なぜ椎名もた「少女A」は世界的ボカロ曲になったのか? 発端となった海外発の二次創作クリエイターを直撃
2024.11.08
クリエイター
この記事の制作者たち
ここに一枚の遊戯王カードがある。
カード名は「黄泉転輪」。アニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』のドーマ編にて闇遊戯の切り札として登場し、ラフェール戦を決着へと導いたキーカード。にもかかわらず、いまだOCG化されていないことで知られるアニメオリジナルカード……の、中国製のパチモンだ。
今なお中国からカードを箱買いすると平気で紛れ込んでくる真っ当なコレクター泣かせの偽造品でもあり、現地中国ではこれを好き好んで集める歪んだコレクターもいるほどの貴重品でもある。
その特徴は、カードイラストが「手描き」であること。もう一度画像をよく見てもらいたい。
このパチモン、皆さんもよく知るであろう一般的なコピー品とは違い、なぜか手間暇かけて本物に似せたイラストを自分たちで描き起こしているのだ。
中国語では「手绘卡」とも呼ばれるこれらの手描き海賊版カード、製造されていたのは主に2000年代前半のみという非常に短い期間だったと考えられている。
奇しくもちょうどそのころ放送されていたアニメ遊戯王では、レアカードの偽造密売を手掛けるグールズという闇の組織が登場していたが、彼らのような存在がカードのイラストを見よう見まねで真似してカードを複製する姿というのは……さすがに想像しづらいものがあるだろう。
ではなぜ、現実社会におけるグールズとも呼ぶべき中国のパチモン遊戯王業者たちは、わざわざ手描きのカードをつくっていたのだろうか? その理由を説明するためには、「2000年代前半の中国で遊戯王を遊ぶ」とはどういう行為だったのかを振り返る必要がある。
目次
- 国内で放送も流通もしていないアニメのカードゲームを、それでも遊ぶには?
- 「我々は“本物”のカードを売ってます」パチモンメーカーZZ少年館の秘術
- 違法動画のキャプチャから生まれた低画質カードから、手書きカードが生まれるまで
- 金輪際生まれない、不世出の「海賊版遊戯王カード」たちに圧倒される
- パチモンブランド「ZZ少年館」が辿った数奇な運命と、彼らが残した遺産<レガシー>
- もう一度問おう──皆さんはどうやって本物のカードを“本物”だと判断するのか?
早速だが、皆さんは普段どうやって本物のカードを“本物”だと判断しているだろうか。
正規品と海賊版には当然ながらいくつかの違いがある。例えばカードの色。同じ画像をコピーしても印刷時のインクの違いでカードの色味は異なってくるため、わかっている人間なら違いは一目瞭然。紙の違いも重要で、正規品は表面に多少のざらつきがあり厚みも均一な一方、海賊版はやけにツルツルしていたり逆にゴワゴワしていたりする。
とは言え、ここで聞いているのはそういう意味の質問ではない。「あなたはどうやって正式品に正式なライセンス契約があると判断しているのですか?」という、もっと根本的な部分についてのお話だ。
これを読んでいるほぼほとんどの人にしろ、さすがに一枚一枚のカードにライセンス契約が正しく交わされているかを版元に問い合わせたことはないだろう。つまり我々がお店で売っている正規品を「正しくライセンスを受けたものだ」と当たり前に認識している背景には、「原作が連載されているジャンプ公式で紹介されていたから」とか、「公式大会やイベントで取り扱いがあったから」とか、「売ってるお店がまだ訴えられていないから」とか、そうした周辺情報の積み重ねがあり、それらを総合的に判断した結果ということになる。
しかし2002年の中国では、遊戯王が連載されているジャンプなんてそもそも市販されていない。香港や台湾では一部海外から輸入された外国語版の流通が始まってはいたものの、正規版遊戯王カード中国語版の展開が始まったのは2014年、大陸向けはさらに遅れて2020年からで、公式告知など当時は影も形もなかった。
公式大会ももちろん皆無。偽物を売る町のおもちゃ屋も野放しで、彼らが訴えられることはほぼなかった。商品にコピーライトがあるかどうかで判断できる……というのは、ちょっと無理筋な話だ。パチモンはコピーライト表記も丸ごとパクるものなのだから。
要は、当時の中国は文字通りの無法地帯だったということだ。そうした社会には信頼に足る公式が存在しないので、ユーザーは何を根拠に本物を“本物”だと判断すればよいのかがわからなくなってしまう。パチモン業者にとっても悩みは同じで、彼らにしたってどうすれば自分たちの商品を本物らしく見せかけられるかは死活問題だっただろう。
しかし、実はこの難問に一つ、明確な解決策を示したパチモン業者があった。彼らの名前は「ZZ少年館」。驚くべきことに現在もなお活動を続けている、中国で最も有名な海賊版遊戯王ブランドだ。
なにせ、彼らの生き残りは今もなお、「我々は“本物”のカードを売ってます」という売り文句で海賊版の遊戯王カードを売り続けているのだから。
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