアを交えたハサン・ミンハジの『愛国者として物申す』のような番組があるかと思えば
巨大麻薬組織と捜査官達との死闘を、実話を元に描いた『ナルコス』から始まる古今東西のドラッグムービーの、レビューさえ追いつかないせわしない供給スピードには目を見張るものがある。
グローバル化の著しいアニメにおいても、国内外の環境に目を向けることは重要な意味を持つように思う。
そして、そうしたサブスクリプションによるグローバル化の根幹を下支えしているのは、何もコンテンツホルダーとプラットフォーマーだけではない。
言葉の壁を乗り越えるために、ますますそのニーズが高騰している翻訳者・通訳者の存在を忘れてはならない。
かつて2003年のB-BOY PARKで般若や漢を押さえて優勝した「外人21瞑想」としてその名をヒップホップシーンに轟かせたラッパーで、今では「同時通訳グランプリ」で優勝するほどの凄腕通訳者として活躍するMEISOさんに、その実状を話してもらった。
世界を席巻するヒップホップ。それぞれのラッパーのリリック解説を通して、当人の置かれた環境や政治的背景(日本では馴染みが薄くても)、それぞれの哲学に迫ることができるだろう。
日本のHIPHOPシーンにももっと目を向けたい。前述の舐達麻だけではなく、威勢のいい連中は若い世代にも存在する。中指系ヒップホップ集団「ARKHAM」もその一つだ。
若いラッパーがなぜ“生き急ぐ”のか。先輩ラッパーやヒップホップ関係者さえ首をかしげるこの疑問について、素直に問いを投げかけた。
彼らは極端で異端だが、その言動からは、今の若年層が抱える感覚が痛々しいほどに透けて見える。
また、ヒップホップやますます隆盛するバトルシーンにもその身を投じるラッパー・小説家のハハノシキュウさんの、悲喜こもごもの徒然なる日々を綴る連載も出色だ。
そもそもヒップホップが塗り替えた価値は、何もブラックミュージックだけではない、という話にも耳を傾けたい。
共にヒップホップと切っても切れない関係にある文化として、下手にWeedを売るよりも金になると言われているスニーカービジネスの最前線を見た。
新たな未来を切り開くYouTuberを差し置いて現在のポップカルチャーは語れない。
2010年代のYouTuberの炎上史を語る上で真っ先に上がるVALU騒動を経て再起を果たした禁断ボーイズへのインタビューや
元子役でドロップアウト後に再び復帰、現在では押しも押されもせぬ人気女性YouTuberとなったてんちむさん
ひたすら真っ直ぐに視聴者の方だけを向いているYouTuberたちのストイックさたるや。
そして、YouTuberシーンに芸能界から真っ先に殴り込みをかけた元SMAPのメンバーによる新しい地図。その彼らに楽曲を提供する弱冠16歳のSASUKEさんは才能の塊だろう。
さらには、ネット発カルチャーとして瞬く間に日本のインターネットを席巻したバーチャルYouTuber(VTuber)の存在がある。
バーチャルガールズユニット・KMNZプロデューサーによるバーチャルの可能性についての考察や
前述のピーナッツくんやぽんぽこに加え、「ストロングゼロの擬人化」と言われた横紙破り系VTuber・輝夜月さんや
そのキャラクターデザインを手がけた「輝夜月ちゃんのママ」ことイラストレーターのMika Pikazoさん
歌唱力に映像、ライブ演出、ストーリーすべてが一級品のバーチャルシンガー・花譜さんとそのプロデューサー・PIEDPIPERへの取材
そして、その花譜さんの音楽プロデュースであり、今に続く新たなボカロブームの嚆矢となり若年層のネットユーザーから熱狂的な支持を集める「命に嫌われている。」で知られるカンザキイオリさん
ボーカロイドと人間がデュエットするというめずらしいアプローチで2018年を代表するヒット曲となった「ロキ」を手がけたみきとPさん
ブームは変奏され、時代を超えてカルチャーとなっていくのかもしれない。その渦中にいる当事者たちの声に耳を傾けたい。
KAI-YOUの人間は(良くも悪くも)個人の好みが非常にはっきりしていて、例えば副代表でもある私と代表の米村とであっても、作品の好みが一致することなんてあまりない。
2018年に刊行された藤田祥平さんによる『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』という小説はその意味で稀有だった。なにせ2人が2人とも手放しで「これは(2018年)最高峰の小説だ」と(偉そうにも)評したのだから。
これは私のごく個人的な考えだが、ものを書くということは、遠回りをすることだと思っている。言葉は行動から遅れ、文字は言葉からも遅れる。
しかし、遠回りすることでしか手をかけることができないある種の真理というものが存在する。藤田祥平という人間の書くものはいずれも、必ずその真理に手を伸ばそうという覚悟が色濃く現れている。
また、e-Sportsという文脈で言えば、細川侑也さんの連載も。
「世界と遊ぶ」を語源とするKAI-YOUは、衣食住よりも遊の価値を尊重してきた。翻って、e-Sportsとは遊びをそのまま仕事にするというラジカルな特性を備えている。
そして、「遊びを仕事にする」という文脈においては、えなこさんの特集もテーマは通底している。
もともと二次創作、同人のジャンルであった「コスプレ」は、今では多大な広がりを持ち始めている。
日本のコスプレシーンの名実ともにトッププレイヤーとして君臨し、えなこ以前/以降のコスプレ文化を考える上で、本人の取材を通して考える、「コスプレはいかにしてビジネスとして成立し得るのか」という命題に迫っている。
「KAI-YOU.net」編集長を退任する際にも書いたが、“広く遠くに”届けるための「KAI-YOU.net」と、“狭く近くに”深めるための「KAI-YOU Premium」という両輪が、これからは必要だと考えている。
こちらが受け止める準備さえできていれば、世界の奥行きに気付かせてくれる扉は、いつでもどこにでもあると思っているが、「KAI-YOU Premium」もその入り口となれば幸いである。
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